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八話 サラティナとノルデノルン

朝だ。目が覚める。お腹が空いている。。テントを出てテーブルにつく。皆はもう座って食事をしている。対面のヘレンは思い詰めている。オレを暗い目でみる。オレは片手を上げ、食事を始める。朝のトマト系のスープはうまい。皆黙って食べている。場が暗い。

・・・仕方ない。食事中なのにな・・・・・・


食事を中途にして顔を上げ、暗い顔のヘレンに言う。

『ヘレン、お前の命を助けたのはオレだ。だからお前は今からサラティナに名前を変えろ。昔の事は忘れろ。』

ヘレン改めサラティナは驚いているが頷く。

皆は食事に精を出す。

オレはサラティナの傍らに歩く。


魔袋から、柄に水色と黒の魔石の嵌まった大剣を出す。鞘は黒く、夜空の様な輝く紋様にしてある。

『これをやる。これなら魔力使いにも負けん。オレの傑作の一つだ。惜しいがやる。』

顔を顰めて、大剣をみせる。鞘を仕舞う。

全体が黒く輝き、両刃の刃紋からそれぞれの刃先が白く光る、美しい大剣だ


『これからは勝手に死ぬような事をするな。オレにはお前へを助けた義理が出来た。お前もオレに助けられた義理が有る。だから死ぬならオレの許可を得てから死ね。』

大剣を楽々と振り回すオレ。大剣の鍔への鞘の出し入れも見せる。

サラティナも、オレと大剣を見ていた皆も、大剣を振り回すオレにか、輝く白と黒が舞う大剣にか、驚いている。


サラティナに大剣の柄を握らせ、大剣の認知を移す。サラティナは大剣を振り、重さを確認する。

『いいだろう。世にはそうない逸品だ。』

魔袋も渡す。

『便利だぞ。生ものは腐らんし。何でも入る。人は入れるな。そもそも入らんが。』と。サラティナの指を掴んで魔石袋に入れ、認知を移す。

サラは驚いて袋を覗いている。

・・・少し興味が出たか、生きる気力を出せ。・・・


感心して大剣を見ているサラティナの胸を押す。

・・・ちっ、まだ心が凝っているな・・・

不思議な顔で、オレを見るサラティナ

『サラティナも乳が出ないか・・・』言いながら席に戻ると、隣の母に頬を抓られた。

・・・母者、違う冗談だ。・・・

べそをかいて母を見る。


『ジオ殿は乳が欲しいのですか?』サラティナが真面目な顔で聞く。

『名前は呼ぶな。母者以外に名を呼ばれるのは好きでない。坊でいい。オレはこう見えても三歳だ。一歳にしか見えない。大きくなりたい。人の乳を飲むと大きくなれる。』頬をさすりながら言う。


サラティナが皆を見回す。皆は顔を顰めて首を振っている。

・・・おい首を振るな!顰め面をするな!オレは大きくなりたいだけだ!・・・

オレは不満顔で中途の食事に戻る。


『坊、オレにも剣をくれ!』とじいが言う。

オレは料理を見たまま言う。

『じい!袋やっただろう。その中に入れてある。見てないのか?使ってないなら返せ!』


シーザス、ゼル卜、エレナ、ルミナ、皆が袋に手を入れる。シーザス、ゼル卜は中剣、エレナとルミナは短剣を取り出して、四人は気まずい顔をする。勿論、黒魔石をどれにも嵌めてある。


『じい、使わないなら、返せ。』とオレはじいに向って、もう一度言う。じいは聞こえない振りをして剣を振る。

・・・ちぃっ!・・・

じいは何も言わず満足そうに席につく。三人も満足そうだ。


テントをしまい、クランノーバァに向かう。馬車の中の席は母、オレ、サラティナだ。サラティナの胸は大きい。サラティナの胸が揺れるのに、つい目がいってしまう。それに気がついたのか、

