40・ハッピーエンドの後は
その後の話。
私とウィリアムは“穢れ”の王を倒したのち、セレスティアに向かってきていたベイルズの騎士団と合流しました。
その中にはクラークさんもいて、ウィリアムの勝手な行動を嗜めていましたが……ウィリアムはどこ吹く風。楽しそうに笑っていました。
懸念していたセレスティアの王族たちだけど、ベイルズの騎士団によって全て捕らえられたみたい。
もちろん、今回の首謀者であると考えられるキース様も。
ウィリアムが、あの時に言っていた言葉はそういう意味だったんですね。
それから、しばらく私たちはセレスティア王都に滞在することになりましたが、その間にも国の情勢は混乱していました。
王族は俺たちを犠牲にするつもりだったのか?
死人は出なかったものの、たくさんの人が傷ついた。
この落とし前、どう付けさせる。
もう、こいつらに国は任せられない!
……などなど。
今は全員、王族たちは城地下の牢獄に閉じ込められているらしいですが、これからどうなるでしょうねえ。
よくて一生そのまま。悪くて死刑になるでしょう。
それほどのことを、セレスティアの王族たちはやったのです。
セレスティア王都も落ち着きを取り戻し始めた頃、ベイルズ以外の国からも干渉もありました。
“穢れ”の王は禁忌。
その禁忌を自ら起こしてしまっては、地図上からセレスティアが消えてもおかしくありません。
どうなることかハラハラしてしましたが、最終的に国自体は残ることになったみたい。
しかし王政を含め、全てが刷新。
他国の干渉もありつつ、セレスティアはこれから新しい国の形を模索していくことになりそうですが……ここから先は、祖国を捨てた私には関係のない話です。
全てを終わらせたのち、私たちはベイルズに戻りました。
『ご主人様のことが心配で心配で……っ!』
道具屋ユキのしっぽに帰ると、真っ先にサビィちゃんが抱きついていたことが、とても印象的です。
ユキのしっぽは私が留守中、サビィちゃんが立派に守ってくれました。さすがです。
おかげで私もすぐに、ユキのしっぽの店内に立つことが出来ましたし、サビィちゃんにはいくら感謝しても足りません。
あっ、そうそう。
サディアスとエスメラルダさんのことです。
まずはエスメラルダさん。
直接的な原因ではないものの、エスメラルダさんがサディアスを誑かしていなければ、私がセレスティアを去ることはありませんでした。
そうなっていなければ、キース様の企みも阻止できたかもしれません。
なのでエスメラルダさんの責任も追及されましたが、その罰は最低限のもの。
彼女の実家の子爵位は取り下げられたものの、家族の誰も懲役刑を科されませんでした。
あれほど過熱していた国民感情だったら、殺されてもおかしくはありませんでしたが……彼女もサディアスの被害者だったということで、そういった結末に落ち着いたようです。
貴族でなくなったエスメラルダさんですが、今後は修道院に行き“穢れ”を払う力を磨くことに決めたそうです。
なんでも私に助けられたことをきっかけに、私のような聖女になりたいと考えたみたい。
“穢れ”の王が消滅した以上、聖女という役職は必ずしも必要というわけではないのですが、彼女なりのケジメでしょう。
別に私は自分のためにサディアスを助けただけで、エスメラルダさんのために行動したわけではないのに……と思いましたが、これ以上彼女に口を挟むべきでもありません。
きっと、大きな過ちを犯した彼女なら立派な解呪師……いえ、聖女になってくれるでしょう。
そして、サディアス。
サディアスも……ですが、死刑にならなかったみたい。
彼は“穢れ”の王復活のための生贄となるため、キース様からその計画を聞かされていませんでした。
ただ、とーーーーんでもなくバカだっただけで、情状酌量の余地ありと判断されたそうです。
ですが、彼の罪はなくなりません。
もしかしたら、一生牢獄の中で暮らすことになるかもしれませんが……以前までのサディアスと違って、今の彼は自らの過ちに気付いています。
きっと、いつかはもう一度日の目を見ることになる……と私が考えるのは、優しすぎでしょうか。
というわけで。
しばらくバタバタしていましたが、ようやく日常が戻ってきました。
夜。
今日の営業時間も過ぎ、私は店先に出て、閉店作業をしています。
サビィちゃんには一足早く寝てもらったので、一人の作業になりますが……不思議と心地いい疲労感が体を包んでいました。
「今日も……いい日でしたね」
商品もたくさん売れましたし、お客さんも優しい。
なに一つ不満のない日々。
だけど……今の私は、言いようのない寂しさも同時に感じていました。
その理由は、はっきりしています。
「ウィリアムに……会いたい」
ベイルズに帰ってきてから。
彼は王子としての職務に追われ、お店に顔を出してくれません。
とはいえ、短い間でしたが……以前とは違い、少しでも彼に会えないとどうしようもない寂しさが胸を満たします。
「今まで、こんなことなかったのに……」
ですが、その理由も分かっています。
──私は、ウィリアムが好きなんです。
今まで、気付かないふりをしていた想い。
また、片想いは辛いから──。
ですが、彼へのどうしようもない気持ちが溢れたのか、先日の“穢れ”の王の一件でした。
王と戦っている際、私は彼と心と心で通じ合っているような感覚を抱きました。
あれ以来、ウィリアムのことを常に意識してしまい、彼といつも一緒にいたいと思うようになってしまいました。
「……バカなことを思うのはやめましょう。私はただの道具屋の店主。第一王子のウィリアムとは釣り合うはずがないのですから」
勘違いは辛いだけです。
私はそれを、セレスティアにいた頃に学んでいます。
「閉店作業も終わりましたし……寝ましょうか。このバカな気持ちも、時が経てばなくなるでしょう」
と踵を返そうとした時──。
一人の来訪者が、道具屋ユキのしっぽに現れました。
「アルマ、今はいいか? 大事な話があるんだ」