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そんな事を倉山達に言える訳もなく。大きく溜息を吐いた。それを倉山達が不審がるけれど、それでも言えないものは言えない。引き渡す前のキスは既に二人とも見ているから、言ったら言ったで“何だ、そんな事か”と返って来るのがオチだろう。
「お冷やのおかわりはいかが?」
「あ、いただきます」
「俺も」
そのタイミングで顔見知りのウェイトレスさんがお冷やを持ってきてくれたから、丁度この話はいったん終わり。別の話題に切り換えるチャンスだ。幸運にもその別の話題を持って来てくれたのはウェイトレスさんだった。
「夜見君、そんなに具合が悪いの? 大丈夫?」
「え? ああ、まあ……本人は大丈夫だ、って言い張るけれど」
だけどヒイラギ絡みの事でウェイトレスさんに答える倉山だけでなく、サトルだってきっと動揺を隠せないでいるだろう。現に私がそうだから。それにもお構いなくクッキーを食べているのが本人です、何て言えない。
「多分もう少しはかかるんじゃないかな……」
「そう、お見舞いに行ければ一番良いんだけれど……あ、仕事に戻るね」
お見舞いに行かずとも既に会っているんだけどね。絶対に言ったらいけない事だから言わない。ウェイトレスさんが去った後は私だけでなく、倉山もサトルも盛大に溜息を吐いた。
「誤魔化しているのが申し訳なって来るね」
「ああ、でも正直に話す事とも出来ないしな……」
「…………」
「ん? まだ食べたいの?」
少し重い空気になっていても、ヒイラギは相変わらずで。私の方を見上げ、空になったクッキーの袋を見せていた。口元には相変わらず食べかすを付けたままで。丁度もう一袋買ってあったから、食べかすを拭いてあげてからその袋をヒイラギに渡した。
「本当に当事者が一番暢気ってどういう事よ」
頬杖ついて、再びクッキーを食べだしたヒイラギを見ながら呆れるように倉山は言う。本当なら此処でヒイラギは噛みつこうとするのに、クッキーに夢中でそうする事もしない。……一体何時までこのままなのかな。