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六話 グランノーバァと誘拐

馬車に乗り、ロワールの紹介の衣料店へ向かう。腕も良く、価格も良心的で、布の種類や色も豊富とのこと。その、マギーの店に着く。

シーザスとゼルトは馬車にいるようだ。

商業地域を南に抜ける大通りの、西の裏通りの店舗は思ったより広い。しかし、立地は良くない。

・・・やはり、腕が良いのか、売れる特長が有るのだろう・・・/


女性の店員も三人いる。二人は接客中で、空いてる一人に、母がロワールの紹介文を渡し、店主のマギーを呼んで貰う。

紹介文を読みながら出て来た女性が母に挨拶をする。

母もオレとの手を繋いだまま挨拶を返す。エレナとルミナは母とオレの後に立っている。


店主のマギーは、

『一歳にしてはしっかりなされてるお子様ですね。』と、オレを見ている。

『ええ・・・』と母は困った顔をしていた。

・・・やはり、一歳くらいから成長していないのか、だから母は心配しているし、不安なのか・・・


オレの顔を見ていたマギーは、驚くとともに、後悔と畏れの表情を浮かべる。

それを見ていた母の顔が強張るのが分かる。

・・・どうした?顔の痣か、気まずいなぁ・・・


母の太腿を強く押す。母へ微笑む。

『エレナ、ルミナ!、衣裳を見る。』幼児用の衣裳に向かう。オレは、顔を向けずに耳では母の様子を伺う。


母は気を取り直して商談を始める。母はまず衣裳の注文の話をしている。黒のシャツに臙脂色のベスト。下は黒のスボンで腿の部分がゆったりした足首までの長さ。それぞれ十数着の注文をする。

店主のマギーはおどおどと聞いている。


次に銀色大蜘蛛の糸の布地を見せる。

マギーは驚く。

マギーはおどおどした声音で、

『ぎ、銀色大蜘蛛の・・・い、糸の布地は、今では、殆んど手に入らないのです。・・・銀色大、く、蛛の糸の布地の産地は・・・ノルデノルンで・・・ほとんど出回っていないです。』

