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第二階層:冒険者の嗜み!キャンプファイアと魔物討伐!

 シーフなのに全く気配が消せない冴えない少年にしか見えないタカシ、オーガなのに下手したら人間の下級戦士より虚弱かもしれない見た目だけのハリボテ戦士のジフ、魔法の知識だけはあるのにMPがほとんどないオタク気質の一見女の子に見える魔法使いセイン、気持ち回復する草食系男子ヒーラーのフィン。彼らは仲良し4人組チーム「ぐだふわ」。

 助けたメイア姫を守りながら帰路に着くのであった。

 薄暗くなり始めた森の中、先行するタカシは周囲の気配に神経を尖らせていた。木々のざわめきに混じって、かすかな獣の唸り声が聞こえ始める。「そろそろ、ここらでしまいだね」タカシはそう呟くと、少し後ろを歩くフィンに声をかけた。「フィン、そろそろ、ここらへんでキャンプにしないか?」


 フィンはメイア姫に優しい笑みを向け、「姫様、こちらへどうぞ」と、姫を少し開けた場所へと促した。そこには、地面に円状に石が組まれたファイアーピットがあった。「ここは高度な結界が張られていて、安全なキャンプスポットなんです。僕たちはいつも、こういう場所で夜を明かすんですよ」と、フィンは丁寧に説明した。


 メイア姫は、疲労の色を滲ませながらも、興味深そうに周囲を見渡した。「まぁ、冒険者さんの知識なのですね。とてもためになりますわ」そして、はにかむように微笑んだ。その笑顔は、どんな宝石よりも美しかった。


 セインは、大きな体躯のジフの背中をパンパンと叩きながら言った。「それに、ここにいれば、モンスターも寄ってきにくいし、オーガのジフがいると、あの独特のニオイでモンスターが警戒するから、さらに安心なんじゃ」


「いててっ」ジフは、見かけによらず繊細なのか、セインの軽い一撃にも大げさに痛がった。その様子に、タカシは苦笑いを禁じ得ない。本当に、このオーガは見た目だけなのだから。


「まぁ、ジフがいると心強いのは確かだよ」タカシはそうフォローしつつ、リュックから火を起こすための道具を取り出した、残っていた焚き火あとに火をつけた。

「さてと、明るいうちに火を起こして、今夜の寝床を確保するとしようか」


 メイア姫は、促されるままに焚き火から少し離れた場所に腰を下ろした。ゴブリンに誘拐されてここまで休むこともなかっただろう。さすがに疲労の色が見える。フィンは、姫に温かいお茶を淹れて差し出した。


 タカシは、手慣れた様子で周囲の枝を集め始めた。乾いた枝を選び、かまどの近くに積み上げていく。


「セイン、火付けお願い」タカシはそう言いながら、竈門に枝をセットした。


「了解じゃ」セインは、杖を軽く振り上げた。先には、小さな赤い光が集まり始める。「プチファイア!」セインがそう唱えると、小さな火の玉が枝に向かって飛んでいき、パチパチと音を立てて燃え始めた。しかし、その一発で、セインは少し息を切らしている。やはり、彼のMPは心もとない。


 ジフは、テントの設営に取り掛かった。ゴツゴツとした大きな手で、ポールを慎重に組み立てていく。フィンも生地を広げたり、ペグを打ったりと、手際が良くジフを手伝った。


 さっきまでグダグダとしたようなチームの雰囲気だったが、手慣れた雰囲気でキャンプの用意をしていくのは、見ていて少し面白い。姫様はそんなみんなを微笑ましく眺めていた。


 やがて、テントが完成し、焚き火の周りには暖かな空間が生まれた。メイア姫は、テントの中から顔を出し、「まぁ、あっという間ですね。これで安心して休めますわ」と、安堵の表情を浮かべた。


「お疲れ様です、姫様。これから温かいご飯を用意しますので、どうぞゆっくりお待ちください」フィンは、いつもの優しい笑顔でメイア姫に声をかけた。


 すると、メイア姫は少し困った様子で身を乗り出した。「まぁ、私も何かお手伝いしますわ。皆様にばかりお任せきりでは、なんだか申し訳なくて」


「いえいえ、姫様、ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。ここは、頼りになるジフにお任せあれ!」タカシはそう言うと、隅でなにやらゴソゴソと準備を始めたジフを指さした。


