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一話 アクトの館

自分の周囲がはっきり見えるようになっている。生れて一か月くらいだろうか。

オレは仰向けで寝台に寝ている。

体には布を巻かれている。

・・・肌触りが良くない・・・これはこの世界の布の作りが粗いのか、それとも、オレの境遇所以か・・・

愚にもつかない思いに、苦笑する。


オレの、今の状況が夢でないことはわかっている。

自分は、この世界に生まれて来た赤子だ、と云うことへの納得は出来た。 

・・・しかし、何故だ・・・どうなっている・・・ここは何処だ・・・

深く考えようとすると、いつも眠くなる。


そして、暫くの眠りの後、目が覚める。

目に入るのは、いつもの高くない六畳程の白い土壁の天井と、左右に、同じ白い土の壁。そして、自分が寝ている寝台とその柵。

天井の広さでこの部屋の広さが分かる。この部屋は、オレにとって広いか狭いか分からない。

足方向奥に、木製の小さな机と椅子。造りは粗い。

その机と椅子の向こう側に、大きな窓。朝から晩まで、森と青空が見える。

寝かされた頭の向こう側には、多分、出入口。

今の俺では見ることは出来ないが、開いたり閉まったり、扉の音が聞こえ、その度、人が現れ、または消えて行く。


朝と夕に、侍女らしき、濃い緑色の、襟なしの前釦の長袖の長衣(修道女?)に、白い前掛け姿の二十代の女性二人が入ってくる。

オレの顔を見ることは無い。

だから、オレも見ない。

二人のうちー人がオレの纏っている布の交換と、オレの体を拭う。オレはされるがままに、寝ている振りをする。

オレを扱うその動きに、丁寧さは無い。


侍女らしき二人とは別に、日に数度、乳を与えに来る人がいる。

高価そうな光沢のある、薄い水色地に、全体に赤と青の花柄模様の、襟のある長い丈の衣裳を着た若い女性。

胸までの長さの流れるような輝く銀の髪。年は二十代半ば。切れ長の目の鼻筋の通った白い肌の美しい顔立ち。


・・・東欧系?かな・・・

いつも悲しそうにオレの顔をみている。

・・・何が悲しいのだろう・・・

オレも乳を貰いながらチラチラと、その顔を見る。


生れて、三か月になる。

トラックに轢かれたオレ。

その前は、職場で同じ白いシャツを着た人々と話をしているオレ。更に若い頃、学業の実地作業で植物を植えている、農業系の学校に通っていたオレ。

多くの場面が頭に浮かんでいた。それらは、現実に有った事の筈。

しかし、当初はしっかりと覚えていた筈の事柄が、日を経るとともに、あやふやになっていっているのに気が付く。


今は、会社の名称も大学の名前も思い出せない。

親も兄弟も友人もいた。なのに、その名前も顔も分からない。

そして、自分の顔や名前さえ忘れている。

この世界に生まれ、生きることで、前世の記憶は失せていくようだ。

・・・この世界の多くの者が、オレと同じで、前世の記憶が消えて、前世の事を忘れて育っていくのかもしれない・・・

悲しみは無い。ただ、懐かしく望郷の念を感じる様なものだ。この思いも、暫くすると消えてしまうのだろうう。


目が覚める。

二人の侍女が話をしている。

誰かの態度を罵っている。意地悪をされたと怒っている。

・・・どこの世界でも人間関係は大変だな・・・

赤子のオレが思う事かと、またも自分ながら呆れる。

しかし、以前にも会話の内容が理解出来たことがあった。

・・・うん?何故だ。オレは、言葉も、文字も知らない赤子の筈なのに、話の内容が理解が出来るとは・・・


話して怒りが収まったのか、その侍女が、いつもの同じ言葉を唱えているのが聞こえる。

いつもどおり目を閉じていたが、そっと薄目で見てみる。何かを唱えている侍女の前の、粗末な机の上に乗せた桶の中の空気が揺らいでいるように見える。

そして、桶の中に水が湧き出る。気付かれないようにすぐに目を閉じる。


侍女たちが作業を終え、部屋を出ていく。

侍女の為した事を思う。

・・・理解出来ない言葉で陽炎のような揺らぎが漂い・・・水が湧いた・・・この世界の人々の能力なのか・・・侍女が出来るなら、オレも出来るかもしれない・・・時間はたくさんある・・・


