4日目①
「せ、せんぱぃ……(ハアハア)」
ダンジョンに荒い呼吸が響く。
興奮故か――あるいは艶やかな抑揚のせいか、どこか淫靡にすら聞こえる。
その声の持ち主は紫亜楓。
頼りになる俺の後輩にして仲間。
だが普段好奇心に輝いている瞳は濡れ、俺を視る視線は切なそうに揺れていた。
しかしここで止めたらせっかく時間を掛けてきたのが無駄になってしまう。
なので、ここは心を鬼にして責め立てる。
「――どうした、楓?」
「ウチ、もう無理っす……
これ以上は耐えれません……」
「頑張るんだ。
大きいかもしれないが――受け入れてしまえば問題ない」
「でもお……でもぉ……」
必死に懇願する楓を優しく励ますものの……
普段は快活な楓がこんな風に縋りつく様を見てると、何だか嗜虐心を刺激する。
俺はもっと焦らすべく楓に手を掛け一気に――
「――いいから早く収納物を回収して下さい。
後がつっかえているのですから」
機微を理解しないアイの容赦ない指摘。
顔を見合わせる俺達。
俺は今……何をしようとしていた?
変わらず楓が何かを訴えているが非情に切り捨て見せるよう促す。
逃げ場のなくなった楓は恐る恐る手を開く。
その手中には燦々と黄金色に輝く金貨が煌めいていた。
西洋風のいかにも宝箱といった感じの箱から半泣きでアイテムボックスへ収納させながら楓が立ち上がり場を離れる。
「先輩――やっぱ心臓に悪いっす。
これでもう10枚を越えましたよ?」
「確かに(額面は)大きいかもしれないがな……(そういうもんだと)受け入れてしまえば、どうといった事はない」
「いや、充分ヤバいっすよ!
最近金の価値が上昇してますし」
「グラムあたり2万超か?
仮に10gと仮定して――良かったな、楓。
10枚で200万円を超えるぞ♪」
「いや~!!
聞きたくなかったし知りたくなかったっす、その情報!!」
絶叫する楓にアメコミ風で爽やかな表情でサムズアップする俺。
楓を伴って本格的に探索を開始した俺達が今何をしているのかというと――
アイのナビゲートによるアイテム回収である。
チュートリアルダンジョン1階は洞窟を模している為か死角が多く、そこに巧妙に隠された宝箱が多々ある。
その事はアイによって事前に聞かされていたが――俺は手を出さなかった。
何故なら斥候【スカウト】不在で鍵開けや罠感知など無い者が手を出した場合、もし罠が発動したら良くてダメージ、悪けりゃ重度のバッドステータスに繋がる。
毒くらいなら解毒ポーションで対応できるかもしれないが……
重度の麻痺である【石化】なんぞを喰らったら、ソロでは致命的だ。
そういった意味で無理をせず、ずっと避けて来ていた。
けど――昨日から念願の斥候(楓)がパーティに参入した。
なら回収しない手はない。
アイとも相談し戦闘に関する連携の強化を図りながら隠されたアイテム回収をしている。
しかし――さすがはダンジョン。
軽く見回り始めたばかりだというのに金貨やらポーションやら強化スクロールやらで、とんでもない事になっている。
一攫千金を夢見て【探索者】を希望する奴が絶えない訳だ。
真の恐ろしさはダンジョンを出てから襲うのに。
人間の敵は人間。
楓の話だと海外では何でも取り分で揉め、殺し合いにまで発展したらしい。
馬鹿らしい。
最初の願いという報酬で金以外を望んだならそれに殉じる心構えを持てよ。
まあ――こんな風に次から次へと発掘されれば無理もないか。
ちなみに俺と楓はその事を話して分け前の分配を決めていた。
有効なアイテムは高額でも貴重でもそれを使える者(クラス含む)。
ポーションなど消耗品は等分。
金銭について半分はパーティの資金、残りは山分けといった感じだ。
換金して手数料を引いて……
今現在だとおおよそ200万は稼いだか?
この内半分の100万は活動資金として取って置き、俺達の報酬は50万。
う~ん……ブラック企業勤め時代の月収を一日で超えるな。
楓が悲鳴を上げるのも無理はないか。
でも俺達の本分はあくまで探索だ。
こんなんで悲鳴を上げて貰っていては困る。
その為にはもっと楓の心を鍛えなくては!
……趣味ではないぞ?
可愛い後輩を思って仕方なく、だな。
「先輩……誰に弁解してるんです?」
内心の声にツッコまれる。
エスパーか、お前は。
まあいい。続けるとしよう。
ジト目で抗議してくる楓は見ない事にする。
時折襲ってくるモンスターを蹴散らしながら――
俺は更なる宝箱の場所をアイに尋ねるのだった。




