22・作戦成功です
その後、エドガーを拘束し、私とウィリアムはみんなのところへ戻りました。
「「「殿下!」」」
私たちを見て、騎士たちが一斉に駆け寄ってきます。
「ご無事でしたか!」
「ああ、問題ない。転移した先で、〈真紅の爪痕〉の親玉と戦いになったが……大したことがない男だった。俺一人でも、簡単に倒すことが出来たよ」
とウィリアムは拘束されているエドガーに目を向けます。
彼は悔しそうに「けっ!」と唾を吐き、視線を逸らすのみでした。
「なんと……! それは素晴らしい。さすがはウィリアム殿下です!」
騎士たちが一様に、ほっと胸を撫で下ろす光景が広がります。
……今回の作戦の肝は私とウィリアム、クラークさんの三人しか知りません。
ゆえに、裏でどんな企みがあったのか、他の騎士は知りません。
なので、クラークさんだけは転移先でなにがあったのか想像できたのでしょう。
騎士たちには見えない位置で、くすりと小さく笑っていました。
「殿下、こちらも制圧完了しております。アジト内にいる〈真紅の爪痕〉のメンバーを、全て拘束し終えました」
他の騎士がウィリアムにそう告げます。
その視線の先には、縄で拘束されている男たちがいました。
とはいえ、全員でたった五人だけ。
このアジト内には、ほとんど人員を配置していなかったようですね。
魔の森の瘴気を防ぐアイテムも有限ですし、あまり数を割くわけにはいかなかったということですか。
仮にアジトの場所がバレたとしても、魔の森に立ち入る必要がある。それは不可能。
……そう油断していたのでしょう。
その油断が、彼らの命取りとなりました。
「あとは、アジト内を探索するぞ。こいつらが溜め込んでいる宝もあるだろうからな。手分けして、それらを収集する」
「「「はっ!」」」
ウィリアムが指示を出すと、みんなは散り散りになってアジト内をくまなく探索し始めました。
ウィリアムの推測通り、アジト内には高価そうな宝石や装飾品、魔導具がありました。
一つ残らず確認し、それらを一箇所に集めます。
「ほとんどのものが、“穢れ”に塗れていますね」
宝の山を眺めて、クラークさんがそう声を零します。
とはいえ、これは予想していたこと。
ただでさえ、魔の森内で保存していたアイテムなのです。
今はアジト内の魔導具により“穢れ”の効果は封じられていますが、それも一歩外に出てしまえば別。
たちまち牙を剥き、“穢れ”は私たちに襲いかかるでしょう。
「いくら元が高価なものでも、これだけ“穢れ”に塗れていれば、ろくに買い手も見つからないはずだ」
ウィリアムがエドガーに視線を移します。
「それなのに、貴様はこれをどうするつもりだったんだ?」
「こういうアイテムを欲しがる物好きも、世の中にはいるんだよ。世間知らずの王子殿は知らないだろうがな」
エドガーがバカにするように笑います。
「それにしても……こんなの回収して、元の持ち主に返すつもりか? それとも、城内で保存する? どっちにしろ、無駄だぞ。“穢れ”に塗れたアイテムなんか、誰も欲しがらないだろうし、保存するにしても城内が“穢れ”塗れになっちまうからな」
エドガーの言葉からは、余裕のようなものが感じられました。
どうせ、私たちではなにも出来ないと思っているのでしょう。
ですが。
「アルマ、頼めるか?」
「はい」
一箇所に集めた“穢れ”のアイテムたちに、私は手をかざします。
「は……? なにをするつもりだ」
その様子を、エドガーは不思議そうな顔で眺めていました。
──浄化。
温かい光が、“穢れ”のアイテムを包みます。
すると、あっという間に“穢れ”が払われ、真っ新なアイテムたちへと戻りました。
「なっ……!」
その光景を目にして、エドガーが言葉を詰まらせます。
「じょ、浄化しやがっていうのか!? 今の一瞬で!?」
「そうですが、なにか?」
「あ、有り得ねえ……一つだけでも、腕のいい解呪師が時間をかけて浄化しなければならない代物だ。それを一瞬で……しかも、まとめて……なんて」
捕まってもなお余裕の態度を崩さなかったエドガーですが、私の力を前に愕然としました。
ふふっ、やっと彼の鼻を明かすことが出来ました。
少しいい気分。
「広範囲の白聖結界といい……王子殿は、随分と腕のいい解呪師を見つけたようだな」
「貴様とは違い、俺には人望があるからな」
ウィリアムも、私と同じ気分なのでしょうか。不敵な笑みを浮かべて、エドガーを見下ろしていました。
「さて……これ以上、長居は無用だ。こいつらを連れて、すぐに王都に帰り──」
「ウィリアム様」
ウィリアムが次なる指示を出そうとすると、クラークさんが駆け寄ってきて彼になにかを話します。
「実は……」
「うむ……? そうなのか。人から金品を奪うだけではなく、そのようなことにも手を染めているとは……」
……えーっと、なにを話されているのでしょう。
私がいる位置からでは、彼らの話の内容まで聞き取れませんでした。
「ウィリアム殿下、クラークさん、どうされたんですか?」
騎士の前ということもあって──私はウィリアムの名前に『殿下』と付け、そう質問します。
「そうだな……見てもらった方が早い。少々気分が悪くなる光景かもしれないが……大丈夫か?」
「はい……? 大丈夫ですが……」
頷くと、ウィリアムとクラークさんは、アジトの奥に向かって歩き出しました。
私も彼らの後に付いていきます。
そして階段を何度も降りて、一番最奥。
より一層薄暗く、じめじめとした場所です。
「牢屋……でしょうか?」
鉄格子に阻まれた部屋が、いくつも並んでいました。
その中の一番奥。
牢屋の中で、可愛らしい獣耳を生やした少女が、膝を抱えて座っていたのです。
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