宙に水の湧き出る様を意識してみる。何も起こらない。繰り返し意識する。何度も、何度も。

いつの間にか眠りに落ちる。


目が覚める。抱かれたオレは乳を飲んでいる。

『ジオ、たくさん飲みなさい。』

オレを抱いた銀髪の女性が、にこやかに言う。

オレの名前はジオである事を知り、今では、その美しい女性がオレの母なのだと確信している。


母は、最近は、悲しい顔をすることが無くなった。何かが吹っ切れたのだろうか、とても凛々しい顔つきだ。

オレには何の心配も不安も無い。それは、母が母乳を与えてくれるおかげなのだろう。

多くの赤ん坊も同じだろう。


生れて六か月。

前世の記憶はほとんど無い。何かのきっかけで湧いては来る事は有るが。

しかし、赤子がオレのように考えるだろうか?他の赤子の事は分からないが、おそらく、そんな筈は無いと思う。

我ながら、自分は普通の赤子とは少し違うのでは、と感じている。


普通の赤子は寝るのが仕事だ。起きている時には、乳を飲む以外する事がない。オレは湧き出る水の事を思う。揺らぎをイメージして、水が湧き出る様を念じる。何度も何度も眠るまで繰り返す。

が、特に何も出ない。そして、また眠りにつく。


目が醒める。腹が減っている。

と、母が入ってくる。察しの良い母に感謝する。

母に上手く笑いかけられるようになった。

すると、オレの笑い顔が嬉しいのか、母も微笑んで抱きしめてくれる。

その事で、母はオレを愛してくれていると実感する。オレの心の中に嬉しさ、満足感が広がる。


微笑んだ母は、更に美しい。母の美しさを引き継いていれば、オレも将来は美少年と呼ばれるようになるかもしれない。

そんな事を思いながら乳を飲む。乳を飲みながら、母の顔を見る。

母の鼻筋に斜めに傷があるのに気が付く。

・・・うん?・・・あったか?・・・何故だかとても悲しい・・・


母は、父と父の家族と仲が悪いのだろうか?父の顔を見た事がない。

祖父はいる気がする。おそらく、最初に聞いた声の老人が、祖父なのだろうと思うが、その老人も来ない。


この世界の夜は月明かりと星の灯りで煌めき、音一つ無い、静寂が覆う。

そんな深夜、息の出来ない苦しさで目が覚めた。いつもであれば、朝方にお腹が空いて目が醒める。

しかし、今は苦しい。顔に何か貼りついている。

・・・布だ!・・・

濡れた布が顔に貼り付いている・・・

顔を振っても取れない。指は届くが、指では力が無く、上手く摘まめない。

・・・このままでは死ぬぞ!・・・

必死に顔を振る。意識が遠退きながら、更に必死に顔と体も振る。

以前の、頭が振られた時の光景が脳裏に浮かぶ。あの時は母が強く抱いてくれていた。据わらない首が、母の動きで左右に振られた。


ーーー

夕刻だ。オレと母は庭にいた。

偶の夕刻に、母はオレを抱いて、館の広い豪華な庭を散歩する。

その時は、何処かに隠れていたのか、不審な男達数人が、剣を握ってこちらに走ってくる。

母は、男達を見ると、短剣を抜き、構える。

オレは母の腕に強く抱かれる。

男達は、何も言わず、オレを抱いた母を囲む。

そして、母に向かって振り下ろされる剣。母が受ける。更に、横から他の男の剣が伸びる。母が躱す。また、母とオレに向かう別の剣。それを短剣で払う母。瞬く間の出来事だ。

それが繰り返される。鳴り響く剣戟の音。


オレは体が振られ、首が揺れる。

・・・オレに出来る事は、声を上げ、泣く事だ・・・

大きな声で泣くオレ。

