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短編版 この世はドМの為にある!


 2100年。VR、AR技術の向上により、ゲームだけの国「プレイ」が作られた。この国の中では、ゲームが全て。

 格闘に、パズルに、シュミレーションにリズム……。

 この世のゲームの全てがここにある。


 ゲーム内コインを使い、生活を送る。そして、ゲーム内ランキング上位者はどこかの国の政治家以上の裕福な生活を送れるという噂がある。


 この国の人間は、ランキング上位になり、ゲーマーとして名を馳せることを目指し、日々を過ごしていた。



「緊急メンテナンスのお知らせ。

明日、午前12時以降メンテナスを行うのでプレイヤーの皆さんはログインしないように御協力お願い致します」


 突如、運営から送られたメール。

 普段とは雰囲気の違うメールで、プレイにいる人間は混乱していようだ。


 このメールには不思議な点がいくつもある。

 このプレイの世界には、色んなゲームに繋がるロビーと、ゲームの世界がある。そのゲームがメンテナンスで入れないことはあるが、今回のメールにはどのゲームがメンテナンスになるか記されていない。

 それに、ログインしないようにしてくださいというのが気にかかる。


 普通なら強制ログアウトを行い、プレイヤーがログインできないようになるはずだ。

 でも、この言い方は、ログインできることを暗に伝えているようにも感じる。

 おそらく、他のプレイヤーもこのことを察している。

 そして、ここのプレイヤーが、抜け道を見つけたなら、それを無視しないわけがない。

 ここにいるほとんどのプレイヤーは、ログアウトなんてしないだろうな。


 それは、「私」も同じだが…。



 メンテナンス予告の時間をしばらく過ぎた後…。

 私は、いつものゲームにいつも通りログインしていた。


 黒とピンクのインナーのショートボブ。髪をハーフツインでまとめ、ガスマスクに、黒いパツパツの忍者スーツ。左目には眼帯。

 左手にメカメカしいマシンガン、右手には細く短い針一本。

 その容姿から、私は「隠れない暗殺者」なんて称号を手にしていた。


 プレイヤー名東大寺マナ(とうだいじ)

 彼女は、このゲームの最強のプレイヤーである。


「あ〜、聞こえてますか?警告を読めなかったバカの皆さん」


 頭の中に響いた低く、冷たい声。


「今から、バカなあなた達には殺し合いをしてもらいます」


 嘲笑うような、その声。


「元々、このプレイという世界は戦争に駆り出す人間を選出する為の日本政府の国家事業だったんだ」


 熱を失い、冷酷にこぼされるその声。


「そして、今から10時間ごとに各ゲームランキング上位5%の人間を強制ログアウトさせる。50時間後、このゲームに残っていた人間は、全員兵士として戦争に出てもらう」


 その声に、私たちは置いてけぼりにされた。

 でも、1つ分かるのは、この声の主が言っていることは嘘じゃないだろうということ。

 というより、真実であって欲しい。


 私の心は、命の懸かった戦いというものを欲していた。

 本気だからこそ、痛く。鋭い。

 そんなの、最高じゃないか!


