表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/35

31・俺の使命(ウィリアム視点)

(ウィリアム視点)


 メルヴィンから衝撃の真実を知らされた俺は、急いで王城に帰り、国王陛下と謁見していた。



「──というわけで、ヤツはセレスティアに、“穢れ”のアイテムを流してしまいました。その理由は、“穢れ”の王復活のためです」



 俺の言葉に、陛下は黙って耳を傾けている。

 なにも言おうとしない陛下の態度に、俺は苛立ちを覚えた。


「“穢れ”の王が復活すれば、その被害はこの国──ベイルズにも及びます。こるのは十年前の大災害の再来でしょう。陛下、セレスティアへの挙兵をお許しください。俺が兵を率います」


 覚悟を持っての進言であった。


 陛下は玉座の背もたれに体を預け、目を閉じる。

 そしてすーっと息を吸い、とうとう口を開いた。


「──挙兵を許可する。十年前の再来はなんとしでも阻止せなばならぬ。たとえそれが、セレスティアとの戦争を意味することになってもな」

「陛下……っ!」


 よかった……!

 やはり、陛下も事の重大性が分かっておられたのだ。


 陛下から許可が出て、気持ちがさらに昂る。

 “穢れ”の王の復活を阻止……仮にそれが無理だったとしても、俺自身の手で“穢れ”の王を倒す。


 それが、俺が十年前から抱いている使命で──。


「だが──」


 しかし、次に陛下から語られる言葉は、俺にとって到底受け入れられないものであった。


「ウィリアム、そなたがセレスティアに向かうことは許可できぬ」

「なっ……!」


 愕然とする。


「陛下! なにを考えられておられるのですか! 皆が戦っているというのに、俺は国内でぬくぬくと待っていろと!?」

「その通りだ」

「陛下はこの十年間、俺が()()()()()()で過ごしてきたかお分かりでしょう!? その命令には従えません! 俺もセレスティアに向かいます!」

「ウィリアム……」


 必死に懇願する俺に対して、陛下は悲しみの眼差しを向ける。


「そなたが“穢れ”の王について、並々ならぬ想いを抱いていることは知っている。謂わば、そなたの感情は“復讐”だ。たとえ死んでも、“穢れ”の王を打倒しようとするだろう」

「なら……っ!」

「だからこそ、儂は心配なのだ。いくらそなたとて、“穢れ”の王と戦えば無事にすまない。儂に、()()も家族を失えというのか?」


 陛下の言葉は、臣下の一人に向けられたものではない。

 大切な息子をなくしたくない、という一心からのものであった。

 俺も、今は陛下が大切な者を亡くした、一人のか弱い男性に見えてくるが……だからといって、首を縦に振るわけにはいかない。


「そなたは事態が収束するまで、城の中で待機。街に出ることも許さん」

「納得できません」

「そなたは儂の親心を理解せぬか。儂も譲るつもりはない。だが……一方で、儂の命に従えば、そなたが一生後悔するのも見えておる」


 陛下は俺の瞳をじっと見つめ、こう問いかける。


「だから、そなたの覚悟を示せ。()()()()を捨てるなら、儂はこれ以上は止めぬ」


 陛下の言葉にハッとなる。



 ──王子の名を捨てる。



 それは俺にとって、重い言葉だった。


「……分かりました。()()()()()、陛下の命に従います」


 覚悟を決めて、俺はすぐに頷く。


 玉座の間を後にして、俺が向かったのは城内の自室だ。

 そして誰にも言わずに、身支度を始める。


「お許しください、陛下」


 そう呟き、俺は城を抜け出した。




 外はすっかり日が落ちていた。

 夜が深くなっていくにつれ、大通りを歩く人の数も少なくなっていく。


 法廷内での出来事は、箝口令が敷かれている。

 ここにいるほとんどは、“穢れ”の王が復活しようとしているなど夢にも思っていないのだろう。


 みんなは充実した顔で、家路を急ぐ。

 明日はどんないいことがあるのか──そう未来に期待しているかのようだった。


 平和な光景だ。

 俺はこの国が大好きだ。


「馬を走らせれば、セレスティア王都まではさほどかからないか」


 街の風景を目に焼き付けてから、郊外にある隠し厩舎に向かおうとすると──。


「……ん」


 途中、とある建物を見かける。


 そのお店は人通りの少ない場所に、ひっそりと佇んでいた。

 しかし、店先には花が飾られ、自然と足を運びたくなるような店だ。


 窓からは中の光が漏れ出て、うっすらと物音も聞こえてきた。

 看板にはユキのしっぽと書かれている。



「アルマ……」



 彼女の名を呟く。


 急がなければならない。

 そうじゃないにしても、今の俺は無許可で城内を抜け出してきた立場だ。いつ城の者に見つかるか分からないし、

 こんなところで道草を食っている場合じゃない。


 だが、何故だろう。

 最後に、彼女の顔をどうしても見たくなった。


「別れの挨拶をしよう」


 気付けば、導かれるように俺は道具屋の扉に手をかけていた。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

ブックマークや下記の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