救いの手は、雪の温度
「よく耐えた」
その声は、背後から。声は凛とした深い美声。
まぶたをひらくと、少年の腹に誰かの足がめり込む瞬間がうつった。その衝撃に、少年は軽々と吹き飛ばされてしまう。だが、竹琉は巻き込まれることはなかった。
あらたな声の主に、うしろ襟首をつかまれていたからだ。
誰? 顔をあげようとすると襟首から手がはなれ、すばやく右手首をつかまれた。無言のまま引っぱられ、走り出される。強引な救済にぬけきった腰も驚いて、むりやり立ち上がらされ、走らされる。
速い。速すぎる。足がガクガクして走りづらいのに、低身長の竹琉と大人のその人では、足の長さが違いすぎる。こけたら、ふりまわされんじゃないか。そんな恐怖すらあった。
『待ちやがれぇええええっ!!』
背中に叩きつけられるような怒鳴り声。ふりかえろうとしたときだった。
「見るな」
凛とした声に制止された。だから、声の主を見上げる。
彼の背中は、夜の闇のように真っ黒だ。髪も、裾が膝下まであるロングコートも。長い足を包むジーンズも。
すべて真っ黒。
けれど、つかんでいる手は、雪のように白く、冷たかった。
『竹琉ぅううっ!!』
怒りながらも、すがりつくような声が追いかけてきた。
竹琉は右手で右耳をふさいだ。
待て。逃げるな。罰を受けろ。
くりかえし言葉で責められる。追いかけてくる足音は聞こえない。だから、遠く離れているはずだ。
なのに、声は耳元で言われているように近かった。
もういやだ。
体がすごく重い。それから、数歩も走らないうちに、石畳の隙間に足をつっかけた。
「……あれ?」
石畳に体を打ちつけたはず。なのに、痛くない。ただ冷たいものにつつまれた。
「どうした?」
ふりかかる声も見おろしてくる顔も、霞がかかっているように曖昧だ。じわりじわりと視界が黒に染まっていく。
目をつむったら、この人は消えて、またひとりぼっちになってしまうのだろうか。
いやだ。
人影に向かって、手をのばす。
「……ひとりぼっちは、いやです。ひとりに、しないで、ください」
のばした手が冷たい手に包まれた。ほっとしたと同時に、竹琉の体が、またどこかに落ちていくのを感じた。
このころって鬼滅の刃、やってたかな。
私、アニメからはいったので余計に分からない。