 このゲームは、ランキングは入れ替え制。つまり、ランキング1位の人間を倒せば一発逆転。多くの人間が1位の人間を狙うだろう。


 私は、昔から、痛いのが嫌だった。


 もちろん、死ぬのは嫌だよ?死なない程度に痛めつけられたい。

 というより、殺意や、敵意を向けられるあの感覚が好きなのだ。

 だから、このプレイの世界に訪れた。


 沢山、攻撃を受けれるように、防御力や回避力にステータスを降った。

 だって、回避ばっかする相手にやっと攻撃を当てたと思ったら、ダメージ1なんて、面白いじゃん。

 その、絶望する顔とあの殺意が本当に大好きなんだ。


 でも、守りの技術が高いからこその、悩みがある。

 それは、簡単。私の装備につけられた、逆境というスキル。

 そのスキルを試してみたいのに、発動条件は、HPが3割を下回る事。しかし、ここしばらくHPが8割以下になることはない。


 ……と、言ってる間に挑戦者。私のことを知らない、お兄さん。

 ランキング1位を倒せば、命が助かる。

 一発逆転に、懸けるなんて悲しいね。


「勝負するの?」


「もちろん。 ……負けても後悔するなよ?」


 その声を合図に、決闘が始まった。

 このゲームは、目が合った時点で決闘準備状態に移行する。

 その状態でお互いが武器を手にすれば、決闘が始まる。


 相手のお兄さんは、両手剣をもって、襲ってくる。

 だから、私は一発だけ喰らってみた。案の定、ダメージは「1」。

 相手は、もうすでに涙目だねぇ、それに、手も足も震えて……。


「死なないでね」


 私の放った一撃は、的確に兄ちゃんの喉ぼとけを貫いた。

 もちろん、即死。私の勝ちだ。


「あーあー。 派手にやっちゃって」


 死体となった、兄ちゃんの上に、足を乗せ、私に近づく一人の影。


 長い手足にスーツ姿。柄の長い斧と、片手剣。金髪とも、茶髪とも言えない髪色を後ろでまとめ、スラッとした容姿の彼女は、

「ゲームマスター」なんて称されている。


 分けられたその前髪から覗くその目からは、絶えず殺気がこぼれる。

 このゲームのランキング2位の彼女は土井悟(どいさとる)という、その名を轟かせている。

 

「もう、こんな騒ぎだ。もしかしたら、もう二度とこのゲームで遊ぶことは叶わないかもしれない。」


 このゲームのサービスが始まってからのライバル。

 互いに互いを高め合う、存在。

 防御力と回避に、ステータスを振った私と相反するように、

 攻撃力と魔法に、ステータスを振った彼女。

 その攻撃は、私のこのステータスですら2発も喰らえば死んでしまう。実にスリリングだ。


 それに、あの狂気に塗れた顔に、身震いするほどの殺気。

 私も、彼女も、その手に武器を持つ。

 それは、決闘の合図。


 瞬間吹き荒れる、攻撃の嵐。圧倒的スピードは、私の回避力を持っても、紙切れ一枚分がギリギリで躱せるかという次元だ。

 たった一つの判断ミスすら、許されない。

 でも、それは向こうも同じ。


 私の攻撃を受ければ、私の武器のせいで、彼女は死ぬ。

 私の武器は、特殊だ。腕につけられたマシンガンは一切の殺傷能力を持たない。マシンガンから放たれるのは、麻痺毒だけ、弾が一発当たるだけで、行動が出来なくなる。

 その後に、もう片方の手に握られえた、この針が役に立つ。

 この針には、猛毒が塗られている。掠ればスリップダメージで5分もすれば大体のプレイヤーは死ぬ。

 かと言って、大きく攻撃を避ければ、隙は大きくなる。

 その隙に急所を突けば、即死。

 つまり、一撃でも当たれば、負け。

 互いに、一撃で負け。


 そんなメンタルを擦り減らす戦いの中で、私たちは狂気を露わにする。


「「絶対に死なないでね」」


 悟は、両手から連撃を放ち、手数とパワーで私の攻撃を捌く。

 この世界には、魔法がある。そして彼女の魔法は私よりの実力を持っている。

 彼女は私との争いに魔法は使わない。

 私とは、その身だけで戦いたいと。

 魔法を使えば、私に勝てるかもしれないのにね。



 殺し合いは、5分も続いた。

 そして、争いの終わりは、あっさりと訪れた。

 私の針が、心臓を貫いた。


 戦いの顛末はこう、悟は、集中力、スタミナ共に私より劣っている。

 長期戦になるにつれ、彼女はピンチになっていく。

 そして、その隙を突いた、私の勝ち。


 最強と謳われた、二人の少女の争いは、幕を閉じた。

 その後、彼女たちのもとには多くのプレイヤーが一発逆転を狙い、彼女たちに挑戦をした。


 しかし、彼女たちに、掠り傷一つつくことはなかった。

 それどころか、息一つ上がらず、片手の武器一つで、全員を返り討ちにしたという。


 そして、10時間後、私たちを含む約100人が、この世界からログアウトされた。



「久しぶりに、こっちに帰って来たな……」


 プレイからログアウトして、現実世界にかえってきた。

 実に数年ぶりか、腕には、複数のチューブが繋がれている。

 そこからは、生命活動において必要な栄養素が流れてきている。

 数年も、寝たきり生活、体中の筋力は衰えている。点滴スタンドを、松葉杖代わりに、私は、歩き出す。


 私と、ともに最強と謳われた彼女のもとに。

 ……彼女はすぐに見つかった。というより、私の方が見つかったと言うべきだろう。

 病院のロビーで、彼女は私を探していたらしい。そこに私が訪れて……と、言う感じだ。


「……こっちでは、初めましてだね」


「そうだね、悟ちゃん」


「これからどうしようか」


「そんなの決まってるでしょ」


 私たちは、最強のゲーマー。でも逆に、最弱の人間だ。

 ゲームの世界から逃れることのできない、哀れな、二人の少女だ。

 だからと言って、問題はない。

 さぁ、次は、どんなゲームを攻略しようかな


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