6日目⑫
「最後は貴女ですね、瑞希」
「ええ。お願いするわ」
涙目になりながら何かを決意している楓を尻目に、瑞希さんを見据えてゆっくりと話し掛けるアイ。
対する瑞希さんも心得たもので落ち着いた佇まいで応じる。
「貴女の上位職【賢者】は攻撃と回復に秀でた魔法特化型のクラスです。
現在貴女が所持している【術師】【僧侶】の扱える魔法の数々に対してブーストが掛かる事が大きなクラス特性でしょう。
しかし――これらはその本質を鑑みた場合、些細な恩寵に一端に過ぎません」
「というと?」
「この【賢者】というクラス本質――
それは多彩な魔法を組み合わせて自在に魔法を生み出す【創成魔法】にあります。
貴女は僅かな探索の間で巧みに魔法を使いこなしていますが……
感じませんか?
魔法そのものの可能性と多様性に」
「うん、それは思ってた。
魔法っていうのはもっと自由なものなのじゃないか、って」
「ご指摘は正しい。
スキルの延長上で取得できる現在の魔法。
これらはあくまで分かりやすいフォーマットで形式化したものなのです。
魔法の本質――
それは【形をもたない多様性に対する方向性】とでもいうべきもの。
ですから【術師】の扱う攻撃系魔法も【僧侶】の扱う回復系魔法も、ベクトルは違えど魔法というカテゴリー内においては同一。
賢者に限らず上位魔法職はこの頸木というか制限から解き放たれるのです」
「要はわたしなりのアレンジだけでなく想像を創造に変えて発動出来る……
そういうこと?」
「さすが話が速い。
貴女が不便さを感じていた魔法に関する制限は取り払われます。
発動時間・速度・範囲。
これらを自在に設定できますし既存の魔法を組み合わせ、まったくの新しい極致から魔法を生み出すことを可能とする。
それこそが【賢者】というクラスに隠された一番の特性なのですから」
「ん。了解したわ。
色々と……悪い事が出来そう」
「そこは貴女の裁量に任せます、瑞希。
ただ――装備に関してひとつ助言を」
「何かしら?」
「楓ほどではありませんが……瑞希にも身軽な服装を推奨します。
後衛である魔法職はダンジョンに満ちるマナを肌で感じ吸収しやすい服装の方がより成長できるのです。
具体的にいえば露出補正があります」
「……ねえ?」
「なんでしょう?」
「それって――どうしても必要なこと?」
「必須、ではありません。
しかし魔法職で大成するなら恥じらいは捨てた方が良いでしょう。
臥龍や楓を含むパーティの生存確率を上げる為にも」
「……分かったわ。
もう若くはないけど――頑張ってみる」
顔を真っ赤にしながらも、どうしてか俺の方を見て目を伏せる瑞希さん。
やはり30を前に異性がいる場で大目に肌を晒すのは勇気がいるのだろう。
俺は瑞希さんに全然大丈夫です! 気にしません!
と後方理解者面でサムズアップする。
だというのに、何故か隣で楓が「鈍感馬鹿」と呟いたのが聞こえた。




