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【第二章完】町はずれの大魔道士は魔術を嫌う  作者: 雨山木一
幕間

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第十五話 よくない予感はするんですよねぇ

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 二階に引き上げていったヴェルデーナを見送ると、ようやく今度はライカの朝食の番だ。

 内容は豚の燻製ハムにライ麦のパンだ。

 ヴェルデーナの家ではとある決まりがある。それは食事はヴェルデーナとライカで同じ物を食べるというものである。しかし、前述したようにライカはミルクが苦手なので、朝食に関しては違うものを食べることを許可されていた。ただ、そこにも定めがあり、師と弟子という間柄であっても食事の内容に差をつけてはいけないというものである。


 ライカの経験上、師は三食三品で弟子は二食二品、もしくは二食一品であることが多い。

 ライカがポルタで徒弟として働いていたときは、腹が満たされると頭が回らなくなるという理由で二食一品か、一食二品のことが多かった。もちろんこれは貸し出されていた商人のところでしっかりと仕事をしたときの話で、ミスをしてしまうと、それがどれだけ些細なものであっても罰として食事を抜かれることもあった。


 八年間そんな環境で暮らしてきたライカはそれが当たり前だと思っていたので、ヴェルデーナの弟子として一緒に暮らすようになってから始めての食事のときに、自身の食事を一品少なく出したところ、とても強く叱られた。

 曰く食事は体を作る基本であることは当然として、人間関係を構築するのにも必要になるものらしい。

 ヴェルデーナの考えでは師弟とは、ただの上下関係であるだけではなく、共に暮らしていく友であり家族でもある。家族や友人間で食事に差をつけることがないように、弟子だけ少ない量の食事をするというのは我が家の定めとして容認できるものではない、ということらしい。


 そんな定め始めて聞いたとか、それなら先に言っておいてくれとか、思うことはあったものの、それがヴェルデーナの流儀なのならば従うことに依存はない。

 それから昼食と夕食は同じものを同じ量食べるようになった。しっかり食べられるというのはやはり体にも精神的にもよい方向に働くようで、ここ最近はかなり調子がいい。


「それにしても、もうここにきて半月くらいか」


 ライカはパンにハムを挟んだものを咀嚼しながら、ぽつりと零した。

 激動というと少し言いすぎかもしれないが、ライカにしてみればまさにそれほど目まぐるしい日常だった。

 ヴェルデーナの徒弟としてフォルゲンスタリアに住む。これには必ず避けて通れない門がある。

 単にフォルゲンスタリアに移住するというのなら、都市を治める領主に申請し、定められた職業、もしくは経験のある職業に就き税を治めるという契約を結ぶだけで完了するわけだが、これが特定の職人の徒弟としてとなると話が変わってくる。


 まず、ヴェルデーナが職業組合に所属しているのか、という問題があった。

 基本的に職人に分類されている職業に就いている人間は職業組合に所属することが義務付けられている。

 職業組合は町で仕事をする定住商人や遍歴商人や、その役割が多岐にわたる職人たちが生活の安定や相互協力を行うために結成された組織だ。

 基本的に仕事を従事する人間はこの職業組合に所属することが義務づけられており、所属するにあたって費用は発生するものの様々な恩恵を受けることができる。それは例えば商売をする建物や場所の提供であったり、病や災害、人災などで一時的に働けなくなった仲間を助けるための支援金であったり、組合ごとに色がある。


 所属して得られる益は計り知れなく、所属しないでいればそれはできない理由を持った人間という烙印を押されることを意味している。

 前評判が最悪なヴェルデーナが果して組合に所属しているのか。というか、所属が認められているのか。ライカはそれがとても気がかりだった。

 しかし、そんな杞憂はあっさりと打ち消されることになった。

 越してきた日のうちにヴェルデーナに移住と徒弟関係の申請をしたいと言うと町の中心部にある建物を教えられた。


 本来であれば弟子を伴って師であるヴェルデーナが申請をしなければいけないのだが、そこは「疲れたから一人で行ってきて」の一言で片付けられてしまった。

 始めて行く場所に心細さをおぼえたものの、これから始まる生活への期待とこの程度で尻込みするほど細い神経ではないライカは、荷物の整理もそこそこに早速職業組合のある場所に向うことにした。

 そして、たどり着いた先には小さいながらも威厳たっぷりの門構えをした立派な建物があった。門の上部にはフォルゲンスタリア・ジリアス医術組合と書かれた看板が吊るされていた。


 三階建ての建物のなかは豪奢な作りで、身なりの整った人たちが行き交うところを見ていると、自分が場違いなのではという劣等感と羞恥心に自然と視線が下がってしまう。ただ、諦めて帰るという選択はない。多分ここで帰って次は一緒にきてくれと頼んでも、ヴェルデーナはなにかしらの理由をつけて断ってくるだろう。

 大きく深呼吸。大丈夫。これから俺はここで暮らしていくんだから。

 受付でフォルゲンスタリアへの移住申請とヴェルデーナとの徒弟関係の申請を申し込むと、受付嬢はおよそ人に見せてはいけないような顔をして驚いていたが、それでも仕事はしっかりとこなしてくれた。そして、待機期間として七日前後を言い渡されたのだが……。


「ようやく連絡があったけど……」


 ライカは上着の内ポケットから一枚の手紙を取り出す。宛名はジリアス医術組合。蝋封にはジリアス医術組合の紋章である雄々しいヘラジカをあしらったものが押印されている。

 これが届いたのは昨日のことだった。

 封筒のなかから手紙を取り出し、目を通す。といっても大した内容は書かれていない。 

 ──ライカ・シャーリック殿。貴殿のフォルゲンスタリアへの移住を認める。また、ヴェルデーナ・サイフォニックとの徒弟関係の締結も同じく。しかし──。


 ライカは視線をすっと落として、末文に溜息を吐いた。

 ──しかし、ヴェルデーナ・サイフォニック氏に関してご相談させていただきたいことがあり、明朝、ジリアス医術組合会館にてお話をさせていただきたい。

 これは面倒事の予感しかない。ライカはパンの残りを口に投げ入れると、背もたれに体を預けて二度目の溜息を吐いたのだった。


ここまでお読みなってくださりありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、高評価、ブックマークをどうかお願いします。して頂くと作者がによによ喜びます。

カクヨム,アルファポリス,ノベルアップにも同作を投稿しております。


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