狂狼病⑥:初診⇄狼男(一般種)
「ゴホッゴホッ!
すっ、すみません。数日前から咳が止まらなくて。今日は熱もあります。
ゴホッゴホッ!」
一見して人間の男性だが、レミはすぐにピンときて顔を覗き込んだ。
すると青色の瞳と目が合った。
(やっぱり。狼男さんだ。)
「狼男さんですね。少し待ってて下さい。」
(ん!?待てよ。)
レミは患者が狼男であることと、その狼男が説明した症状を結びつけて症状を察し、直ぐに診察室へ向かいつつ思念伝達で状況を伝えた。
{先生!狼男の患者さんです!咳が続いて熱もあるそうです!}
そして、レミが診察室へ入ると、鬼先生は丁度別の診察を終えたところだった。
鬼先生は狼男が風邪の症状であることを聞いて何かを確信し、少し慌てて思念伝達で伝えた。
{わかりました!その患者さんはすぐに連れてきて下さい。それから、その方の診察が終わったら直ぐに『スノー』を呼んでください。}
{はい。分かりました}
{迅速的確な対応、ありがとうございます。あと、今日は他の狼男の患者さんが来たら注意して下さいね。}
{分かりました。}
鬼先生に報告を終えたレミは受付に戻ると狼男の患者を診察室へ案内した。
「ゴホッゴホッ!他にも待っている方がいますけど、先に診察を受けて大丈夫なんですか?」
狼男は不思議に、そして少し気まずそうに聞いた。
「大丈夫です。先生の指示なので、それにここに来る患者さんはそんなことで怒る方はいません。」
「ありがとうございます。ゴホッゴホッ!」
そして、狼男は診察室へ入る。レミはそれを確認すると、受付ではなく別の場所へ向かった。
「ゴホッ!すみません。ゴホッゴホッ!本当に順番待ちしてなくても大丈夫だったんですか?」
狼男は申し訳なさそうに聞く。
「順番は大丈夫です。それよりも、今の病状はあなたが思っているより深刻です。」
「ゴホッゴホッ!そんなに悪いんですか!?」
狼男の顔から血の気が引いた。
「すみません、言葉が足りませんでした。もちろんあなたにとっても深刻ですが、どちらかと言うと周りにですね。でもちゃんと治りますので安心して下さい。」
「なんの病気なんですか?」
「それは、『狂狼病』です。」
「狂狼病?」
「はい。咳が出始めてから何日目ですか?」
「3日目です。」
「熱は今日から?」
「はい。」
「わかりました。ありがとうございます。ほとんどの狼男さんは熱が出てくると受診してくれるのでいいのですが、この状態で後二日放置したら大変なことになってました。」
「大変なことですか?」
「はい。狂狼病は狼男族特有の病気です。狂菌というウイルスの仕業です。空気中の菌は十二時間ほどで死滅するのですが、感染力が強いので大変なんです
もし、今日、他にも狼男の患者さんが来たら必ず、予防薬を渡すくらいです。」
「二日後にはどうなっていたんですか?」
「簡単に言うと、満月じゃなくても月の光で変身してしまいます。」
「マジか!!」
狼男は思わず素になって返事をした。
「それも、通常の変身よりも凶暴化するケースがほとんどです。理性はまず間違いなく保てないでしょう。最近は街中でも感染者が多いらしいです。
そのせいで魔族の取り締まりが厳しいとか。」
「薬を飲めばいいんですか?」
「そうですね。今日から明後日までの分は『アンルナ』という強い薬を処方します。これを飲めば2日後の発作を抑えられます。
そして、その後1週間先までの分として『リセイ剤』を処方するので、こちらは寝る前に飲んで『必す飲み切って』ください。『必ず』です。徐々に体内の狂狼病の菌の毒性を薄めて最終的に消滅させます。
リセイ剤は眠気を伴うので寝る前がいいですが、昼間も眠くなる可能性があります。注意して下さい。」
「わかりました。それで、治療費は?血を抜いて貰えばいいんですよね?」
「それは隣の採血室で行って下さい。看護師がいます。でも、今は血中に菌がいるので、いただくのは治ってからでお願いします。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「お大事に。」
狼男の患者が出て行くと、シラは用意していた処方箋を渡してゴールドラッグの説明をした。
レミはというと、別室へ行ってある者と会うところだった。
レミが目的の部屋に着くと部屋の中から何やら『カチャカチャ』と音がする。
部屋のドアには『作業室』と書かれた掲示板が掲げかれていた。