14・開店準備をします
数日後の朝。
建物の外に出て、まずは朝陽を浴びます。
「今日もいい天気ですね。頑張って、道具屋の開店準備を始めるとしますか!」
気合いを入れます。
──数日前の王城での出来事は夢のように素敵でした。
ですが、私のやるべきことは変わりません。
私は道具屋の開店に向けて、準備を進めていました。
おかげで、開店日も決定。
こういうのはスタートが肝心。スタートで躓かないように、立派なお店を作らなければ。
「きゅう!」
そう思っていると、私の前に白狐のコユキちゃんが現れました。
「コユキちゃん、頑張れって言ってくれているんですか?」
「きゅう!」
ふふふ、微笑ましいです。
コユキちゃんが近くにいてくれるだけで、心が癒されます。
幸い、店内のお掃除は概ね完了しました。
あとは棚やカウンター、照明器具を設置していくだけ。
私は店内に戻り、少しずつ作業を進めます。
滞りなく進行していきましたが、ここで問題発生。
「これは……どうしましょうか」
店内でも一際大きい長机。
重くて、一人では持てません。
廃棄になっていたのを譲り受け、ここまで運んでもらいましたが……どうしましょう。まさか無造作に放置するわけにはいきませんし。
頭を悩ませていると、
「おーい、アルマちゃーん」
店内の外から、私を名前を呼ぶ声が聞こえます。
「はーい……って、みなさん!?」
外に出ると、たくさんの人が私を待っていました。
よく見ると、私が呪いのアイテムを譲ってもらった方々でした。
「どこまで進んでるかと思ってさ。一人じゃ、色々と大変だろ?」
そう言ってくれるのは、食器とお手製クッキーを作ってくれた女性。
「アルマちゃんは女の子なんだ。重いものを持つのは、オレに任せろよ!」
昨日、アクセサリーを譲ってくれた男性も腕まくりをします。
「ありがとうございます……っ! 助かります!」
商品になるアイテムを譲ってくれただけでも感謝ですのに、みんなは私のことを気にかけてくれます。
私は一人じゃない、そう思うだけで、なんだか胸のところがじーんと熱くなってきました。
「ですが、本当にいいんですか? みなさんも忙しいでしょう?」
「いいんだ、いいんだ! アルマちゃんの力になりたいしさ。まあ……こっちの男は、アルマちゃんに会いたいだけ、みたいだけど」
「おい……っ。それは言うなって!」
場を和やかな笑いが包みます。
──みんなの力もあって、道具屋の開店準備はさらに進んで行きます。
さらに一日、二日、三日……と、日が過ぎていくのに比例して、徐々に店内も整ってきました。
そして、ある日。
「開店準備は順調のようですね」
優しい声。
メルヴィン・ヴァルローン伯爵が、お店に顔を出してくれました。
「メルヴィンさん! わざわざ、覗きにきてくれたんですか?」
「ええ。あれから、あなたのことは気に留めていたんですよ。どこまで進んでるかと思い、来ちゃいました」
とメルヴィンさんは肩をすくめます。
メルヴィンさんには、この空き店舗を紹介してもらいました。
始めは建物がボロボロすぎてどうなることかと思いましたが、今では外も中も立派になっています。
私は彼に、深々と頭を下げます。
「ありがとうございました! 素晴らしい物件を紹介していただいて、メルヴィンさんには本当に感謝です! メルヴィンさんの期待に応えるためにも、絶対にこの道具屋を成功してみせます!」
ピキッ。
……どうしてでしょう。
私がお礼を伝えると、メルヴィンさんの顔が一瞬引き攣ったように見えました。
「メルヴィンさん……?」
「い、いえ、なんでもありません。私もあなたがこの街で成功してくれると、嬉しいですよ。お互い頑張りましょう」
「はい!」
返事をすると、メルヴィンさんは手を振って去っていきました。
「……おかしい。あの建物はボロボロなのはもちろんのこと、何故か不運が続く『呪いの建物』だったはず……一ヶ月も経たないのに、あそこまで持ち直すのは有り得ないのに……」
去り際。
メルヴィンさんは難しそうな顔をしてぶつぶつと呟いていましたが、なにを言ったかまでは聞き取れませんでした。
「……? どうしたんでしょう」
少し、様子がおかしかったですね。
「あっ……そういえば、コユキちゃんのことを聞くのを忘れてしまいました」
メルヴィンさんは、この土地に土地神の白狐がいることを知っていたのか──という。
まあ、同じ街に住んでいるなら、また会う機会はあるでしょう。そう気持ちを切り替えました。
さらに数日が経過。
開店日の告知も済み、とうとうオープン間近となりました。
「アルマちゃん、看板はこんなもんでいいのかい? アルマちゃんに言われたから、急ピッチで作ったよ」
「はい! とても素敵な看板です!」
お店の看板です。
看板を持ってきてくれたこの男性も、元々は私に呪いのアイテムを譲ってくれた方です。
そこから縁が出来て、店名が書いた看板も作っていただきました。
「それにしても……どうして、この店名なんだい? あまり聞き慣れない店名だけど」
「このお店にぴったりかと思いまして」
と答えます。
彼は首をひねりながらも、「まあいっか」と呟き、看板を設置して帰っていきました。
「いよいよ……ですね。上手くいくといいんですが」
「きゅう!」
不安になっていると、コユキちゃんが現れて『大丈夫!』と言わんばかりに頷きました。
そして──とうとう、道具屋『ユキのしっぽ』の開店が明日に迫ったのです。
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