表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/17

13・私の出した結論

 陛下との話し合いの後、私のために食事会が開かれました。


 そこで出された料理の数々ですが……これまた絶品揃い!

 口にするものはどれも美味しくて、ついつい食べすぎてしまいました。

 ウィリアムさんとも和やかなムードの中で、たくさんお喋りすることも出来ましたし、大満足です。


 そして、夜。

 一人で帰ろうと思っていましたが、「夜道は危険だ」とウィリアムさんが、私の道具屋まで送ってくれることになりました。


 現在は執事のクラークさんが御者を務める馬車に、ウィリアムさんと二人で乗っています。


「王城にお招きいただいただけでも嬉しいのに……本当にありがとうございます」

「いいんだ。夜に恩人を一人で帰らせるわけにはいかないからな。これは、俺がしたいからやっているだけだ」


 私が気が遣わないようにしてくれているのか、ウィリアムさんはそう答えます。


「それにしても、よかったのか? 俺から言うのもなんだが、王城の専属解呪師は破格の対応だ。断るのは、もったいない気がするが」

「いいんです」


 私はそう頷きます。



 ──結局、私は陛下の申し出を断りました。



 確かに、悪い話ではありません。

 陛下やウィリアムさんも言う通り、専属解呪師になれば将来安泰でしょう。


 ですが……やはり、セレスティアでの思い出が私の足を引っ張ります。


 また裏切られたら?

 お仕事を理解してくれなかったら?

 今はいい顔をしていますが、陛下やウィリアムさんにとって、私は都合のいい労働者の一人に過ぎないのではないか──。


 二人がそうだとは思えませんが……どうしても首を縦に振ることは出来ませんでした。


「それに、私には殿下たちの近くで暮らすのは、合いませんよ。息が詰まって、逃げ出したくなります」


 茶目っけを含ませて、答えます。


「そうか。まあ……君なら、どこでもやっていける。道具屋での成功を、心から願っているよ」


 ウィリアムさんは、私の意思を尊重してくれました。

 彼の心遣いが今はとても有り難かったです。


「とはいえ、君との繋がりがこれでなくなるわけでもない。代替案の話も覚えているか?」

「もちろんです」


 王城の専属解呪師の話を断った私に、陛下は代わりにこう提案しました。


 非常に残念だが、そなたがそう思うのなら、仕方がない。

 しかし、そなたほどの腕がある解呪師をこのまま手離すのは惜しい。

 開店する道具屋は、呪いのアイテムを浄化し、売るものと聞いている。

 そこで、今後も他の解呪師で処理できない“穢れ”を持ったアイテムを、そなたに持ち込んでもいいか?

 こちらは、“穢れ”を処理することが出来、そなたは商品を仕入れることが出来る。

 悪い話ではないと思うのだが……と。


 願ったり叶ったりの話。

 今度は陛下の提案に、私は即座に首を縦に振りました。


「どーんと任せてください。解呪は私のたった一つの取り柄なんですから。商品をいっぱい仕入れることも出来ますし、私にとっていいことしかありません!」

「ありがとう。そう言ってくれると助かる。俺も冒険者として活動し続けていると、呪いに限らず、“穢れ”を持ったアイテムを入手する機会は多いからな」


 ウィリアムさんは柔らかい笑みを浮かべます。


「今更なんですが……一つ、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「どうしてウィリアム殿下は第一王子なのに、冒険者としても活動しているんでしょうか? それに王城内にはウィリアムさんが冒険者だということを、知らない者もいるようでした」


 ウィリアムさんにも事情があるんだろうと深く聞きませんでした。

 ですが、やはり常に死と隣り合わせの冒険者にウィリアムさんがなることは、不思議なことです。


「それともあの時、冒険者と名乗ったのは嘘だったんでしょうか?」

「嘘ではない。俺はれっきとした冒険者でもある。これを見ろ」


 そう言って、ウィリアムさんは胸元から一枚のライセンスを取り出します。

 正真正銘の冒険者ライセンスです。


 彼に手渡され、それに目を通すと……。


「え、Sランク!?」


 書かれていた冒険者ランクに、私は目を見開きます。


「そうだ。これで信じてくれたか?」


 ウィリアムさんは私の反応が意に沿ったものだったのか、愉快そうな顔をします。


 冒険者には、F〜Aのランク分けがされています。

 ですが、その分け方の範疇には収まらない『規格外』──それをSランクとしました。


 Sランク冒険者は、まさに英雄。

 国中を探しても、数人しかいないと言われています。


「う、疑うような真似をしてしまって、すみませんでした。まさかSランクとは……」

「はっはっは! 謝らなくてもいいさ。普通、王子がSランク冒険者だと想像もしないだろうしな」


 そう快活に笑うウィリアムさんに、私は冒険者ライセンスを返しました。


「どおりで、今もろくに護衛を付けないわけですね……Sランクなら、そんじょそこらの暴漢には後れを取りませんから」

「まあな。だが、今、御者をしているクラークも強いんだぞ? 執事でありながら、俺の護衛も兼ねている。ヤツは元々、暗殺者だったものでな」


 あ、暗殺者?

 あんなに優しそうなクラークさんが、闇に潜るような職業に?

