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ここは夜の星の国
18/19

いったいここはどこですか?

 部屋が、なくなって、できている。

 暗くてよくみえないが、あの木がむき出しだった部屋ではないことは確かだった。

 癒馬が一歩部屋に入ると、レトロなブラケットライトがつく。

 やっぱり。

 竹琉はそっと息をのんだ。

 玄関がある。

 明るい灰色の石でできた三和土たたき、右横には靴箱と棚、玄関と奥の部屋をつなぐ細く短い廊下。

 癒馬に靴を脱がせてもらい、廊下をすすんでもらう。ふすまを開けると、天井のランプがまた自動的に灯った。

 古き良き時代の居間といったところか。

 新しい畳のいい香りがした。居間の中心にはこたつ、向かって左の壁には戸棚がある。右の方には台所への入り口。その隣には不透明なガラスがはめられた格子戸があった。

「改装なしの一人部屋ってこんな感じだったっけな。久しぶりだなー。せますぎ」

「とうぶん、僕一人が使うのだとしたら十分です。むしろ、広すぎるくらいですよ」

 竹琉は台所の隣にある扉を指差した。

「あのしまっているドアは、どこに続いているんですか?」

「洗面所兼脱衣所、風呂があるよ。大昔は共同浴場なんてのもあったんだけど、いろんな体を持ってるやつがくるんで廃止したんだってさ」

「いろんな、体?」

「たとえば、あったかいお湯にとける体なら冷たくしないといけないし、羽根のある者なら水位を低くしないといけないってこと。キリがないだろ?」

 でも、もうちょっと早く来てくれれば竹琉と一緒に……、と心底残念そうな癒馬。竹琉は苦笑いする。癒馬の背後に立つ、蒼磨の目がかなり怖い。そのことは本人には報告しないことにした。

 ふすまをへだてた奥の部屋は窓からの光で、藍色に染まっていた。

 そこにあるのは、みるからにふかふかの布団がしかれたベッド、シンプルな作りの机、机のわきに本棚と箪笥たんすが並んでいた。

(記憶をうつされたんでしょうか)

 その部屋は、一週間前まで住んでいた家の、竹琉の部屋と同じ間取りだった。

「竹琉、今度、オレが家具作ってやるな。内装自体は思いつきで好き勝手に変えられんだけど、持ち込んだ家具はそれに影響されねぇんだ」

「癒馬」

「うっせ、だまれ」

 蒼磨は不服そうに眉を寄せた。

「竹琉、あの部屋にあったカウチソファ、どうだった?」

 頭にパッと浮かんだのは、蒼磨が座り、竹琉が寝かされていた、カウチソファ。

 西洋のお城にでもおいてあるような、ものすごく豪奢ものだった。背もたれは、ウォールナット色の木の枠にサザンカの彫刻が彫られている。体をあずけている部分は濃い緑色で手ざわりが良く、いつまでも座っていたくなるくらいフカフカだった。

「すごく素敵でしたし、好きです」

「そっか。じゃあ、そういうの作ろーかなー」

「え? あれって」

「オレが作ったんだよ」

 あれを? もしかして、ひとりで?

「すごいですね」

 竹琉がそういうと、癒馬はとろけるような微笑みを浮かべた。

 ベッドに一度おろしてもらう。

 竹琉は、ベットに体をあずけた瞬間、寝転がりそうになった。

 力が、はいらない。強烈な睡魔。ついでに、ものすごい空腹感。先ほど、ワッフルを食べたばかりなのに、もう消化してしまったかのだろうか。そんなに食いしん坊ではなかったはずだが。

 風が窓をたたく。

 ――外はどうなっているんでしょう。

 立ち上がろうとすると、また癒馬がささえてくれた。彼と窓の枠にすがるように立ち、窓の外を見た。

 長い、ため息をついた。

 一瞬、絵画かと思うような風景だ。

 幻荘はすこし高い丘の上に建っていた。だから、清庭草原とおなじように全体を見まわすことができる。

 幻荘をかこむ竹林が落葉樹に変わっていく境目も、星をうつす大きな湖も、長い川も、その果てにある海も見えた。

 森のなかには、鬼灯ほおずき形の山があった。たまに虹色の光が下から上に駆けめぐる。生き物だとしたら、かなり不気味だ。

 けれど、何よりも心奪われるのは、満天にちりばめられた星だ。 

 黒い絹の上にダイヤモンドやルビー、アクアマリンをちりばめたかのよう。今までみたことがないほどの、星の数だった。

「ここは、どこですか? 日本ですか?」

 あらためて、聞いてみる。

月読命つきよみのみことがあらたに創り、統治しているよる食国おすくにだ。

 ここは夜深夜ともう一柱の自然神がおさめている『稲穂いなほ海地区うみちく』という場所だ」

 答えてくれたのは蒼磨だった。

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