近くで叫び声。慌てて去る不審な男達。

母の、所々を切られた衣装、そこから流れる赤い血。

母に、抱き直され、強く抱き締められているオレは、只々、その流れる血を見据えていた。

ーーー


何故、忘れていたのだろう。

母の顔が浮かぶ。母の美しい顔。そして傷。オレの心に湧き上がる悲しみ。

・・・今死んだら、母はどう思うだろうか、あの時の母の努力が、無になってしまう・・・


意識が途絶える中で、母を思い、生きなければという強い思い。

その強い思いが顔に貼り付いた布に向かう。

・・・くそっ、布め、離れろ、飛んでいけっ

・・・

すると、顔に貼り付く濡れた布が吹き飛んで行く。


何度も大きく呼吸をして、肺に空気を入れて落ちつく。

顔に濡れた布を被された事より、オレを抱えた母が、傷を負いながら剣を振るう、その姿がオレの頭の中を巡る。

そして、疲れたオレは、いつの間にか眠りに就く。


朝、いつもより早く侍女の一人が入ってくる。

侍女は少し、オドオドしている気がする。そして、オレの様子を離れた所から見ている。

今迄、侍女が居るときは目を伏せたままにしていた。

今は目を開け、侍女を見る。侍女は、見られているのがわかると、慌てて部屋から出て行く。

安堵と遣る瀬無さで溜息が出た。


オレは、狙われているのが母ではなく、オレである事に気が付いた。 

何故オレが狙われるのかは、薄々、分かってはいるが。しかし、この赤子の体では如何ともしがたい。また溜息が出る。


いつものように入って来た母、オレを抱き上げ、変わらず微笑んで乳をくれる。

母の顔を眺める。傷が目に映る。

オレの所為でと、悲しかった。乳を飲みながら、オレの目に涙が滲む。


日が変わった。

部屋に来る二人の顔触れが違う。二人が着ている衣服は前の侍女と同じ。

新しい侍女の一人は足が悪いのか、歩くのに難儀そうだ。

彼女は自分を指してルミナと言い、もう一人をエレナと呼んだ。

二人はともに黒髪を後ろで結んでいる。

オレは二人を見て、声を出して笑ってあげる。挨拶のお返しだ。


オレの笑い顔に対し、微笑んでいるエレナ。エレナは、首左半分から肩にかけて火傷の痕が見える。

二人とも痛ましい。

その二人が、オレの新しい侍女というのは気に成るところだが。考えないようにする。

二人とも小柄だ。年は十代半ばに見える。性格は優しそうだ。特に嫌な感じは無い。

・・・目の細い子がルミナ、丸い目の子がエレナと覚えておこう・・・


侍女がこの二人に替わって、オレの毎日の生活も変わった。

二人は、いつも近くに居る気がする。何か気になれば、直ぐに二人か、どちらか一人が顔を出す。

それと、日に一度、オレを裏の庭に連れ出してくれる。

外に出られて、日に当たれるのは嬉しい。

裏庭の先にはちょっとした畑、そして森。その先に山が聳えている。

この館は、山の裾野に建てられているのを知る。


生れて八か月。

顔に濡れた布を被され死にかけたオレは、あの時以来、能力が使えるようになった。能力で物を動かし、更に水も火も出す事が出来る。

前の、名も知らない侍女たちは、オレに能力を使えるきっかけを与えてくれた。だから、多少の感謝はある。

こうして生きていられるから、今は、彼女らに対する怒りも無ければ恨みもない。

誰に言われて事を起こしたのか、自分の考えでは無い筈だ。その指示した者との関係を思うと、憐れには思うし、その後の心配もしたが、オレの考える事ではないと、頭から追いやった。


