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25・思わぬ報せ

 手紙の差出人はメルヴィンさんでした。


 そこに書かれていた内容を掻い摘まむと、


『事情が変わって、あなたにこのお店を貸せなくなった。一刻も早く、店から出ていってほしい』


 ……です。


「ど、どどどうしましょう!?」

「んにゃ?」


 一人で慌てていると、サビィちゃんが隣の部屋から顔を出します。


「どうしたのにゃ?」

「サビィちゃん、これを見てください!」


 私はサビィちゃんに手紙を渡します。

 彼女は「ふむふむ」と何度か頷きながら、手紙の内容に目を通していました。


「なるほど……にゃ。ご主人様はこの国に移住してから、そんなに日が経っていないと聞きましたにゃ。それなのに、どうしてこんな素敵なお店を構えられたのかと思っていたら……そういうことだったのにゃ」

「はい。メルヴィンさんのご厚意で、このお店は無償で貸してもらえていたのです」


 とはいえ、お店も軌道に乗ったので、今では賃料をお支払いしていますけれどね。

 なのに、いきなりどうして……?


 ですが、よくよく考えると今までが出来すぎでした。

 メルヴィンさんがいなければ、私は今頃まだお店を開けていなかったでしょう。


 他の場所に引っ越す? 

 いえ、まだそこまでのお金は貯まっていません。お店を移すとなるとせっかく定着してくれたお客さんが離れてしまうかもしれません。

 コユキちゃんともお別れしたくないですし、出来ればこのお店を使い続けたいというのが本音。


 ですが、元々はメルヴィンさんのご厚意だったこともあり、私に無茶を言う権利はありません。


「メルヴィン……」


 頭を悩ませていると、サビィちゃんがぽつりと呟きます。


「ご主人様、このメルヴィンというのはヴァルローン伯爵家の当主ということで、間違いないかにゃ?」

「そうだと聞いています」

「んにゃ……だったら……」


 サビィちゃんは、なにか知っているんでしょうか。

 目の力を強いものとし、手紙から顔を上げます。


「とりあえず、メルヴィン伯爵と話し合いの場を持とうにゃ。話し合えば、なにか変わるかもしれないにゃ」

「で、ですね」

「その話し合いにゃけど……すぐじゃなくて、少し待ってもらってもいいかにゃ? 出来れば、三日くらい。あと、話し合いの場が持たれたら、白狐のコユキちゃんのことは話さない方がいいにゃ。嫌な予感がするから」

「……? 分かりました」


 なんでしょう。

 疑問に思いましたが、サビィちゃんにもなにか考えがあるんでしょう。そう思い、首を縦に振りました。


 果たして、話し合いでメルヴィンさんの気を変えることが出来るでしょうか。


 ですが……なにもしないまま、お店を空けるのも惜しすぎます。

 一度、メルヴィンさんに詳しい事情を聞いてから考えますか。

 

 私はすぐにメルヴィンさん宛の手紙を書き、話し合いの日程を決めるのでした。



 ◆ ◆



 そして三日後──。

 私とサビィちゃんは、メルヴィンさんの屋敷に足を運びました。



「いやぁ〜、すみません。こちらの不手際です。アルマさんには、大変なご迷惑をおかけすることになります」



 応接間。

 話し合いは意外にも、和やかなムードから始まりました。


「いえいえ。元々、あなたのご厚意であのお店を貸してもらいましたから。あなたに出ていけと言われたら、私はそうするのが筋でしょう」


 そんなメルヴィンさんに、私は丁寧に答えます。


「ですが……その前に聞かせてください。どうして、いきなりそんなことを言い出したんですか?」

「資金繰りに失敗したからです」


 メルヴィンさんは眉を下げ、肩をすくめます。


「実は最近、事業が上手くいかなくてですね。借金も多く、すぐに返済する必要が出てきました」

「なんてこと……」


 知らなかったです。

 私が楽しく暮らしている裏で、メルヴィンさんがそんな大変な目に遭われていたなんて……。


「私も口惜しいんです。せっかく移民者の方が、商売を成功させているというのに……」


 そう言うメルヴィンさんは、ほとほと困り果てているように見えました。


「今、言い出すのもなんですが……お支払いしている賃料を引き上げてもらっても、構いません。それでもダメですか?」

「いえ、いけません。今すぐ、お店を空けてください」


 交渉しますが、メルヴィンさんは一歩も譲りません。


 うーん……やっぱり、あのお店を去らなければならないのでしょうか。

 あくまで、あのお店の所有権はメルヴィンさんのもの。私はただ、彼のご厚意に甘えていただけ。


 メルヴィンさんの事情も分かりました。

 ならば、ユキのしっぽはメルヴィンさんに返すべきでしょう。


 と、三日前の私なら諦めていたところですが──、



「待つにゃ。ご主人様、そいつの言うことを聞く必要はないにゃ」



 満を持して。

 サビィちゃんが声を上げました。

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