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19・白聖結界

 閉店後にウィリアムがお店を訪れて早々、言うことが重なると、私たちは二人できょとんと顔を見合わせました。


「ウィリアムも相談事があったんですか?」

「そうだが……君も?」


 どうやら、お互いに悩みを抱えていたみたいです。


「ウィリアムから言ってください。気になりますので」

「そうか。じゃあ──」


 ウィリアムはゆっくりと語り始めました。


「先日、ネックレスを浄化してもらったな。赤い宝石が付いているネックレスだ。覚えているか?」

「もちろんです。もう売れてしまったんですが……もしかして、あれが必要なんですか?」


 どうしましょう。

 あのネックレスは、もう他の人に売ってしまったのですが……。


「いや、そうじゃない」


 ですが、ウィリアムは私の不安を否定するように、首を横に振ります。


「あのネックレスは、〈真紅の爪痕〉という強盗団から押収したものだと伝えていたな」

「はい」

「あれから、魔の森を詳しく調査してみたんだ。すると、気になることがあった」


 ウィリアムが言うにはこうです。


 魔の森になにか秘密があるかもしれない。

 そこで、騎士に〈真紅の爪痕〉の強盗の一人を尾行させた際、その男は魔の森に入っていった。

 わざわざ禁足地である魔の森に入る理由はない。これは不可解なことだ。


 それだけではない。


 今まで捕まえた強盗の一人に尋問をかけると、仲間の何人かがよく魔の森に向かっていたという証言が取れた。


「無論、下っ端の言うことだ。それ以上のことは、詳しく知らないみたいだがな」


 しかし、数々のヒントを繋ぎ合わせていくと、魔の森の中に〈真紅の爪痕〉のアジトがある可能性が高い──と結論づけた。

 ……とのことです。


「魔の森は“穢れ”に満ちているんですよね? そんなところにアジトを構えて、大丈夫なんでしょうか」

「おそらく、相手は“穢れ”を無効化するアイテムを複数所持していると考えられる。今まで、〈真紅の爪痕〉は好き放題に暴れてくれたからな。全員分は無理だが……幹部の何人かがそれを持つのは、有り得る話だ」


 真剣な顔をして、ウィリアムは言います。


「俺たちは、すぐに〈真紅の爪痕〉のアジトに乗り込みたいと考えている。そこに、ヤツらのボスがいると考えられるからな」

「ボスを捕まえれば、〈真紅の爪痕〉を潰すことが出来るかもしれませんものね」

「そうだ。そこで君に聞きたいのだが……“穢れ”を無効化するアイテムを持っているか? もしくは、君の力で作れるとか」

「そうですね……手持ちにはありませんが、作ることは可能です」

「だったら……」

「ですが、そこまで多くは作れません。一日に一つが限界でしょう。俺()()ということは、ウィリアム一人で向かうわけではないんですよね?」

「ああ。さすがに俺一人で、ヤツらのアジトに乗り込むのはリスクが大きすぎる。それに、あまり怪しい動きをしていればヤツらに勘付かれるかもしれない。ゆえに近日中に仕掛けたいと思っていたが……困ったな」


