12・私が望むこと
「我が子ウィリアムより、貴女の働きについて聞き及んでおる。この度の尽力、誠に見事であった。王として、深く礼を申す」
玉座の間。
そこに私は招かれ、国王陛下を前に片膝を突いていました。
「もったいないほどのお言葉。こちらこそ、感謝いたします。身に余る光栄です」
陛下の言葉に、私はそう返します。
なんで私、ここにいるんでしょうか──。
数時間前まで、呪いのアイテムを集めるために市内を駆け回っていたのに……。
急展開すぎて、頭がクラクラしています。
「面を上げい」
そう言われて、私は顔を上げます。
「貴女──アルマは最近、この国に移住してきたのだとか。そうだったな? ウィリアムよ」
「はっ」
隣でウィリアムさんも短く返事をします。
「まだ移住してきて、数日かと思うが……どうだ? この街は」
「いい街だと思います。移民者である私でも、この街は受け入れてくれました。これも、陛下や殿下の執政の賜物かと」
これは本音。
ベイルズの王都にやってきて、まだ一週間ほどしか経っていなけれど、早くも私はこの街を気に入っていました。
確かに、先ほど遭遇した強盗のような犯罪者もいます。
ですが、それはどこの国でも同じ。
王族が街を巡回する王族視察の仕組みもセレスティアにはなかったですし、だからこそ、比較的治安が保たれているのでしょう。
そしてなにより、優しい人が多いと感じました。
お手製のクッキーを渡してくれた女性の顔を思い浮かべます。
「それはよかった!」
すると、陛下は破顔し。
「移民者にそう言われることが、なにより嬉しいことだ」
「俺も同意です」
頷くウィリアムさん。
「ウィリアムから話を聞いて、一度会ってみたかったのだ。そなたも忙しいであろうに、時間を作ってくれて感謝する」
「滅相もございません」
「ふむ……それで、ここからは本題なのだがな」
一転。
陛下の声に真剣味が帯びます。
「そなたとウィリアムの出会いは、馬車の中だったと聞く。ウィリアムがレイスを討伐した際、剣に呪いがかけられていたようだな」
レイスを討伐──それは初耳。
ある魔物と戦ったと聞いていましたが、まさかレイスだったなんて……。
レイスは上級のアンデッドモンスター。
周囲に“穢れ”を振り撒き、レイスが通った後は草花が一本も生えないとも言われています。
そんなレイスを倒すだなんて……。
いかに、ウィリアムさんの戦いの技量が高いのかを、分からされました。
「そして、レイスの呪いをそなたが解いた。相違はないか?」
「はい」
「優秀な解呪師だ。元々はセレスティアの人間らしいが、名を聞いたことはない。そこまでの技量の解呪師なら、儂らにもその名が轟いているはずだが……」
と、陛下は不可解そうに首を傾げます。
「まあよい」
ですが、有り難いことに、あっさりと陛下は引き下がり。
「この街でも、解呪師として働くつもりか?」
「最初はそのつもりでしたが……色々考えた末、道具屋を始めようかと思っています」
「道具屋?」
「市内にある呪いのアイテムを浄化し、売る道具屋です。そうすれば、私の力も活かせるかと考えました」
「ほお……それはいい考えだ。ならば、そなたも薄々察しておるだろう」
陛下は憂げな顔で、さらに続けます。
「昨今、市内に出回っている呪いのアイテムが急増しておる。今までの状況から、考えられないほどだ」
それは私も考えていたこと。
ここ数日、お店に並べる商品を集めるために街中を奔走していましたが、明らかに呪いのアイテムの数が多い気がします。
最低一ヶ月はかかると思っていた商品集めですが、既に品数だけは十分なほど。
これは私の聖女の経験と照らし合わせても、異常なことでした。
「呪いのアイテムだけでは、ありません。レイスの一件も……です。今までならベイルズ国内に、そんな強力なアンデッドモンスターはいなかった」
ウィリアムさんが、陛下の話に補足を入れます。
「うむ……不可解なことであるな。アルマよ、そなたは原因になにか心当たりはあるか?」
「今のところは……ありません。あったとしても、不確かな推測をここで口にするべきではないかと」
「そうか」
私からいい返事がなかったからなのか、陛下が露骨に肩を下げます。
「無論、こちらでも対処しておるが、解呪師は希少な存在。なかなか手が追いついていないのが現状だ。そこで──」
陛下はぐっと前のめりになって、こう告げます。
「そなたに提案だ。道具屋を開くのを辞めて、この王城で専属解呪師として働かぬか?」
「専属解呪師……ですか?」
「うむ。呪いのアイテムやレイスのこともあるが、優秀な解呪師は常々抱え込みたいと考えておったのだ。無論、十分な給金も用意する。寝泊まりする場所も、城内に用意しよう。無理強いはせぬが……どうだ?」
そう言って、陛下は探るように私の瞳を見つめます。
王城の専属解呪師──。
確かに、悪い話ではありません。
この街でセカンドライフを送ると決めたものの、なにせ私は聖女のお仕事しかやってこなかった身。
道具屋が上手くいくとは限りません。
だけど、王城のお抱え解呪師になれば、最低でも生活の保障はされるでしょう。
少し話してみて、ウィリアムさんと陛下も悪い人でないことが分かりました。
私を無碍に扱ったりしないはず。
ただの一介の移民者にしてみれば、破格の待遇です。
普通なら、即座に飛びつく話。
ですが、私は少し考えてから、ゆっくりと口を開きます。
「私は──」
私の答えは──。