『乳を吸いますか?』と笑ってオレを抱き寄せる。

『今はいい。出るようになったら分けてくれ。』

と、小さな手でサラティナの胸を押す。サラティナはオレを抱いたまま何故か泣いている。母は外を見ている。涙の止まったサラティナは母に聞く。

『私がいてもよいのでしょうか?』

『ええ勿論。ジオに吸われるのが嫌でなければ。』と笑った。

・・・母者!・・・

サラティナも泣き笑いだ。


涙を拭いたサラティナがオレに聞く。

『坊、火傷痕があったと思いましたが・・・』

『傷を消せるんだ。付けるのも出来る。』と袋から火傷痕を出して見せる。サラティナが、オレの火傷痕を見ながら何か他の事を考えているのが判る。

・・・サラティナ、余計な事は考えるな。昔のことは忘れろと言っただろう!・・・

サラティナの胸を撫でる。

サラティナはオレを抱き締める。

オレは火傷痕を、魔石袋に仕舞った。


サラティナの事情は聞かない。ただサラティナの傷は風使いによるものだ。サラティナも少なからずの魔力を持っている。剣の腕も相当なものだ。それにもかかわらず、命が危なかった。相手の魔力は強い。

・・・オレが会ったらお仕置きしておこう・・・

三歳児はお仕置をしてみたい。


夕方、クランノーバァの家敷に到着する。

二日湯に入っていない。今行けば一人だ。初めての一人だ。急いで湯場に行き、浴槽に飛び込む。湯場に屋根はあるが、上から三分の一の屋根を抜いて空が見えるようにしてある。星が見える。三日月も。雨?はこの世界には無い。

・・・綺麗な星の並びだ、矢のようだ・・・


母とサラティナの姿が見える。後ろにエレナとルミナもいる。

・・・ばれたか・・・

『危ないから、一人で入っては駄目よ。』と母に言われる。

『ああ・・・』

・・・オレが造ったのに・・・


『母者!商団の紋章が浮かんだぞ。三日月の中に星を刺す矢、だ。どうじゃ?』

母に洗われながら話す。

『後で描いてみてね。』と母は素っ気ない。

『母者はもう紋があるか?』

『そうね。ノルデノルンの紋ならね。二重山括弧の中に、三頂点の山線を縦に三つ、ね。』と床に描いてくれた。

・・・へ~、それいいぞ。母の剣に刻んでおこう・・・


今日はエレナとルミナは静かだ。二人はサラの胸を見ている。オレは母の胸を見ながら、母に湯場を出る事を言う。小さい泡の回転流に入り、温風で乾かす。クランノーバァの湯場特製だ。それをサラが興味深げに見ている。

部屋に戻り眠りにつく。三歳児は眠るのも早い。


衣裳の完成は明日だ。衣裳が出来れば、各街へ行くつもりだ。今日は家敷内で作業をする。

・・・まず母の長剣を造ろう。長剣の刃には白銀だ・・・


白銀鋼の刃は、銀色大蜘蛛の糸をも切断する。柄の先に、赤魔石を嵌める。赤魔石は火炎魔力の使用と強化を行う。母の短剣には魔力の無効化をする黒魔石を嵌めてある。長剣は赤魔石だけで十分だ。昨日聞いた母の紋も剣の柄に刻んでおく。

サラティナは朝からオレに付きっきりでオレの作業を見ている。


『サラ、面白いか?』

『ええ・・・』

『サラのも、何か作ってやろうか?』

『ええ、出来れば・・・』

サラは、途中で口籠る。

『話が有れば、聞くぞ』長剣を見たままサラに聞く。

『坊は、どこまで知っていますか?』

『オレは何も知らん。ただ感知するだけだ。』

『・・・』

『サラの仲間たちは強盗と関係があったか?』

『はい・・・』

『そうか・・・。辛いな。』


『人は弱い。誰でも、何かの拍子で変わる。心が変われば、行く末もかわる。オレもいつか変わるかもな。ただ、サラはオレらに会えた。それで良かったと思ってくれ。』


『坊は私に命をくれましたか?』とサラは泣きそうな声だ。

『生きる気力を失った者に生きろと言っても聞こえない。強引に生かすしかない。それの対価がオレの気力であり、命だ。オレがサラの同意も得ず、勝ってにした事だ。サラが元気であればオレは嬉しい。』

サラが泣いている。

オレは立ち上がり、しゃがんでいるサラの側による。

『サラ、オレの事は気に病むな。オレはこんなんだ。だからかオレの命はそう長くは無い。サラに分け与えても変わることはないから、サラは気にするな。しかし、オレが居なくなった時に、母の側にサラが居てくれると思うと、オレは嬉しい・・・』と、サラの胸を撫でる。

