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「それじゃあ、注文が決まったらまた呼んで」
何時も座る席に通されて、抱っこしていたヒイラギを椅子に座らせたのは良いけれど……それだと視界が悪すぎるよね。流石に。子供用の椅子を貰って来ようかと思って立ち上がろうとしたら、突然ヒイラギは膝に座って来ようとするではないか。
一生懸命によじ登る姿もまた可愛らしい。小さくなっていなかったら突き飛ばしている所だけど(膝に座ろうとしないか)、小さいままの間はよほど酷い事でない限りやらせてあげよう。
「ほら」
さっき抱っこした時も思ったけれど、ヒイラギってば本当に軽い。だから長時間持っていても苦痛ではない。まだ上手くよじ登れていないヒイラギを自分の膝に座らせれば、ヒイラギは何だかご満悦の様子だ。
「……ヒイラギだけどヒイラギじゃない」
「言うな、玲さんの効果があるとはいえ噛むぞ」
サトルが物珍しそうな目で見ていると、倉山は溜息を吐いた。何故マスターにも見えているかの事情は後にして、まずは注文をしないとね。普段のヒイラギならコーヒーを頼むけれど今のヒイラギには苦すぎるから無理だろうな。
「……ん? 何か書くの?」
膝の上で一生懸命身振り手振り何かをしているから、何かと思えば紙とペンを要求しているようだった。そうか。そう言えば言っていたっけか。ひらがななら書ける、って。
話を聞いていたらしいサトルがヒイラギを入れていたボストンバッグから紙とペンを取り出し、ヒイラギに渡すと、ヒイラギは慌てるように文字を書きだした。
「えーっと…………“こーひー”? え? 大丈夫なの?」
ヒイラギは何度も首を縦に振って、大丈夫だと言う事をアピールする。でも本人が平気でも私が平気じゃない。苦くて飲めませんでした、じゃマスターに失礼すぎる。いくら言ってもコーヒーじゃなきゃ駄目なようで、ずっと頑なにそれ以外の飲み物は拒んでいる。困り果てていると倉山が助け船を出してくれた。
「無理なら俺が飲むから」
と。本当にこう言う時は頼りになるね。ヒイラギはその言葉に不満だったのか倉山を今にも噛みそうな勢いで睨んでいるけれど。それじゃあ私はヒイラギと半分こ出来るようにりんごジュースにしよう。あとレジの前に並んでいるクッキーも買ってきたい……けど、無理か。注文の時に持ってきてもらおうっと。
「すみませーん」
一通りの注文を終えた所で、注文した物が来るまでの間の時間。まず倉山は何故金色の瞳のままのヒイラギがマスターにも見えているのかを教えてくれた。簡単に言ってしまえば必ずしも瞳の色を死神の時と人間の時と変える必要はないとの事。
ヒイラギの場合、人間には有り得ない金色の目だから普段は青くしているそうだ。ちなみに倉山達は特に変える必要はない瞳の色だけど、瞳の色とかを聞かれるのは面倒らしいから変えていると教えてくれた。
「だから今のヒイラギはしっかり俺達同様人間になっているって事だ。まあ、大きさからしてあっちは人形だとでも思っているかもしれないな」
なんだか一つ勉強になった所で、次の議題。だけどその前に全員分の飲み物が到着した。
「ミルク入れる? お砂糖は?」
ヒイラギは早く飲みたかったのか、どっちに対してもいらないと言うかのように首を振った。無理矢理どちらかを入れようとしても手ではねのけようと必死だ。
「もう、知らないよ?」
その一言に感激したのか、カップを持てないからスプーンでコーヒーをそそくさとすくって、嬉しそうに頬張った。そんなに飲みたかったのかな……。でも次の瞬間には。
「ほら、だから言ったじゃない!」
苦さに驚いて悶えているヒイラギの姿がそこにあった。まだ手を付けていないりんごジュースを飲ませて、落ち着きを取り戻させたけど……。
「何で俺を睨むんだ」
倉山は一切悪くないのに倉山を悪者扱いするように見つめていた。




