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37・神童だった男の末路

(サディアス視点)



 僕──サディアスは昔、神童と言われていた。

 剣術、勉強、なにを取っても周りを驚かせていた。


 弟のキースは生まれつき体が弱かったことから、早いうちから僕は次期国王だと祭り上げられていた。


 けど、徐々に歯車が噛み合わなくなってきたのは十年前くらいから。

 隣国のベイルズでは“穢れ”の王が現れ、大災害をもたらしていた一方、僕は家庭教師の先生が言うことに付いていけなくなった。


 今まで、なんの苦労もしなかったのに。

 簡単に出来ていたことが、出来なくなった。


 そんな僕を、周りは『早熟だったか』と見放す。

 あれだけ僕を褒めてくれていた大人が、一気に手のひら返しをする。

 僕は大人が怖くなった。


 そして、僕もそんな大人たちの仲間入りをした時、全てを諦めて女に走った。


 街の女は、僕に優しくしてくれるから。

 僕に失望しないから。

 女の肌の温かみに触れると、不安が薄れていった。


 幸い、僕は見た目がいい。

 甘いマスクで囁けば、女はすぐに僕になびいた。


 僕はもう、このままでいいんじゃないか。

 一時の快楽に溺れて、楽しく暮らせればいい。


 王座につけばさすがにこんなことは出来ないだろうが、それまでの贅沢だ。今まで僕は頑張ってきた。女神様も僕を許してくれるんじゃないか。


 そう思ったら心を蝕んでいた不安もなくなったが、ある女の登場でまたもや再燃する。


 聖女アルマだ。


 アルマはなんでも出来る女だった。

 どれだけ強い“穢れ”も払い、浄化する。それでいて自分の力に驕らず、努力をし続ける。

 彼女が成果を出せば、まるで自分の愚かさを見せつけられるようで苦痛だった。


 だからかもしれない。

 僕は無意識のうちに、彼女を遠ざけたかったのだろう。

 エスメラルダに第一の聖女になってもらい、彼女を冷遇しようとした。


 だが、その選択は過ちだったのだ。



 ああ……もう一度やり直すことが出来るなら。

 今度はアルマのように、前だけを向き続ける人間に──。



 しかし後悔しても、もう遅い。自分の体のことだ、分かっている。僕は直に死ぬ。


 心地よさすら感じる安寧の中で、死を受け入れていると──そんな僕を引っ張り上げるなにかが現れた。


『それに……サディアスには、一言文句を言ってやりたかったですからね! それも伝えられず、こんなので死なれたら困ります!』


 誰の声だっただろう。聞いたことがあるような……。


 そして真っ暗だった世界に光が差し込む。

 ゆっくりと瞼を開けると、僕の大嫌いだった女がいた。


「お目覚めですか?」



 ◆ ◆



「お目覚めですか?」


 目を開けたサディアスに言葉をかけると、彼は戸惑いの表情を浮かべました。


「アル……マ……?」

「はい。第二の聖女、アルマです」


 皮肉っぽく答えます。

 サディアスはまだ状況に戸惑っているようで、答えは返ってこなかったけれど。


「サディアス様!」


 意識を取り戻したサディアスに、エスメラルダさんが抱きつきます。


「エスメラルダ……も。これは、どういうことなんだい?」

「あなたはキース様に刺されて……! アルマ様が救ってくれたんですよ! あなたの体を蝕む“穢れ”を全て浄化して! あなたには思うところもありますが……生きていてよかった!」


 涙を流すエスメラルダさん。


 ……思えば、彼女もサディアスの被害者だったかもしれません。

 少なくとも、サディアスを前に涙を流すエスメラルダさんを責める気にはなれませんでした。


「アルマ、あれを見てくれ。“穢れ”の王が苦しんでいる」


 ウィリアムの声で意識を引き戻されて、街中を闊歩している“穢れ”の王を見上げます。


 “穢れ”の王は頭を抱えて、苦悶の声を上げています。

 鼓膜を突き刺すような声です。周囲の街の人たちはさらに恐慌に陥りますが、私は絶好の機会だと感じました。


「やはり、サディアスが生存することにより、王の“穢れ”の力が弱体化しているようです。今なら……!」


 私は希望の光を見ます。


「アルマ」


 ウィリアムが再び私の名前を呼び、真っ直ぐキレイな瞳を向けます。


「俺は“穢れ”の王を倒しにいく。だが、俺一人ではまだ、あの邪悪な王には届かないだろう。だから……君も来てくれるか? 君のことは絶対に守るから」

「当たり前です。そのために私はここに来たんです。お互いの目的を果たしましょう!」

「ああ……!」


 頷き合い、私とウィリアムが馬に騎乗しようとすると、


「ま、待ってくれ」


 サディアスに声で制止されます。


「あ、ありがとう……僕を助けてくれて」

「助けたくって助けたわけではありません。“穢れ”の王を弱体化させるために、仕方なく助けただけです。詳しく説明している時間はないので、恋人にでも聞いてください」

「それでも……だ。君には僕を助けない選択肢があった。僕に……その、文句とかはないのか?」


 恐る恐るサディアスが私に問いかけます。

 彼のまるで親に叱られる前の子どもみたいな表情を見て、私は深く溜め息を吐きました。


「……もう、いいですよ。色々言ってやろうと思っていましたが、あなたの今の顔を見て、全て吹き飛びました」


 ほっと安堵の息を吐くサディアス。


 だけど。


「だからといって、これでチャラにするわけにはいきません。しっかりと歯を食いしばってください!」

「え?」


 きょとんとするサディアスを視界に入れ、私は拳を握ります。


「元聖女パーンチ!!」


 ドンッ!!

 鈍い音が立ったかと思うと、サディアスは口から苦しそうな声を漏らし、地面に再び倒れました。


「……ふう、すっきりしました。これでチャラです。あとは平和になった世界で、しっかりと罪を償ってください」


 頬を押さえて私を見上げるサディアスに微笑み、あらためて私はウィリアムの後ろに騎乗します。


「気は済んだか? アルマ」

「ええ。そんなことより、行きましょう。あとは“穢れ”の王を倒してハッピーエンドです」


 そう言うと、私たちを乗せた馬が発進し、“穢れ”の王に向かっていきました。

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