体も自由に動かせるようになった。ハイハイも出来る。声はまだうまく出せない。思考は変わらず大人のままだ。

前世の事は、もう思い出せ無い。ただ、前世の記憶を持って生まれたという事は忘れていない。


今では、住んでいる敷地の、何処にでもオレの力を飛ばす事が出来る。その力でいろいろ知覚出来る。

館の人の出入りは意外と多い。

しかし、オレの寝ている部屋は、当主の住む豪華な館ではない。裏庭の反対側にある従者の住む簡易な建物の一部屋だという事を知る。

母は当主の館に居る。父はこの館には居ない。

何故、母とオレが離れて暮らしているかは、まだ分からない。


石造りの館には蔵書部屋がある。

何となく見覚えがある気がするその部屋は、三階の高さまでの吹き抜けの円形で、壁すべてに本が並ぶ。とても広く、高い。

どういう訳か、入口が見当たらず、そして、人の気配の感じられない部屋だ。

部屋の真ん中に大きな机は有る。しかし椅子は無い。傍らに用紙の保管された棚は有る。しかし、墨も筆も無い。


オレは、思考は大人でも、文字は知らない。だから、文字を覚えられる書本を探し、文字を覚えて、多くの本を読む。そして、必要と思う書本の写本も作る。

尚、オレに墨も筆も必要ない。置いて有る紙に念写するだけだ。時間も掛からない。

字を覚えるにはもってこいの作業だ。


そして、多くの書本より、この世界の多くを知る事に励む。

人の入る事の無いこの部屋は、オレにとってはとても有難い。


オレは一歳になった。

母乳から離乳食に変わった。オレは大層不満だ。

・・・母者、まだ乳が出るだろう・・・オレは、まだまだ母乳が必要だ・・・

一歳にしては成長が遅い気がする。


オレは歩けるようになった。文字も覚えた。話しは少し出来るようになった。

オレの能力はこの世界にある多くの者が持つ能力だと解った。その能力の本も読んでいる。お陰で、能力は格段にあがった。


そして、ここはアクト家の領地であり、その領館の敷地である事を知った。

また、母はこのアクトの領地の当主の長男の妻であり、当主の館に当主とその妻、それに次男夫婦も住んでいる事も知る。

しかし、オレの感知では、館に住んでいる人々に血の繋がりは感じられない。

唯一、母とオレ、祖父らしき老人とオレ、その関係だけが血の結び付きを感じてはいる。

・・・どういうことだ?・・・


オレが従者たちと同じ離れに住まわされている訳も知った。

オレは右の瞳が銀色、左の瞳が金色に生れている。教会の所属であれば聖人眼と呼ばれ、教会に属さないと魔人眼と呼ばれる。

聖人眼もしくは魔人眼は、極めて稀らしい。そして、その者達が発揮する能力は飛び抜けていると、世間では思われている。

教会では魔人眼の者の能力は魔力と呼ばれ、聖人眼の者の能力は聖力と呼ばれ区別している。

しかし、聖人眼、魔人眼の幼子全てが強い能力を使えるとは限らない。


本来、この者たちに区別はない。

教会の拡大に伴い、この眼を教会が望んだ。それ故に、人に忌み嫌われる噂が流される。今では疎まれ、怖れられる存在にある。教会は魔人眼の幼子を魔人の子として探し出し、そして狩る。狩られた幼子の行く末は不明だ。

