3日目④
「ああ、そうだ」
「いや、違うぞ」
肯定と否定。
相反する二つの言葉が浮かぶ。
だが――
実際に俺が発したのは疑問の言葉だった。
「どうして……ダンジョンだと思ったんだ?
あと、その言葉をどこで知った?」
疑う訳じゃないが、まず訊いてみた。
俺がダンジョンに挑み始めたのは俺だけしか知らない事実であり情報だ。
素朴な謎として何処でそういった事を把握したのかを知りたい。
詰問に近い口調だったが楓はきょとん、とした顔で応じる。
「えっ――?
だってエッワスとか動画とかネット掲示板とかでめっちゃバズってるっすよ?
突如現れた未知なる世界、ダンジョン。
そこは誰もが知らぬ最後のフロンティア。
一攫千金を夢見て君も探索者になろう! って」
「ネット……だと?」
「あ~昔からSNSとかニュース見ないっすもんね。
テレビの国営放送でも取り上げてるし凄いお祭り騒ぎ状態です。
探索者に選ばれれば今や芸能人並みの扱いですからね。
はい、これ見て下さい」
楓が示したスマホには物々しい装備で怪物と戦う男たちが写っていた。
動画なのだろう、興奮した声が伝わってくる。
幾分か苦戦していたようだが……
魔法やスキルが飛び交い勝利を収めると歓声が上がった。
いわゆる実況系配信者って奴か?
リンク先には掲示板があり、楓の指はアドレスをクリックする。
147 迷宮に潜る名無しさん
うは、マジで内部はダンジョン
夢が広がりんぐwww
148 迷宮に潜る名無しさん
禿同
ただ一人はこわいんご
149 迷宮に潜る名無しさん
おい、初っ端から敵強くね?
チートあるから倒せたけど
150 迷宮に潜る名無しさん
>149
はい、馬鹿決定
そっちは初見殺しの方
ちゃんとチュートリアルの方に行け
151 迷宮に潜る名無しさん
普通さ、目の前の魔法陣に入るよな?
そしたらさ、出てくんのよアレが
初手 デュラハン
後手 探索者L1
俺氏全力で逃走 逃げれたのホント奇跡
152 迷宮に潜る名無しさん
当たらなければどうということはないw
153 迷宮に潜る名無しさん
デュラハンは死霊魔法の使い手です
エナジードレインなどで
死ぬまで分からされますけどナニカ?
154 迷宮に潜る名無しさん
っていうか初期クラスは何が正解なんだ?
ワイ、術師 全然魔法ぶっぱできぬ
155 迷宮に潜る名無しさん
ワタシ、手堅く斥候
罠とか敵の位置が分かるの助かる
でも弱い(涙)
156 マサムネ
最初は無理せず斥候とかの方がいいと思うよ?
恩寵の効果にもよるけど、術師や僧侶は前衛が
いないと本領発揮出来ないし
157 迷宮に潜る名無しさん
お。暫定日本1位のマサムネさん、ちーっす
少しばかりでいいから、レベルをですね……
分けてほしい(卑屈
さらっと内容を見て流す。
そっか、今はこんな感じで情報をやり取りできるんだな。
なら俺がすべきことは――
俺はスマホを返し楓の手を取ると、洞窟の奥へと引っ張り込む。
「え、ちょ先輩!
そんな強引な――って、強引なのが嫌じゃなくてその心構えがまだっていうか初めてがここというのはさすがに――」
何やら小声で抗議するが抵抗しない楓を伴い最奥の扉に手を掛ける。
すると、涼やかなアイの声が周囲に響き渡る。
「契約者:臥龍臼汰と異なる、登録外の現地人:雌(成体)と接触。
彼女を【探索者】として認可しますか?」
「認めるとどうなる?」
「貴方の管理下におかれパーティを組める様になります。
意識部屋の共有も可能です」
「分かった。大事なのは意思の確認だな。
ならば――楓!」
「ひゃ、ひゃい!」
「見ての通りだ。俺は……」
「ウチを押し倒そうとしてるんですね?」
「違うわ!」
「えっ? ここはケダモノ化した先輩のセンパイがアレして、雄叫びを上げながら可憐なるウチの貞操を狙う場面じゃないんですか?」
「お前のとこだけシーン描写が違ってるわ!
今は解説応答編その1
ダンジョンの有無についてだ!」
「ああ、そういうことっすか(ちっ)
せっかく期待したのになぁ」
「何を期待してるかは知らんが……
まあ、楓の言う通りここは【ダンジョン】で間違いない。
そして俺は【探索者】という身になる」
「一躍有名人になれますね~」
「それだソレ。
そこで相談だ、楓」
「はいっす?」
「俺は――有名になんぞなりたくない。
落ち着いて静かなスローライフを過ごしたい」
「そりゃ~こういうとこに引っ越すくらいですし」
「だが――探索者としても活動を続けたい。
それ故この秘密を知ってしまったお前をどうするかといえば――」
「よ、嫁に?」
「なんでそのネタを引き摺る!?
そうじゃなくて――運命共同体にならないか、というお誘いだ」
「うんめーきょうどーたい?」
「そう。要するに俺とパーティを組んで【探索者】をやらないか、という勧誘だ。
はっきり言ってダンジョンは危険だ。
お前も見て知っている通りモンスターとの戦いは命懸けになる。
けど――その危険に負けず劣らずどころか上回る興奮と達成感がある。
お前さえ良ければ……俺の背中を任せられる存在になってほしい」
嘘偽りなく自分の想いを真剣に語る。
俺の言葉に顔を伏せた楓は沈黙。
そしてしばしの後――勢いよく顔を上げる。
秀麗なその貌は興奮に紅潮していた。
「未知なる道を恐れず歩め――
先輩から最初に学んだことです」
「そんなこと言ったか?」
「言わなくても背中で学びました。
だからウチの返事は決まってるっす――
任せて下さい、先輩。
臥龍先輩のその背中は……
うん、ウチがキッチリ守るっすよ!」
「ああ、よろしく頼む」
若干の照れ臭さを抱きながら改めて握手を交わす俺達。
その瞬間、契約は為され――
俺と楓は意識空間へと共に飛ぶのだった。
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