 ウィリアムは頭を掻きます。


「ヤツらのアジトの場所は突き止めたというのに、魔の森の“穢れ”が邪魔をして進めない」


 だからこそ、今まで〈真紅の爪痕〉は活動を続けてこられたのでしょう。

 通常は、“穢れ”で満たされている魔の森に入り込めすら出来ないのですから。


「なにか解決手段はないものか……」

「魔の森は地図を読む限り、かなりの広さなんですよね?」

「そうだ。一日かけても、魔の森全てを歩き終わることは不可能なほどだろう」

「だったら、私の力でも魔の森全体の“穢れ”を払えませんね。それが出来ていれば、一番よかったのですが」


 そこまでの広範囲に、浄化魔法を発動することは不可能。

 仮にやってみて可能だったとしても、さすがに〈真紅の爪痕〉に気付かれます。

 その隙に逃げられては、本末転倒です。


「だったら、現状では打つ手なしか」


 難しい顔をして、ウィリアムが唸ります。


 しかし、私は既にある一つの方法を思いついていました。


「打つ手がないというわけではありません。魔の森全体の“穢れ”を払うことは出来ませんが、防ぐことは可能です」


 私がそう言うと、ウィリアムの瞳に光が宿ります。


「それは?」

白聖はくせい結界です」


 結界を張り、内側の人たちを“穢れ”から守るための手段。

 結界の中にいる限り、呪いも瘴気も届かなくなります。


「白聖結界……か。俺も聞いたことがある。だが、そこまで広範囲に白聖結界を張れないんじゃなかったのか?」

「いえ、私が本気を出せば可能ですよ。とはいえ、十人ほどを守れるくらいですが……」

「じゅ、十人!? そんなに広い結界を張ることが出来るのか! 本来なら、術者自身を守れれば御の字だと聞くのに……君はすごすぎる!」


 と、ウィリアムは驚きで目を見開きます。


「それだけ広範囲に張れるなら、十分だ。騎士を何人か同行させても、まとめて白聖結界で囲えるだろう」

「ですが、これには一つだけ問題があります」

「問題?」

「白聖結界は自分の周りだけ。つまり、私もその場に足を運ばなければならないのです」

「……そうだったな。なら、やはり厳しいか」


 ウィリアムが腕を組み、再び難しそうな顔を作ります。


「この作戦は危険なものであるし、君も行きたくない──」

「……? 行きたくないわけではありませんよ」


 首を傾げ、さらに口を動かします。


「私が行ったら、足手纏いになるかと思いまして……」

「君がか?」

「はい。私は()()“穢れ”を払う力には自信があるものの、それをなくせばただの弱い小娘です。私も行って周りに白聖結界を張れば、問題は解決しますが……迷惑じゃないかと思いまして」

「迷惑? なにを言っているんだ」


 ウィリアムは柔らかい笑みを浮かべる。


「足手纏いなんて、とんでもない。君こそが、我々の勝利の鍵だ。当日は俺も行くし、腕利の騎士を引き連れよう。だから……アルマ、お願いだ。俺たちと共に、魔の森に来てくれないか?」


 真摯に私を見つめるウィリアム。

 私に頼むくらいです。相当切羽詰まっていたのでしょう。彼からは、すがるような空気を感じ取りました。


 危険はあります。

 ですが。


「はい、もちろんです。私にあなたのお手伝いをさせてください」


 ──それは、人を救わない理由にならないから。

 笑顔で、ウィリアムにそう即答します。


「よかった……!」


 ほっと胸を撫で下ろすウィリアム。


「君のことは、俺が命をかけて守る。だから、安心してくれ」

「あら、王子ともあろう方が、簡単に命をかけるなんて言ってはダメですよ」

「なにを言っている。相手が君だ。君のためなら、俺は命など惜しくない」


 真剣な顔をして、私を見つめるウィリアム。

 さらっとそういうことを言ってのけるものだから──顔に熱を感じて、思わず視線を逸らしてしまいます。


「あ、ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらの方だ。それで……今度は君の相談事だが……」


 この後に話すにしては、規模が小さすぎて、なんだか恥ずかしくなってしまいますね。


 私は売る商品が少なくなってきたこと。仕入れようにも、そのための時間がないこと。

 これらの問題は従業員不足が原因だと伝えました。


「なるほど……それも困った話だな」


 と、ウィリアムは顎を手で撫で、真剣に考え込みます。


「なにかいい手はありませんか?」

「こちらでも、従業員の募集はしてみる。しかし、すぐに見つかるかとなると厳しいだろう」

「ですよね……」

「だから、今はせめて、仕入れる商品の問題を解決させたい。俺の伝手で呪いのアイテムを集めるのにも、限界があるし──そうだ」


 なにか閃いたのか。

 ウィリアムはポンと手を打ちます。


「今回の魔の森侵入作戦の報酬。なににしようと思っていたが、作戦で得た〈真紅の爪痕〉のアイテムを全て君に渡す……というのはどうだ?」

「全て……ですか?」


 思いもよらない話に、私はつい聞き返してしまいます。


「そうだ。無論、魔の森内で保存していたら、“穢れ”を含んでいるアイテムも多数含まれているだろう。だが……“穢れ”は君にとって、さほど問題ないはずだ」

「そうですね。浄化してしまえば済みますので」

「もちろん、元の持ち主が分かれば、その人に返却することになるが……ほとんどは分からず、宙に浮いたような状態だ。仮にいたとしても、ほとんどが“穢れ”のアイテムなど返してほしくないだろう。これが実現すれば、商品数はしばらく困らなくなると思うが……どうだ?」


 それはいい話です。

 私は無報酬でも、ウィリアムの力になろうとしたのに……同時に、商品の仕入れも出来るのです。

 そうすれば、当面の間は商品の品数を心配しなくてもいいでしょう。


「ぜひ、それでお願いします!」

「分かった。任務当日には、王城内で接客を経験したことがある使用人に店番をしてもらように手配する」

「助かります」

「だが、それはあくまで臨時だ。それでも構わないか?」

「もちろんです。ウィリアムには、いつも世話をかけます」

「それは、こちらの台詞だよ」


 と、ウィリアムは優しい声音で言いました。


 ──こうして、私はお店に並べる商品を得るためにも、魔の森の“穢れ”に挑むことになったのです。

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