サラは、少し納得した顔でオレに頬ずりをして、泣いた顔で笑ってくれた。


母が遠くで話を聞いているのはわかっていた。部屋に戻る。オレは眉を寄せて、口を結び、母を見る。母はオレの頭をなぜて、何も言わず、オレの額に母の額を寄せてくれた。

今日、サラは青い髪の色を銀色に代えた。


衣裳の出来る日だ。

マギーの店に寄る。衣裳は出来ている。臙脂色の厚手のシャツで襟は首回りだけの低い形。銀色の襟付シングルベストに左胸部と左右腹部のポケットの取り出し線を指幅で黒線をつけた。ズボンは腰から下に二つの折り線を入れ、腰から幅広で、足首に向かい縮まっていく形の厚出の黒。左右腰と両臀部のポケットの取り出しロに臙脂色の指の太さの線付。


銀色大蜘蛛の糸の布地が売れるのは早い。マギーから追加の布地の依頼に応え、四巻を渡しておく。

『警護団の団長がお辞めになったんですよ。警護団の不始末の責任を取るとかで・・・』マギーは世間話をする。

・・・へえ、母者に世間話が出来るのか・・・

『珍しくフィアレス商会の会主様がお見えになりまして、レディティア様に宜しくと仰って、びっくり致しました。』と、マギーが話す。母も話に和やかに応対している。

マギーは母に対して、オドオド感が消え堂々と応対出来ている。

・・・マギーの心には少々気になる・・・

『大きな商談であっても、フィアレス商会の会主様がお見えになるのは珍しいのですか?』と聞く母。

『はい。初めてだと思いますよ。』とマギー。

・・・領主は何にしに来た?わざわざ商談だけではないよな・・・


マギーの店を出て、ロワール商会に行く。ロワールはグランアリスより戻ってきたばかりだ。皆で荷卸しをしている。ケイトの顔色が悪い。残り二人の顔触れが変わっている。

ロワールへの挨拶は改めることにした。

・・・厄介事には近付かないようにしよう・・・

明日はノルデノルンへ戻る。ロワールには暫く会えない。三歳児は忙しい。


朝、クランノーバァの家敷を出発し、昼過ぎに、ノルデノルンの南門に到着した。

『じい、ゆっくりやってくれ。』

敷地の中に入ってからはゆっくりと馬車を走らす。回りを眺める。小麦も、米も順調だ。薬草も育っている。果物も良さそうだ。甜菜もキビも良い。

サラは興味深げに回りを見ている。


馬車は中央の広場を過ぎ館の玄関に着く。

『じい、一周してくれ。』館を一周してサラに見せる。

『ここにも湯場があるのですね。』サラに言われ、答える。

『一番に造った。裸の付き合いは大事だ。』と仏頂面で答える。

サラが笑う。


馬車を玄関に止め、皆、館に入る。

サラの部屋を案内した後、 皆で、昼食にする。ゼルトの用意する食事は旨い。

サラが参加したことを一番喜んでいるのはゼル卜だ。サラが母とオレの護衛を引き受ける。自分は料理に専念出来る。その事が嬉しいようだ。


昼食後、魔石を探しに行く。アクト方面の岩橋のあった大峡谷の絶壁だ。

母とサラと行く。

母はオレの姿が見えないと不機嫌になるから母を連れて行け、とルミナとエレナがオレに言う。

岩壁は、一人で十分たが、サラに岩壁を見せておきたいのと、馬車を馭せるからであったが、母にも同行を頼んだ。母はご機嫌のようだ。


アクトとの境界、岩の大峡谷に着く。三人で馬車を降り、大峡谷を眺める。

峡谷を絶壁を望む谷底は深く底が見えない。左右も果てしなく続いく。アクト側の岩壁も遠く霞んでいる。橋のない今、通常の人では両側を行き来するのは不可能だ。


『母者、サラ、行ってくる。』

母者が何か言いたそうなのが判っていたので、急いで、魔袋から空中用の椅子を出して座り、峡谷に飛び出す。魔石の目星を付け、絶壁をゆっくり降りて行く。


魔石の位置に近づき、魔力を込めて、慎重に穴を開ける。魔石を魔力で包み、岩の中より取り出す。欠けたり、ヒビのはいった魔石は魔力が失せているし、貯めることが出来ない。同じ事を繰り返し、目的の魔石をいくつか見つけることが出来た。