魔人眼のオレが隠され、生きていられるのは、母のおかげなのだろう。母には感謝しかない。


乳離れはしたが、母は何時もの様に部屋を覗いてくれる。

まだまだ話す言葉は不自由だ。オレは母に話し掛ける。母が答える。母がオレに話す。オレが答える。そうして会話の仕方を覚える。

父はいまだに姿を見せない。


二歳になった。

オレは、能力の訓練は欠かさない。能力の書本にある事は全て出来るようになった。しかし、体の成長は遅い。

変わらず、一人で従者の建物の部屋で生活している。食事も部屋だ。

両隣りの部屋には、それぞれ、ルミナとエレナが居るが。


館の前の広い庭に、オレは行かない。

ルミナとエレナが、オレとその庭を歩いている時に、館の責任者らしき男に文句を言われた。

『ジオだろう。そんな子供を人目につかせるな!』と。

初めて見る男だ。

男の声に聞き覚えはない。

その男が、オレを穢れた物であるように見ていたのをオレも見ていた。

畏れと穢れを見るその目を見たオレは、この館においてと、この世界においてのオレの立ち位置を、はっきり理解した。

オレは、此処の人々に見られてはいけない、そしていつまでも此処には居られないと。


それ以来、オレは館の他の者に会わないように、十分に気を付けている。

裏山の森であれば、オレが居ても、人の目につく事は無い。

それに、館の蔵書部屋に、何代前かの当主の日記に書かれていた、裏山の向こう側の岩壁には、掘り出せる金、それに岩塩があると。

だから、部屋から出たオレは、裏山の森、裏山の向こう側に行く。なるべく、早く戻るようにはしている。

それは、ルミナとエレナが、オレの心配をして、良い顔をしないからだ。


上衣は濃い緑色の長袖で、前を重ね合わせて脇で留める、飾りのない物。下はうす茶の厚い生地のズボン。足は灰色の靴下に皮の草履。従者の格好だ。

首から顔の大きさの赤い巾着をぶら下げる。巾着は母に頼んで作って貰った。


裏山に入ったオレは、その山の反対側の岩場に向かう。 

森の中、人に見られない辺りから能力を出す。能力で座布団を浮かせ、その浮かせた座布団に乗って登る。時間はそれ程かからない。

なお、途中から道の無い、森が茂る山は、大人の足でも、頂上まで相当な時間が掛るはずだ。


この裏山の頂上の、向側三分の一から下が、山肌の露出した岩壁となっている。

その下の岩場からは、日記にあったように、岩塩、それに金が産出するのを確認した。

更に、魔石も存在している事に気が付いた。。


岩壁や岩壁の下の岩場には普通の人は行けない。座布団に乗って上り降り出来るオレは行くことが出来る。

山の頂から岩場側はアクト家は領地を主張していない。で、採掘に問題は無い。

この世界では塩や砂糖は貴重だ。純度の高い塩や砂糖は更に高額な値で取引される。


能力を使い、土を圧縮して壷を作り、蓋として枯木を加工する。岩塩を掘削し塩を抽出、精製する。精製した塩を壺に入れる。オレの精製する塩は純度が高い。混ざりものは無い。

それと、金だ。金を能力で抽出精製し、金棒にする。


そして、魔石だ。

魔石は死んだ魔物が石化したもの。岩盤の奥深くに埋まっている。

魔石は魔力の少ない人が魔力を補えるが、魔石にそれ程の魔力は無い。しかし、魔石の魔力が枯渇しても、魔石が割れない限り、何時も人の能力で魔力を貯めることが出来る。

岩盤の奥深くから掘り出すのは、中々に大変な作業だ。能力を使って、慎重に時間を掛けて丁寧に掘り出す。

この作業全てを、館の能力の使い方の書本で知った。

因みに、今のこの世界に魔物は居ない。


森の中で、根に糖分を溜めると言われる植物も見つけた。

その植物の事は館の書本で知ったわけでは無い。人に聞かれても、ただ知っていたと言うしかない。

その植物の根の糖分を抽出、精製し、砂糖を作る事もした。勿論、品質は良い。


オレは魔石袋も作っている。

母に作ってもらった巾着に能力・気を染み渡らせて、気で閉じた空間を袋の中に作る。そこに、オレの気を入れた魔石を嵌め、気を循環させ、空間を保持する。

気の強さで空間の広さが決まる。気で閉じた空間では時間は経過しない。

ここで造ったものは、全て、魔石袋の巾着に入れ保管している。


これを売れば、オレと母は十分に暮らしていける。

・・・知られる前に対処 ・・・

この言葉が忘れられない。蔵書は全て読んだ。能力も相当に使えるはずだ。金も出来た。いつでも出て行ける。


オレは、もう数日で三歳になる。

そんな時、母は硬い表情で部屋に入ってきた。

オレを抱き締めながら、

『ジオの父が亡くなったの。明日、このアクトの地を出てノルデノルンの地へ向かうわ。』と母が言う。

・・・ノルデノルン・・・

母の顔を覗く。母の顔は硬く、何かを思い詰めている。質問はやめた。


一話 アクトの館 完



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