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「ヒイラギ、付き合いは確かに長いけれどこんな奴だとは思わなかった」
倉山が疲れ切った様子で大きな溜息を吐きながらそう言うと、サトルはまるでそれに同意するかのように何度も頷いた。私も倉山達程付き合いが長い訳じゃないけれど、確かにこんな面があるとは思わなかった……小さい頃はこんな感じだったのかな?
「いっぱい遊んだから結構汚れちゃったね……」
「いや、遊んだ訳じゃないだろ」
沢山動き回ったのか満足げなヒイラギは何度もつまずいて転んだせいか、顔も服も土だらけだ。
「帰ったらお風呂だね……」
「…………」
ヒイラギを抱え上げ、自分の顔の位置まで持ち上げてからジッと見つめながら呟いた。でも当の本人はと言えば眠そうな顔をしている。疲れちゃったのかな。寝かせてあげたいのは山々だけど、まず先にお風呂に入ってからにしないとね。
「それじゃあ、お姫様。これ。一応玲さんが用意してくれた着替えとか入っているから」
帰り際、サトルからヒイラギが入っていたボストンバッグを受け取った。そう言えば、このサイズになったヒイラギに合う服ってあったんだね……。赤ちゃん服だと緩い気もするし。どうやって手に入れたかは分からないけれど。
「もし何かあったらすぐ連絡してくれ。すぐに行く。……ごめん、気付かなかったけれど荷物持てるか? 俺持って行くよ」
「平気。これくらいなら……」
「無理するなって。サトル、先帰って良いぞ。眠たいだろ?」
「うん……眠いから先帰る。お姫様、また明日ね。あとヒイラギも」
ここでサトルとは別れて、荷物持ちを買って出た倉山と一緒に家まで帰り、家まで送ってくれたところでその倉山も帰って行った。サトルと同じように“また明日”と言って。今日は両親揃って夜遅くまで出掛けているから、この家にはヒイラギと私の二人きり。ヒイラギが元のままならドキドキしたんだろうけれど、そのドキドキ感は今はない。