9・呪いのアイテムを集めます
あれから一週間が経ち──。
「いやあ、本当に助かるよ」
ベイルズの王都。
民家の玄関で、人が良さそうな女性にお礼を言われます。
「こちらこそ、ありがとうございました。ですが……本当にタダでいいんですか? あまり多くは払えませんが、せめて少しだけでも……」
「いいんだって! アタシたちだって、呪いの食器なんて買ってしまって、困ってたんだ! 簡単には手離せないしね」
呪いのアイテムの中には捨てても、いつの間にか所有者の元に返ってくるものもあります。
それどころか、捨てる度に呪いが強くなる例も。
それを知っていたからこそ、目の前の女性も呪われた食器を手離せられなかったのでしょう。
「呪いを浄化してもらっただけでも大助かりなのに、引き取ってくれるって、大助かりさ! 呪いはもう消えてるとはいえ、手元に置きたくないからね」
「でも……」
「だから、いいって! ──そうだ」
彼女はなにかを思い出したかのように民家の奥に引っ込み、やがて右手になにかを携えて戻ってきました。
「これ、アタシの手作りのクッキーだよ。よかったら、これも持っていきな」
「いいんですか? ありがとうございます。至れり尽くせりで……」
「お礼なんていらないよ! アタシも他に呪いのアイテムを持って、困っている人がいないか探しておくよ」
「はい!」
一礼して、私はその場を立ち去りました。
呪いのアイテムを探して、それを自分の道具屋で売る──。
私がベイルズにやってきて思い付いた策ですが、今のところ驚くほど順調に進んでいます。
やっぱり、呪いのアイテムを持ってしまったせいで、困っている人は多いみたい。
解呪師は貴重で、なかなか見つからないですからね。
仮に見つかったとしても、解呪費用が高値で、一般家庭では到底払えません。
だから、私のようにタダで……しかも、元々呪われていたアイテムを引き取ってくれる存在は有り難いんでしょう。
「呪いのアイテム──もとい、呪われていたアイテムも数が揃ってきました。そろそろ、開店できるかもしれません」
先ほど譲ってもらった食器は、背負っているリュックサックの中に入れています。
その重みを感じていると、ついつい独り言も多くなります。
もちろん、呪いのアイテムを見つけるのと並行して、お店の掃除も進めていました。
当初は「どうなるんだろう?」と途方に暮れるほどでしたが、今ではそれなりにキレイになっています。
お店の二階部分を生活スペースとして使うことも出来ますし、メルヴィンさんに本当に感謝です。
とはいえ、まだまだやるべきことはありますが……それも、そこまで多くありません。
徐々に近付いてくる開店日に、心躍りました。
「一度、お店に帰りましょうか。白狐のコユキちゃんも待っているでしょうしね」
それにしても……。
歩きながら、私は街並みを眺めます。
いつも活気に満ちている王都ですが、今日は心なしか、みんなが浮き足立っているように感じました。
「あの、すみません」
疑問に思い、私は通行人の一人に声をかけます。
「なんだか今日は、賑やかですね。もしかして、どこかで祭りかなにかが開かれているんですか?」
「お嬢ちゃん、知らないのかい? 外国の方?」
すると通行人の方は目を丸くして、こう続けます。
「今日は『王族視察』の日なんだ」
「王族視察?」
「ああ。この街では定期的に、王族が騎士と共に街を巡回しているのさ。そうするだけでも治安の向上にも繋がるし、運がよければオレたち市民の意見にも耳を傾けてもらえる。だからみんな、そわそわしてるんじゃないかな」
なんと、そんなことが。
セレスティアにはない光景でした。
王族の人は基本的に、王城から出ませんからね。
しかし、王族の人が街に出て、市民の話に耳を傾けるのはいい制度だと思いました。
こちらの王族は、さぞ立派な方たちなのでしょう。
セレスティアの王子、サディアスは……確かに街を出歩いていますが、それも主に夜です。
しかも目的は女を引っ掛けるため。
ここでも二つの国の違いを知り、セレスティアに呆れるやら、ベイルズに感服するやら……。
「ありがとうございます」
「ああ」
お礼を言って、再び歩き出します。
王族の方……一目見たい気もしますが、あまり会わない方がいいでしょう。
なにせ、私は元聖女。セレスティアの聖女は基本、秘匿されているので、王族の方たちでも私の顔を知っているとは思いませんが……万が一があります。
「人のいなさそうな道を歩くべきですね」
そう呟き、私はなるべく人気が少ない方向に歩を進めます。
徐々に近くを歩く人が少なくなっていきます。心なしか、日当たりが悪くなってきた気も。
そしてそれは、路地裏に差しかかった時でした。