2日目 終
「いや~激戦だったな」
意識空間内にある来客用ソファーに踏ん反り返りながら俺は呟く。
第一階層のフロアボス【ジャイアントリザード】こと、コモドドラゴン。
ヤツとの戦いは全身全霊を投じた死闘という自覚はある。
賽の目が悪ければ、俺が殺されていたという出目も充分あり得た。
それ故にこうして生きているという実感を堪能している訳なのだが……
思わず漏らした俺の言葉が余計だったのだろう、形の良い眦をあげてアイが冷静に指摘してきた。
「激戦だったな――じゃ、ありません。
助言した事の半分も守れていないじゃありませんか」
「うっ……
それについてはすまん」
「謝ってどうするんです?
事前に私は距離を置くヒットアンドウェイで戦うべきだとアドバイスしました。
スコップという武器のリーチ差を活かし、出血を強いてダメージを蓄積させる。
あれだけの巨体相手にインファイトを仕掛けるのは自殺行為とはいいませんが、無知・無茶・無謀の三無主義です」
「ああ~うん。
アイの言い分はもっともだと思う」
「なら――」
「けどさ、ヤツと刃を交えてみて理解したんだ。
戦いに安全圏なんてものはない――って」
「それは……」
「アイの助言は確かに正確で的確で妥当だ。
でもそれを現実へ反映させるのは俺自身……つまり人間なんだよ。
人は誰だってミスをするし理知的になれず感情的になる。
ただ……だからこそ窮地に陥っても戦い抜ける。
逆境を覆すのはいつだって人の意志だ。
俺は今までの経験からそう実感した。
なら無茶ができるのは今しかない、と思った。
これから先もっと苦難や困難が待ち受けているだろう。
アイの庇護下にあってもどうしょうもない事態に遭遇するかもしれない。
無知無謀でも死闘を通して得た経験は無駄にならない……そう、思ったんだ」
アイの糾弾に正直に自分の想いを述懐する。
そう、アイの言う通りにすれば当分はなんの問題はないだろう。
しかしイレギュラーはいつか必ず起こり得る。
もしそれが起きた時――命じられるがままの操り人形と化した俺に迅速な対処が出来るだろうか?
アイにお伺いを立ててしまうのではないか?
俺の願いに応じてくれたアイは、確かに万能のアドバイザーだ。
でも――危険を承知でダンジョンに挑む事を承諾したのは俺だ。
俺の意志だ。
ならば俺は確固たる信念をもってこれからも進まなくてはならないと思う。
言葉に秘められた意を汲んでくれたのだろう。
アイが疲れたように応じる。
「頑固ですね、臥龍は」
「良く言われる」
「褒めてませんよ。
ですが――貴方の意見に正しい一面があるのも確かです。
これからは貴方の自主性を踏まえたアドバイスを行います」
「面倒をかけるな」
「端から承知の上です。
それと、臥龍――」
「なんだ?」
「ここは時間が止まっているからいいのですが――
現実に戻ったら貴方……ジャイアントリザードの失血毒で死にますよ。
ちゃんと解毒ポーションを使用して下さいね?」
「うあああああああああああ!!
そういや~腕を噛まれたの忘れてた!!」
「呆れました。
いくらヤツの隙を作る為とはいえ、あんな粗末な雑嚢で毒牙を防ぎ切れる訳ないでしょうに。
でもスキルのクールタイム解除をしっかり実戦で実践出来たのは見事です」
「ぶっつけ本番だったけどな」
アイから教わったクールタイム解除の裏技。
どんなスキルも技後硬直および再使用までのクールタイムが存在する。
だが万能アドバイザーであるアイは知っていた。
ポーションは固定でHP50程度を回復させる力しかない。
僧侶の回復呪文と違い、それが限界なのだろう。
しかしその際に僅かであるが損傷を癒す。
その傷とは拡大解釈すれば硬直である麻痺でありクールタイムである。
無論、これはスキルが純化していく過程である、初回のみの特典。
なので各スキルにつき1回だけポーションや回復呪文でクールタイムを癒せるらしい……っていうか、連続発動出来た。
「これって――結構重要な事だよな?」
「本来なら秘匿すべきものです。
ダンジョン攻略のまたとない力と成り得ます」
「激しく同意。
口を滑らせないようにするよ」
「いらないトラブルに巻き込まれないようにするにはそれが賢明でしょう。
何はともあれ、臥龍――」
「ん?」
「まずは第一階層突破おめでとうございます。
長い道のりを今、やっと歩み始めましたね」
「……ありがとな。
アイのサポートがあればこそ、だ」
「いえ。私は自身の仕事をしてるだけです。
ところで――今日はこれから探索を続けますか?
帰還するならボス部屋に入り口へ戻る専用の魔法陣がありますが」
「さすがに今日は疲れた。
戻って休むとするよ」
それから俺はアイと獲得スキルと二次職の相談・選択を終えて現実に復帰。
忘れないようしっかり解毒ポーションを飲み干してから魔法陣で地上へ送還。
本物の自宅内へ転がり込む様に帰宅した。
(いかんな……生き甲斐だったスローライフの方が疎かになってる)
ダンジョン探索という未知の世界に対し正直心が躍っている。
だが疲れも溜まっている事だし明日は探索を休むとするか。
惰眠を貪った後、本業である農業に精を出すことにしよう。
そう思って眠りについた俺の安らぎは――早朝に崩された。
玄関から周囲の山々に響き渡るアイツの声で。
「せんぱ~い! 臥龍センパーイ!
可愛い後輩が来ましたよ~開けてくださ~い♪」