と、マギーが言う。

・・・それはそうだ。今まではノルデノルンに人は居なかったのだからな・・・


マギーの目の前にあるのはまさしく布地は銀色大蜘蛛の糸の布地。これで誂えた服はしなやかで、保温に優れるだけでなく無駄な熱を排出してくれる。

更に、薄い鋼と同等の強さがあり、ほとんどの鋼の剣を通さない。これで仕立てた衣類の需要は引く手数多であり、とんでもない利潤が見込めると考えるのが一般的だ


しかし、仕入れるにも相当の資金が必要だ。

マギーにはその資金がないだろう。マギーは母の顔を盗み見る。母は先程の件で、顔を固くしているようだ。話出す声が硬い。


『買い取り資金が無ければ、後払いでも構いません。価格も善処します。但し、次回の納品は入金の様子で考えることになりますが、それで良ければ・・・』

マギーの顔がほっとした表情に変わる。

『そ、それで、宜しくお願いします。』

と、それでも、マギーの声がおどおどしている。

硬いままの顔の母とオドオドした声のマギーが契約書を交わす。


母の顔を見る。

・・・母者、顔が固いぞ。何が気に障った?オレのことは気にするな。心根はいい人だから仲良くな・・・

オレは母の傍らに行くと母に手招きする。

母はオレに顔を寄せる。オレは母の頬を突っつく。

・・・母者顔が怖い・・・

母は察したのか微笑む。


『母者、終わったか?かっこいい服ある。見て。』

『母者のもあるぞ。』

母をつれて幼児用へ行く。

そこには縁にモフモフの付いたフード付きの上着とお揃いのスボンの組み合わせで赤、白、黒と有る。オレも気になって試着する。

・・・グレーより余程いいぞ。・・・


母も気に入ったらしく、全ての色を購入してくれた。

エレナとルミナ、母も自分用の衣裳を何着か購入している。


帰り際、母は気を取り直して、店主に声を掛ける。

『マギー殿、末長くお願いしますね。』と母が落ち着いた声で言う。

マギーも笑顔で挨拶を返している。

・・・何が、母者の顔を強張らせたか、後で聞いておくか・・・


衣裳の注文も、糸の売却も、無事済んだ。気に入った服も買った。

馬車で屋敷に戻る途中に

『じい、ロワールの店に寄ってくれ。』

『母者、ロワールの店の隣で馬車を売るぞ。』

『だからロワールに頼んでくれ。敷地の奥半分に屋根を作ってくれる業者を頼むって。』


『坊が作ればいいだろう』とゼルトが不審そうに言う。

『ゼルト、駄目だ。商団に能力使いがいるのはまずい。それにオレは、能力がばれたくない。』と。

『そうよ。皆、ジオの事は内緒よ。いいわね。』と、母がきつく言う。

ゼルトが肯く。シーザス、ルミナ、エレナも頷いている。


母の顔が曇る。

『ジオ、マギーはジオの目に気が付いたわ。だから、あんなにおどおどしていたのよ。』と、オレを見る。

『そうか、そう云う事もあるのは仕方無いな・・・まあ、糸がある限り、下手なことはせんだろう・・・』と、オレは、火傷痕の位置を確認する。

『そうね・・・』

・・・母にはああ言ったが、どうしたものか、信仰は、人が変わるからな・・・そ、そうなのか、なんでそう思う?前世にも教会は存在したのか・・・


ロワールの店に着く。

ロワールの店で、朝の男と娘が働いているのを、オレは馬車の中から見ている。二人は幸せそうだ。

馬車を降りた母がロワールに説明している。

・・・勿論、手数料は払うぞ・・・


敷地に戻って、皆で昼食をとる。ゼルトが小麦の麺料理を作ってくれる。ゼルトは料理が上手い。


『じい、馬車を扱う商会だ。名前はシーザス商会でいいか?』と麺を箸に巻きながら聞く。

『坊、嫌じゃ。』と首を振る。

『嫌か・・・』と母を見る

『駄目よ。』と。

・・・まだ何も言っておらんのに・・・

そして、順番に残りの皆の顔を見る。見られた者が首を振る。

『ちっ、考えるのが面倒なのに。』

『しっかり、考えるのよ。』と母がオレを見ないで言う。

『わかった。シーレ商会じゃ。』とオレが言うと、皆安堵のため息をついた。

・・・まあ、いいか・・・


敷地内に冶金場がある。

これで剣が打てる。念の為、魔石を備えた短剣を母の為に造っておく。母は婚姻する前は傭兵をしていたらしい。剣の腕前も相当だとゼルトが教えてくれた。

その話を聞いた時に、アクトの館で、母と襲われた時の事を思い出す。


あの時の母は、数人に囲まれていても、恐れを感じずに、相手の剣を捌いていた。とても不思議に感じたのを思い出す。

それで、母の剣を打つ事を考えた。長剣では、また人混みで振り回されたりしたら皆に迷惑だ。だから短剣にしてみた。


冶金場の隣に馬車の工房も建てた。

馬車を売る気になったのは、自分で組み込んだ段差吸収器が気に入ってるからだ。

これの付いている馬車はない。

これの快適さがわかれば売れるだろう。

人を雇うのは大変だ。だからロワール商会の隣に作った。

・・・ロワール、オレらのお陰で、随分儲けたろう。馬車を売るのも手伝って貰うぞ。勿論手数料は払うぞ・・・

・・・夕食まで馬車の部材を造りながらゆっくりしよう。急ぐ事は無い・・・


さて、今日の夕食は酢豚?だ。台所に行く。ゼルトがいる。

『ゼルト、夕食は・・・肉と野菜を炒め、甘酸っぱいタレでからめてくれ。スープは玉葱を煮詰めて鳥の骨の出汁と混ぜてくれ。それと米だ。』

『ああ、分かった。美味そうだ。』


夕食後、ゼルトのつくった酢豚?は、肉が柔らかく、酸っぱさの丁度良さに満足し、うとうとしていると、早く寝るよう母に言われる。と、来客がある。

部屋に入り、気を飛ばす。


《 ロワール商会の店主ロワールが慌てて現れ、母に頭を下げる。今日の夕方に、ロワールの知り合いの娘さんが、店の敷地で遊んでいた筈がいなくなったとの事。未だに行方不明らしい。明日も捜索するようだ。それ故、明日の出発を延期してほしいと言っている。》