一旦、馬車の処に戻る。


母とサラが目を瞑って、何かに祈っている。

『母者、サラどうした?』驚いて声を掛ける。


『三歳児が、岩壁に張り付いて岩を削るなんて、していいわけないでしょう!』と母とサラに二度とするな、とくどくど怒られた。

・・・三歳児だって出来るならしてもいいだろう・・


母が二人になってしまった。やはり一人で来るべきであったと後悔する。早々に館に帰ることにした。


早々に戻って来たオレを見たルミナとエレナが顔を見合せ、頷き合っている。

『何だ?』

『やはり、怒られるような事しましたね。』とルミナが言う。

『ちっ。』オレは仏頂面だ。


帰ってお湯に浸かる。魔石の採掘は魔力を使う。神経も使う。疲れている。

・・・ちっ、絶壁に架けてるオレの魔力を弄ろうとした奴が居る。さて、どうするか、まぁ、いいか。 眠い・・・


夢を見る。

教会にいる。暗い。嫌な気配だ。男が何かに藻掻き、足掻いている。、怨み、嫉み、悲しみが充満している。それを隠れて見て微笑む若い女性。教会に行った事がないのに教会だと解っている。不思議な夢だ。


部屋で目が覚めた。夜か。母がいる。

『母者、すまん。寝てたか?』

『湯場で浮いてたわ。一人で入ったら駄目と言ったでしょ。』

『気を付ける。』

・・・あのまま眠ってしまったのか・・・

『母者。オレはアクトの領主になれるか?』

『アクト家とは縁を切ったから、領主には成れないわ。成りたいの?』

『成りたい訳じゃない無い。ではアクトがオレを狙う理由は無いな。』

『何かあったの?』

『領地の境界の外、アクト側に魔力の残滓があった。嫌な気配だった。侵入は出来ん。が、暫く他へ行こうと思う。いいか?』

『ジオの、したいようにしていいわ。』

そのまま母に抱かれて眠る。


朝、皆で朝食を摂る。食べながら皆に言う。

『商品の準備が終ったら、オレはここを出る。クランノーバァから砂漠の国へ向かう。それから各街を回る。暫く帰らん。』

『皆はついて来るのも良し、クランノーバァに居るも良し、好きにしてよいぞ。』

皆、何故、砂漠の街なのかとは聞かない。砂漠の国は寺院はあるが、教会は無い。


『坊、オレはクランノーバァで待つ。馬車を売る。』とシーザス。

『ノルデノルンとクランノーバァを行き来したいが、いいか?』とゼルトも聞く。

『二人とも好きにしていいぞ。但し、ノルデノルンの西の奥の森林と岩場には行くな。』と答える。


エレナとルミナもクランノーバァで菓子を焼く、と言う。

砂漠の街へ行くのは足手まといになると考えたようだ。

サラは何も言わない。

確かに、砂漠の町へ行くのは馬車で行けるが、進みは遅い。時間が掛かる。そして砂漠は熱さと砂嵐が過酷だ。


菓子工房にゼルトが居る。

『ゼルト、菓子の試作品はどうじゃ?』

『ああ、順調だ。二種類でいいのか?』とゼルト

『砂糖は高価だからな。二種でいいだろう。』


隣の織糸工房を見る。

『エレナ、ルミナ、糸はどうじゃ?』

『坊、六巻になったよ。』とルミナ。

米も麦もまだ収穫時期ではない。

砂糖は甜菜の根から、塩は岩場で岩塩から抽出、精製する。尚金棒も三十本程造る。

岩場に行く時は母とサラも、勿論一緒だ。岩壁には降りない。


木材工房のシーザスを見に行く。

『爺、馬車の部材は足りるか?』

『ああ大丈夫だ。十台も売れればいいほうだろうからな。』と、爺が笑う。

『足りなければまた作るわい。』と続ける。

数日掛けて準備は整った。


八話 完




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