狂狼病⑧:暴走∵ ???
『ギャギャギャギャギャギャギャッ!!!』
・・・
『ギャギャギャギャギャギャギャッ!!!』
・・・。
『ギャギャギャギャギャギャギャッ!!!』
・・・。
物凄い音に、鬼先生はビックリして飛び起きた。
魔覚まし時計だ。
時間を確認すると、午前9時00分だった。日の出が午前6時半頃だったから、寝ついたのが午前7時だったとしても、ほとんど眠れていなかった。
「チリちゃん、あの時はまだ帰ってなかったのか。やられた。」
鬼先生はチリちゃんが研究室から持ってきた魔覚まし時計に起こされて眠気が飛んでしまった。
「起きちゃったものはしょうがない。研究しますか。」
鬼先生は研究室室へ向かった。もちろん、魔覚まし時計
は忘れずに持って行った。
鬼先生が研究に没頭しているといつの間にかあたりは暗くなり始めていた。
「おはようございます。」
スノーが出勤してきた。
「おはようございます。スノー。薬はちゃんと飲んできましたか?」
「はい。お陰で少し眠いですね。」
「すみませんが、しばらく我慢して下さい。とりあえず薬さえ飲めば変身の心配はありませんから。」
「大丈夫です。それでは仕事に取り掛かります。今日は義翼の患者さんのメンテナンスの日なので外で作業すると思います。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
スノーが出勤してしばらくすると、チリちゃんやレミとシラも出勤してきた。
鬼先生は昨日のチリちゃんの言いつけを守り、今日はお箸で一生懸命ご飯を食べた。
ソレを見たチリちゃんは満足そうにしていた。おそらく、今朝の魔覚まし時計の事は思えていない。
とにかく機嫌は良くなっていた。
診療が始まりしばらくしたところでハーピーの患者が訪れた。
「あのー。スノーさんにお願いしているんですけど。」
一見して悪いところはなさそうだが、レミは義翼の患者だとすぐにわかった。
「直ぐに呼んできます。しばらくお待ちください。」
レミはそう言ってスノーのところへ急いで行った。
しばらくしてレミがスノーを連れてやってきた。
「こんにちわ。義翼の感じはどうですか?」
「はい。自分の翼の様に違和感なく動かせます。見た目も良いですし、不自由はありません。スノーさんのお陰です。」
「それは良かった。でも定期的なメンテナンスは必要ですので、必ず来所して下さいね。」
「はい。なので、今日はよろしくお願いします。」
スノーとハーピーは義翼のメンテナンスのため診療所の外へと出て行った。
「まずは、全力で飛び立ってみて下さい。耐久値が下がっていないか確認します。」
「はい!」
ハーピーは思いっきり力を込めてその場が上空へ飛び立った。一気に100メートルくらいは飛んだだろうか。
「それでは、次は全力で加速して下さい!その後、戻る時はジグザグに方向変換しながら帰って来て下さい!!」
「はい!」
ハーピーが戻ってくるとスノーは義翼のチェックをした。
ちなみに、このハーピーは両翼とも義翼だ。
「うん。耐久力は問題ないですね。義翼全体に魔成も行き渡ってます。問題ないです。
今までは歩くのと同じような感覚で飛んでいた筈なのに、両翼を失い大変だったと思います。
義翼にした後も魔成を使って飛ぶまでにはかなり苦労したと思いますが、よく頑張りました。」
「ありがとうございます。私、スノーさんに出会わなかったら、本当にどうなっていたか。」
「さっきも言いましたが、定期的なメンテナンスは必須です。義翼も劣化しますから。
義翼に魔成を循環させているので劣化のスピードは緩やかですが、いつ何が起こるかわからないので少しでも違和感があったら言って下さい。」
「わかりました。これからもよろしくお願いします。」
「念のため後もう一回、同じ様に飛んでみて下さい。」
スノーの指示でハーピーが再度夜の空へと羽ばたく。空は黒く、暗く、広くどこまでも続いている。
そこに、月の明かりと星の明かりが煌めき、ハーピーを照らしていた。
まるでそこに彼女のステージがあるかの様に。
そんなハーピーを見上げながら、ふと月に視線を向けたスノー。
すると、
ドクンッ!
と、胸に刺す様な痛みが一瞬走り、心拍が速くなった。
さっきまでハーピーの幸せそうな顔を見て自分自身も幸せな気持ちだったのに、突然、ハーピーの幸せを壊したい衝動に駆られる。
(これは、不味い。薬は飲んだはずなのに。)
スノーは自分の理性が徐々に消えていくのが分かった。だからこそ、正気を保っている今のうちに、まだ上空にいるハーピーに伝えなければいけなかった。
「すみません!降りてこなくて結構です!!そのまま診療所に行って鬼先生を呼んできて下さい!!!」
ハーピーはスノーが少し苦しそうにしているのに気づきそ場へ着陸し駆け寄った。
「大丈夫ですか。」
スノーはさっきよりも苦しそうだ。
「不味、い。早、く。早く行けぇぇぇ!」
普段のスノーからは想像できない言葉に驚き、ハーピーは逃げるように診療所へ向かった。
そして、受付へ駆け寄りシラに伝えた。
「すみません。スノーさんが、苦しそうで、あと、なんだが怖い感じになってしまって。」
「わかりました。」{鬼先生、大変です。すぐに受付に来てください。}
{わかりました。}
すぐに鬼先生が受付へやってきた。そしてハーピーに尋ねる。
「どうしました?」
「スノーさんが、急に苦しみ出して凶暴になりました。」
「そんな。薬は飲んだはずなのに。わかりました。私が対処します。」
「レミ!シラ!今日の診察は終わりです。急患がいたらとりあえずの対応はチリちゃんにお願いします。」
「「はい。」」
「それから、シラ。昨日採血した光雷君の血液を持ってきて下さい。今日は半月なので、今日変身したスノーだと、恐らく素の状態で沈静はかなり困難です。」
「わかりました。」
「レミは引き続き、残りの受付業務をお願いします。あと、他のスタッフにも状況を伝えておいて下さい。」
「わかりました。」
「それから、レゴ!聞こえますか!?これからスノーを沈静させます。現場に着いたら大きめで頑丈なフロアをお願いします。」
そう言って鬼先生は受付の前から姿を消した。
そして、次に鬼先生が姿を現したのはスノーの前であった。
「スノー!まだ理性はありますか?薬は飲んだんですよね!?答えて下さい!!」
「ぜんっぜい、ぐずり、は、飲みま、じた。
もぉ、げんがい、でず。おねがいじま、ず
がっ!がぁぁぁぁぁいあぁぁぁぁ!!!!!」
「任せてください。仕事仲間は必ず助けます。
レゴ!お願いします。」
鬼先生がレゴという者に何かをお願いすると、周辺の土が鬼先生とスノーを包み込む様に競り上がり一つの大きな部屋ができた。
突然スノーが壁に殴りかかる。既に理性を失い、部屋から抜け出そうとしているようだ。
しかし、壁はびくともしない、少しだけ壁が欠けたが直ぐに再生した。
「さて、スノー。少し手荒くなりますが落ち着いてもらいますよ。」