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24・初の従業員です

「雇う?」

「うんにゃ」


 サビィちゃんは顔を上げ。


「アルマご主人様がサビィを救ってくれたと聞きましたにゃ。だから、なんとか恩を返したいと思って……それで道具屋をやっていて、人が足りてないと聞きましたにゃ。だからサビィが働く、ダメですかにゃ?」


 首を傾げるサビィちゃん。


 うぅ、可愛いです。

 こんな可愛い顔をして見つめられたら、「いいえ」なんて言えません。


「ウィリアム、これは一体……」


 戸惑い、私はウィリアムに説明を求めます。


「君のことを話したんだ。そうすると、彼女は君に恩を感じたみたいでな。人不足で困っていると聞いていたし、名案だと思ったが……どうだ?」


 ウィリアムがサビィちゃんにどんな説明をしたのかは分からないけれど……彼女を救ったのは、あの時にいたみんなのおかげ。

 だから、私がサビィちゃんは救って──というのは、少し語弊があるかもしれません。

 

 ですが、サビィちゃんのお願いを断る理由もありません。


「私の方こそお願いします。サビィちゃんならきっと、道具屋の看板娘になれますよ!」

「やったにゃ!」


 サビィちゃんは私から離れ、両手を上げて喜びます。

 その無邪気な様子は、まるで猫みたいです。

 

「よろしくお願いしますにゃ! アルマご主人様!」

「はい! ですが……少し気になりますね」

「にゃ?」


 不安そうな表情をするサビィちゃん。


「その……ご主人様というのは、やめてくれませんか? 私はそんなに偉くありませんので。もっと友達みたいに呼んでくれると嬉しいです」

「にゃにゃ! そんな訳にはいきませんのにゃ! ご主人様はサビィの恩人。まさに救世主! 友達みたいに、って恐れ多くて出来ませんのにゃ!」

「でしたら、せめて敬語はやめてくれませんか? そちらの方が喋りやすいというなら別ですが、そうではないんでしょう?」


 なんとなくですが……サビィちゃんには、今の喋り方が合っているとは思えません。


 最初に出会った時、サビィちゃんは恐怖で震えていました。


 しかし、今は違います。

 明るく元気な今のサビィちゃんを見ていると、彼女にはありのままの姿でいてほしいと願いました。


「それくらいなら……いいですにゃ」


 渋々といった感じでサビィちゃんは頷き。


「アルマご主人様、これからよろしくお願いするにゃ。これでいいにゃ?」

「はい、よく出来ました」


 笑顔で答えます。


 ……なんにせよ、ユキのしっぽ初めての従業員です。

 これからは、私一人の道具屋ではありません。

 彼女をしっかり養っていかなければ……そう強く、決意しました。



 ◆ ◆



 サビィちゃんが、ユキのしっぽの従業員になってくれて。

 早くも、彼女はお店の雰囲気に溶け込みました。



「いらっしゃいませにゃ! ご主人様が集めたアイテムを並べているにゃ! ごゆっくり見ていってほしいにゃ!」



 店内にサビィちゃんの明るい声が響き渡ります。


 彼女にしてもらっていることは、主に接客。あとは店内のお掃除や、商品の陳列です。

 彼女は物覚えがよく、すぐに仕事を覚えてくれました。

 元々、頭がいい子なのかもしれません。


 お客さんたちは当初、新しい従業員を物珍しそうに見ていましたが、すぐに彼女の虜になりました。

 いつしか、商品を買うだけではなく、サビィちゃんと話したいから来たというお客さんもいるくらい。

 まだまだ獣人差別をする方は一定数いるので、不安でしたが……少なくとも、ここに来てくれるお客さんはそういう方はいないようです。


「アルマちゃんもいい子を雇ったね。あの子、この仕事に向いてると思うよ」

「私もそう思います!」


 お客さんに、私はそう頷きます。


 サビィちゃんがいてくれることで、私も商品の仕入れの時間を増やすことが出来ました。

 さらに、“穢れ”の悩みを抱えたお客さんを、解決に導いてあげることも。

 それによって、さらに道具屋の評判も広まり……ますます、お客さんが増えていく一方です。


 私一人ではここまで出来なかったことですが、今はサビィちゃんがいます。

 彼女が来てくれて、本当によかったと思いました。


 あっ。

 そうそう。


 サビィちゃんはお金が貯まるまで、私と一緒に道具屋の二階に住んでもらうことになりましたが……その時、こんな面白いことが起こりました。



「にゃにゃ!? にゃんにゃのにゃ!? この白い狐は!」



 驚いているのか、いつもより『にゃ』を言う回数が多いサビィちゃん。


「うーん……サビィちゃんにも言ってしまってもいいですか。ここに暮らす以上、いつかはバレますし」

「内緒にしてたのにゃ?」

「そういうわけではありません。たまたま、姿を現さなかっただけですよ。その子はコユキちゃんといいます」

「きゅう!」


 私はサビィちゃんに説明します。


 この道具屋には、土地神である白狐がいる。

 私はその白狐にコユキちゃんと名付け、一緒に頑張ってもらっている。

 たまにしか姿を現さないけど、仲良くなってほしい……というようなことを。


「なるほどにゃ。まさか土地神が宿っていたなんて……」


 すぐに理解したサビィちゃんは、コユキちゃんの前で膝を曲げます。


「サビィはサビィというにゃ。サビィとも、仲良くしてくれるにゃ?」

「きゅう!」


 コユキちゃんがサビィちゃんの胸の内に飛び込みます。


「にゃにゃにゃ、くすぐったいにゃ!」


 コユキちゃんに懐かれ、とても嬉しそうなサビィちゃん。


 土地神は本来、心の清らかな人しか見えません。

 サビィちゃんもコユキちゃんが見えるということは、彼女も土地神に選ばれた人間だったということでしょう。


 そういうわけで──私とサビィちゃん、コユキちゃんの三人(二人と一柱?)で楽しく道具屋を営んでいました。




 ですが、道具屋も開店して一ヶ月が経とうかとする時。

 その一報は、手紙によってもたらされました。



「た、退去勧告!?」

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