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「……で、僕を呼んだ訳ね」
保護者、もといヒイラギの監視役の玲さんだ。やはり物分かりが良かったのかすぐに事情を飲み込んでくれた。こう言う人で本当に助かる。
しかしこのヒイラギ(だと思われる物体)の警戒心は相変わらずのようで。玲さんに連絡を取って此処に来てもらうまでの間、そのダボダボの服のままじゃ可哀相だと思い、せめてタオルか何か服の代わりになるような物を羽織らせようと試みたものの、やっぱり噛みつこうとしてくる。
と言うか、無理矢理やろうとして三回か四回位噛まれた。結局二人がかりでやっても出来なくて、ダボダボの寝巻のまま。ベッドの上にちょこんと座っている。
「えーっと……唐突だけど、この子は間違いなく彼だよ」
「え!?」
「だってほら…………」
そう言って玲さんはその物体の右の横髪をかき分け、俺達に右耳の裏を見せながら教える。上の方に小さな黒子がある事を。いやいやいやいや。ちょっと待て。確かにヒイラギの右耳の裏には黒子がある事は知っているけれど……。
「よく触らせてくれたね、と言うより何時の間に?」
俺と同じ事を思ったサトルが俺よりも先に玲さんに聞いた。そうだよ、何時の間に触っていたんだ? 俺達だって触らせてくれなかったのに。すると玲さんは笑いながら、
「さっき君達が手に絆創膏貼っている時。
噛まれたって言っていたから、ちょっと怖かったけれど大丈夫だったよ。気付かなかったの?」
と。全然気付かなかった。けど、この物体がヒイラギだと分かったのは良かったかも……いや、良くない? だって色々とまだ疑問点が残っているから。例えば俺やサトルには噛みついてくるのに、玲さんには噛みつかなかった……とか。
「とりあえず事情を聞いてみようか……って、今のヒイラギ君に聞けるかな?」
苦笑交じりで玲さんが言うそばで、小さなヒイラギは大きなあくびをして首を傾げた。おいおい、性格まで変わりやがったのか? こいつこんな性格じゃなかった筈だぞ。なんだか拍子抜けしてしまう。
「じゃあまずは……どうしてこうなったのかな?」
「?」
「うーん……じゃあ、質問を変えようか。僕達の事は分かるかな?」
「?」
「お前、もしかして喋れないのか?」
「…………」
「だから噛むな!」
今度は触れると思ってふと手を出してみたのに、また噛まれた。お前どれだけ警戒しているんだよ。