 どうして、元暗殺者がウィリアムさんの執事兼護衛をしているのか謎ですが……聞くのは少し怖いです。

 馬車の小窓からクラークさんの後頭部を目にすると、彼は振り返って軽くお辞儀をしました。


「色々と興味はありますが……今はウィリアムさんのことです。どうして、あなたは冒険者をしているんですか?」

「……王族の政治には限界があるからだ」


 尋ねると、ウィリアムさんは真剣な声音で、こう話し始めます。


「簡単な意思決定をするのにも、根回しやら会議やらで時間がかかる。もちろん、それによって独裁を防げる。民主主義のいいところだ。だが……それでは、救えない人々もいると思ったんだ」

「話し合っているうちにも、事態は刻一刻と変化していきますからね」

「そうだ。だがその反面、冒険者はどうだ? 細かいしがらみにも捉われず、自由に行動する。それによって暴走の危険性もあるが……少なくとも、俺たち王族の政治より、スピード感があるのは間違いない」


 それは私も同意です。

 そして、どちらが正しいという問題でもありません。

 政治には政治。冒険者には冒険者。どちらにもメリットとデメリットが存在します。

 だからこそ、ほとんどの国には冒険者という仕組みがあり、両者は時に反発し合うこともありますが、お互いに発展してきたのです。


「では、政治と冒険者、両方をやることによって、救える民の数が多くなると?」

「そういうことだ。我武者羅にやっていたら、いつの間にかSランクまで昇り詰めていたよ」


 とはいえ──とウィリアムさんは続けます。


「一国の王子が冒険者をしているとなれば、無用な混乱を生む。だから、このことを知るのは一部の者。クラークと陛下も、俺の裏の仕事を知る人間だ」

「そうだったんですね。ですが──もう知ってしまっている身とはいえ、私に教えてもよかったんでしょうか?」

「いいんだ。君のことは信頼しているからな」


 と、ウィリアムさんは私を安心させるように、優しい口調で言います。


 王子でありながら、冒険者もやる。

 その理由は、一人でも多くの民を救いたいから。

 ウィリアムさんの決断に、顔を顰めるものもいると思いますが、私はただただ彼を立派だと思いました。


 やがて、ゆっくりと進んでいた馬車が止まります。

 道具屋に到着したのです。


「殿下、そしてクラークさん。本当に今日はありがとうございました」


 馬車から降りて、二人にぺこりと頭を下げます。


「うむ……」


 しかし、ウィリアムさんはどこか不満顔。


「……? どうかされましたか?」

「いや、なに……」


 言おうか言わまいか、少し悩む素振りを見せたウィリアムさんですが、やがてこう口を開きました。


「一度言ったが……やはり、気に入らないな」

「気に入らないな?」

「呼び方だ。君は俺の正体を知ってから、ずっと『殿下』と呼んでいるな。君には気軽に……そうだな。『ウィリアム』とでも呼んでほしい」


 一瞬、なにを言われたのか分からず、思考が停止してしまいます。


 しかし。


「そ、そんな、恐れ多い! たかが一介の解呪師が、殿下を呼び捨てになんて出来ませんよ!」

「セレスティアからベイルズに向かう馬車の道中は、そこまで恐縮していなかったじゃないか」

「あの時は、あなたが王子殿下だと知りませんから……」


 知ってしまっては、二度とあの時のように話せる気がしません。


「だから、あまり言いたくなかったんだ。こうなるのが目に見えて、分かっていたからな」


 しかしウィリアムさんは冗談を言っている様子でもなく、真剣に私を見つめます。


「君とは、解呪師と王子という関係だけで終わらせたくない。もっと、親しい関係になりたいんだ」

「で、ですが……」

「無論、殿下と呼ばざるを得ない時もあるだろう。俺が父上のことを、陛下と呼ぶようにな。だが、せめて二人っきりの時は、俺のことを『ウィリアム』と呼んでほしい。どうだ?」


 と、ウィリアムさんは情熱的に迫ります。

 クラークさんが近くにいることも忘れ、彼の透き通った瞳を見ていると、まるで時が止まったかのようでした。


 そして──。


「……はあ。分かりました。ウィリアム、これでいいですか?」

「──っ!」


 勇気を出して呼ぶと、今度はウィリアムさん──いえ、ウィリアムが固まる番でした。

 私の言葉を噛み締めるかのように、佇んでいます。


「ウィリアム……?」

「い、いや、なんでもない。俺の我儘を聞いてくれて、ありがとう。おやすみ、アルマ。いい夢を」

「はい。ウィリアムも、おやすみなさい」


 そう言うと、ウィリアムは酷く焦ったように、馬車に乗り込んでいきました。

 クラークさんも苦笑して、馬車を出発させます。


「……? 一体なんだったんでしょうか?」


 やはり、殿下を呼び捨てにするのは不敬すぎたんじゃ……。


 そう思いかけますが、呼んでくれと言ったのはあちらです。私は悪くありません。開き直ることにしました。


「さて……今日は寝ましょう。なんだか、胸の鼓動が騒がしいですし」


 きっと、夢のような一日を過ごしたからでしょう。

 首をひねり、私は店の中に入りました。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

ブックマークや下記の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