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1日目①
「ん? 何だ、この穴?」
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)の朝は早い。
スマホに設定しておいた目覚ましアラームが鳴る5時前には起床する。
ブラックな会社をドロップアウトし田舎で自由気ままなスローライフを満喫し始めたとはいえ、やるべきことが多いからだ。
まだ薄暗い朝陽を浴びながらやっと軌道に乗り始めたハウス栽培や周辺器具の点検などを行っていると、裏山に面した崖に大きな穴を見つけた。
人一人がすっぽり入ってしまいそうなそれは、もはや洞穴レベル。
間違いなく昨日までになかったものだ。
「おいおい……まさか熊とかじゃないだろうな……」
ここら辺で農作物を荒らす猪や鹿の存在は知っているし対策も取っている。
ただ――熊の話は聞いたことがなかった。
北海道のヒグマ程じゃないにせよ、ここは東北。
もし熊が住み着くような穴だったら大事だ。
せっかく築いた農業基盤が崩壊してしまう。
「何にせよ、まずは様子を見に行くとするか」
一人暮らしをしていると独り言が多くなる。
そんな自分に呆れつつも覚悟を決めると、近くにあったスコップを手に俺は洞窟へ足を踏み入れた。