・・・ちっ、可哀想な子に何をするんだ。助けたのが、徒に成らんようにせんとな・・・


オレは集中すると、気配を飛ばす。まず、広場から探る。広場には感じられない。次に商業地域の区画。少女の気配は無い。そして、一般住宅区域。

・・・有った・・・位置的には、住宅街か。あの嫌な男の気配も側にある。あの三人の気配も、近いが・・・子供に怪我はない・・・


エレナを呼ぶ。

女の子の気配のある場所を地図にして、エレナに渡す。エレナに母への伝言を頼む。

〈夕方お使いの時にエレナがここに入る女の子を見た。〉

〈警護団には気をつけるように〉

オレはエレナにオレの気配を付ける。


《 エレナは客間に入り、急いで地図を母に渡し、そっと母に二つの事を伝える。

母は驚くと、ロワールに地図をみせ、内容を伝える。ロワールは話を聞くや、礼を言って直ぐに飛び出していく。》

オレは、ロワールに気配を移す。


母は寝室に戻って、オレの顔をまじまじと見た。

『母者!大丈夫!オレは寝るから。』と笑って見せる。

母はオレに添い寝をする。

・・・母者、オレを見張るつもりか。気配は見てるし、いいか・・・


《 ロワールは急いで歩いている。傭兵組合に着く。

明日依頼する四人の傭兵グループを至急で呼んで貰っている。直ぐに傭兵グループ全員が集まる。》

・・・へえ、凄いな・・・


《 ロワールは傭兵グループの四人に知り合いの娘さんが行方不明であり、その娘さんを探している事を説明し、そして、この場所にいるらしいとの地図を見せている。護衛団が集まるかどうか分からないし、急ぐのでと、同行の依頼をしている。グループは心良く承諾している。


ロワール他四人は警護団に向かい、団長のモラーと会う。モラー団長へも四人と同じ話をする。

ロワールは団長の様子を伺う。警護団の件は伏せている。

団長は夜警のうち四人を選び、五人でロワールと四人に同行する。ロワールと九人は目的の家の前に着く。


目的の家は、通りに面する家の裏手にあり、隣の家の壁とその家の間の細い通路を抜けたところにある。

そんな場所の細い通路を塞ぐように、警護団の三人が立っている。》

・・・門にいた三人だ・・・一人は主導的な立場で、その男に従う二人か・・・


《 団長と四人が立っている三人を囲み、話を始める。 その間に、ロワールが四人の傭兵と伴に細い通路を通って、裏の目的の家屋へ行く。ロワールが扉を引くと、簡単に扉が開く。家の一つの部屋の中で、二人の男が子供同士を紐で結んで、連れ出す支度をしているようだ。


『子供がいるぞ!』

ロワールが大声で叫ぶ。

警護団の三人のうち二人は捕らえられ、主導的な立場の男が逃げる。家の中にいた不審な男二人は抵抗もせず、傭兵四人に捕まる。

五歳から十二歳の子供八人が保護された。


ウスラの娘もいた。ロワールはウスラの娘を連れて店へ向かう。四人の傭兵も一緒だ

『大丈夫かい?ケガはないかい?』と聞くロワール。

『はい。大丈夫です。』と、娘がしっかり答える。

店に戻ると娘のアリサを見て父のウスラがロワールの手を取り、

『ロワール、ありがとう!ありがとう・・・』と感謝している。

『父さん!絶対助けてもらえるって、思ってた。』とアリサがウスラに言う。

『そうか・・・そうか・・・』ウスラはアリサを抱いて泣いている。

傭兵の一人がロワールと明日の話をして、傭兵の四人で去って行く。》

・・・めでたし、めでたし、だな。母者は寝たか。オレも・・・


朝、皆で食事を取る。

粥、卵の目玉焼き、肉の薄焼き、野菜スープ、果物片各種。三歳児は食べるのが遅い。

ロワールとウスラ、アリサが来たようだ。母が客間で応対する。気配は視ない。経過は知っている。

オレは顔を出さない。ルミナがオレを見ている。朝食が終らない。

・・・ルミナ!お腹一杯だよ、残してもいい?・・・

オレは、ルミナをじと目で見る。ルミナは顔を横に振る。オレはまた、食事に向かう。しかし、三歳児は一度に沢山食べられない。

・・・ルミナ、母者に何を言われた?・・・


領都への出発は、予定通り午前の九刻だ。

ロワールは、母に、昨日の事が有るので、ウスラと娘さんも同行するので宜しくと言ったとの事。また、自分は、昔、ウスラさんには随分世話になっていた、だから、その恩を返さないと、とも言っていた。

・・・ロワール、義理堅いじゃないか・・・


ロワール商会へ向かう。ルミナのせいで腹一杯だ。動きが鈍い。馬車に乗るのに、足台を踏み外しそうになった。

・・・今度、ルミナ商会を作ってあげよう・・・


馬車はロワールの店に着く。

ロワールが、ゼノとジート、ヘレン、それにケイトという、四人の傭兵グループを連れて来て、母に紹介している。

代表者はゼノ、手に火傷痕があり、髪が青い。

ロワールは、いつもこの傭兵グループを使う、とても信頼している、そんな事を母に言っている。

グループの内、二人の男女の髪の色が青い。もう一人の男性は金髪で、残りの女性の髪は赤い色だ。


ヘレンと紹介された青い髪の女性は、飛び抜けた剣の伎倆だ。気配が他の三人とはまるで違う。それに攻撃的能力も使えそうだ。

・・・あの二人は、同じ青い髪をしているが、恋仲なのか・・・厳格な傭兵グループにおいて、それは良い事なのか?・・・後で母に聞いてみよう・・・


・・・何故、ヘレンは母を見ている?母は気づいていない訳がない・・・


六話 完


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