「こいつ、見た目はあれですけど、意外や意外、料理が大好きなんですよ。特にジフの作ったベーコンは、そんじょそこらの店で食べるものよりずっと美味いんですから」タカシがそう得意げに言うと、ジフは得意げに、分厚く切られた立派なベーコンをメイア姫に見せつけた。


「姫様、何か好き嫌いはありますかい? オレに任せてくだせぇ。姫様はどうぞ、ゆっくり休んでいてください」ジフは、先ほどまでの気弱な様子とは打って変わって、慣れた手つきで料理に取り掛かり始めた。マジックバッグから取り出した調理器具を並べ、ベーコンを丁寧に焼き始める。ジュージューと美味しそうな音と香りが、キャンプ場に広がっていく。


 その様子を、メイア姫は目を丸くして見つめていた。「まぁ、とても手慣れていらっしゃるのですね。皆様はいつも、こうして冒険しながら生活をなさっているのですか?」興味津々な 眼差しで、隣に座るセインに問いかけた。


 セインは、その質問にしたり顔で答えた。「フッフーン。我々は冒険者じゃからな。こういうのは、もはや慣れっこなのじゃ!」魔法の知識以外にも、サバイバル術も心得ているのだとアピールしたいらしい。



 焚き火の明かりが揺れる中、ジフの作った素朴なシチューの香りが、夜の静寂にじんわりと広がっていた。


「ん〜……沁みるわぁ……」

 タカシがスプーンを口に運びながら、思わず目を細める。全然気配が消せないシーフのくせに、料理の時だけは忍者のように黙ってジフのそばに張り付いていたのが今では嘘のようだ。


「こいつ、戦闘では役に立たんくせに、料理の評価だけは一丁前じゃな……」

 セインがぼそりと呟くと、フィンが苦笑しながら「まあまあ」と間に入る。仲良しだけど、能力の噛み合わなさは抜群。


 その空気を破ったのは、穏やかながらも真剣なフィンの声だった。

「とりあえず、姫様の件を解決するには……一度俺たちの国に帰ろうと思う」


 四人の視線が自然と一人の少女に集まる。金髪に澄んだ瞳、気品ある佇まい。だが、野営の毛布に包まれて、焚き火の温もりに頬を染める彼女は、ただの“旅の仲間”のようにも見えた。


「姫様のこと、ギルドに相談してみるのが妥当じゃろうな」

 セインが呟きながら、ポケットからボロボロの地図を広げる。


「問題は姫様の国まで、どうやって運ぶかだよな……」

 タカシが頭をかきながら言うと、隣でジフが無言でコクリと頷いた。オーガのはずなのに、体力も腕力もほぼ紙装甲。馬車の護衛どころか、荷物持ちすら不安視されているのが現実だ。


