プロローグ②:最終決戦へ
荒野は闇に包まれている。月灯りだけが荒野を薄く照らす。
時折、何かが月灯りをキラキラと反射させていた。人間の甲冑と魔族の爪や牙だ。
理由を知れば、このキラキラとした光はとても綺麗な光とは呼べるものではないことが分かる。
荒野の中では人間の怒号と魔族の雄叫びが交差している。
行われているのは『戦争』だ。
2つの種族が激しく争い、互いに互いの種族の血を浴びながら、剣や爪で応戦している。激しい争いに土煙が上がり、足元の視界が悪くなり始めていた。
その時、東の丘から声が聞こえた。
「総員!かかれぇぇぇ!!」
人間の肌にも魔族の表皮にもビリビリと響くような大声で号令を掛ける者がいた。
その者は、全身に白銀の装備を纏っている騎士であった。
しかし、折角の美しい装備は赤色、青色、紫色など、多くの返り血を浴び酷く汚れていた。
その騎士は、後に『第一次人魔大戦の英雄』として歴史に名を残す者『白銀の騎士エルドット・シールド』である。
人魔大戦中に数々の武功を上げ、人間からは『白銀の英雄』と称えられ、魔族からは『白銀の剣鬼』と畏れられていた。
その白銀の騎士からの直々の号令に味方の指揮は上がる。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
号令から時を待たず、人の軍勢は魔族の軍勢に向かって一斉に動き出した。
暗がりでの戦い。
本来ならば人間には不利だ。
しかし、人間達の勢いは止まらない。
土煙が人間達の勢いと共に舞い上がり、今や両軍勢の足元は何も見えなくなっていた。
だが、人間達の軍勢には一切の迷いも恐怖もなかった。
「行ったな。」
白銀の騎士は、そう言って少し悲しそうに仲間の総攻撃を見送ると、戦況を確認するため、辺りを見渡した。
小高い丘から地上を見る。
そこでは
『青い瞳を輝かせ、全身の毛を逆立てた狼男』
『ツギハギの腕を力一杯振るい、来る者全てを薙ぎ倒すフランケン』
『長い包帯を自在に操り、敵を絡めて動けなくするマミー』
など、地上での戦闘に長けた魔族が人間の攻撃を迎え撃っていた。
次に、小高い丘の上空を見上げる。
そこには
『禍々しい羽を広げ、人から奪った武器を持って自由自在に空中を飛び回るガーゴイル』
『高速移動を繰り返し、敵を撹乱しながら攻撃をするフェアリー達』
『堅牢な鎧を付けたユニコーンに乗り、自らも重々しい鎧を纏う首無しの鎧騎士』
などの飛行能力を持った魔族が攻撃の隙を窺っていた。
そして、相対する西の丘に目を向けると、他の魔族からは感じるのことのできない威圧感に気圧されそうになった。
そこに居るのは吸血鬼であった。
生まれながらに不老と不死の能力を持つと言われ、魔族の中でも希少且つ最強の一角を担う種族である。
なんと、そんな吸血鬼が9人も集まっていたのだ。
【次回】プロローグ③:玖月の近影
鬼先生をはじめとする玖月のメンバーがちょっとだけ登場します。