「こっからナウリカ王国までは……馬車でも、ひと月以上かかるなあ」

 セインが地図を指でなぞりながら、祖父のような口調で呟く。


「その間、姫様を敵から隠せるだけの拠点を作りながら進むか……いや、それだと目立つし……」

 フィンの表情が少し険しくなると、タカシが急に手を上げた。


「それならさ、逆に超目立つ旅芸人パーティーとして旅するってどうよ!? 変装とか! 俺、気配消せないから逆に目立つ方向で!」

「……それ、ぐだふわ的にはありかもしれんのう」

「なんで納得するの!?」


 夜空の下、焚き火を囲む4人と1人。

 帰還という使命は重い。でも、彼らは笑っていた。


「姫様。ちゃんと、お国まで送り届ける算段はつけますので……どうか、信じてくださいね」

 フィンがそう言うと、メイア姫は静かに微笑んだ。



 ギルドへ向かう前に、一度、自分たちの拠点へ戻ることにした「ぐだふわ」の面々。

 田舎町の外れにある小さな一軒家。彼らにとっては大事な根城だが、姫様を泊めるには……うん、ちょっと、いや、かなり無理がある。


「姫様には……町の宿に泊まっていただいたほうが、よろしいかと……」

 フィンが申し訳なさそうに切り出すと、姫メイアはキョトンとした顔をして、それから小さく首を傾げた。


「私……みなさんと一緒にいたいですわ。拠点というのも、見てみたいですし」

「へ?」


 一瞬、風が止まった気がした。


「い、いやいやいや、ちょ、ちょっと待って姫様!」

 タカシが手をブンブン振る。なんかもう顔真っ赤だ。

「うち、広い家じゃないですし! あの、部屋とか……あの、ほとんど物置きみたいな……!」


「そ、そうそう、わしの寝床なんて本棚の隙間じゃしな!」

 セインも慌てて同調するが、言えば言うほど酷く聞こえる。


 ジフはというと、手をモジモジさせながら「……きたない」とぽつり。それ以上何も言えなかった。むしろ空気が悪化した。


「うふふ。だいじょうぶですわ。そういうの、ちょっと憧れます」

 と、にこやかに微笑む姫。なんでそんなに楽しそうなの!? とタカシが内心で叫んだのは言うまでもない。


「……ご、ご案内しますけど、あの、ほんとに……期待しないでくださいね……?」

 フィンの声がどこか消え入りそうだった。


 かくして、ぐだふわの拠点に姫様ご宿泊決定。

 誰より動揺しているのは、ぐだふわメンバーの男子陣。特にタカシとフィンは、帰り道ずっと顔が火照ってまともに姫を見られなかったという。



 キャンプを後にして間もなく、森の静寂を切り裂くように、タカシの足が止まった。


「……ん?」


 その顔が引き締まる。普段の頼りなさげな少年の面影はそこになく、どこか鋭い獣のような眼差し。


「これは……低級のバーゲストだ」


 森に潜む、夜を歩く獣。弱いとはいえ、油断すれば喰われる魔物だ。


「おっ、出番かの」

 セインがにやりと笑い、腰の小瓶をカチャカチャと鳴らす。


「なら、やることは一つですね」

 フィンが小さく頷き、即座に指示を飛ばす。


「セインはいつもの牽制で、タカシは足止め、止めはジフで! 私はみんなのサポートをします!」


 その瞬間、空気がピリッと引き締まった。


「――ブレイブ・スパーク」


 フィンがそっと唱えた魔法が、光となってジフの胸に灯る。温かく、勇気がにじみ出すような、不思議な力。


「お、おお……なんかやれる気がする……!」

 ジフの足が自然と一歩、前へ出る。


「いくぞ、バケモノ!音爆反響ラウドエコー!」

 セインが杖を振ると、鈍い爆発音が周囲に響く。それだけでバーゲストはピタリと足を止め、耳を伏せて呻いた。


「さらに追い打ちじゃ!異臭放出オードーリリース!」

 今度は、ぷしゅっ!という音と共に、何とも言えない緑の煙が発射される。


「くっさ……」

 タカシが思わず鼻を押さえながら、もう片手で素早く自作の仕掛けを地面にセット。


「引っかかれ……よし!」


 バーゲストがよろめきながら飛び出した瞬間、その足がトリモチにずぼっ、とハマった。


「今だ、ジフ!!」


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 ジフが斧を振りかぶる。体は大きいが、動きは実に素直でまっすぐ。勢いそのまま、バーゲストの眉間へ斧が直撃――


「やった……?」


 バーゲストが崩れ落ちると同時に、森に再び静けさが戻った。


「……やったな」


「ふふ、ふつうに成功しましたな」


「わ、わたしは! 最後の支援が決定打に……なったと、思う……!」


 ぐだふわ4人は、小声でぐだぐだと振り返りを始めた。


 その様子を見つめていた姫メイアは――


(……本当に、物語の勇者たちのようですわ)


 弱い魔物とはいえ、四人の動きには無駄がなく、それぞれが自分にできることを的確にこなしていた。強大な力でねじ伏せるのではなく、知恵と連携で乗り越えるその姿に、彼女の胸がふわりと熱くなる。


(でも、なんだか……ちょっとだけ、勇者ってイメージと違いますけど)


 そんなふうに、笑いを堪えながら彼らの背を追いかける。

 彼らはバーゲストの小さな魔石を意気揚々と掲げながら、満足げに歩みを進めた。


 そして、道の先には、ぐだぐだでふわふわな彼らの拠点――あの小さなログハウスが待っていた。

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