幻荘探訪 玄関ロビー編
長くつきでた庇の奥に、両開きの扉があった。扉の両脇には、ブーケのようなランプがついており、玄関を淡い琥珀色に染めている。
「さぁ、どうぞ」
夜空の模様のガラスがはめられた扉を夜深夜があけてくれた。
はいった瞬間、蜂蜜色の光と木の香りにつつまれた。
なんというか、凝縮されたロビーだ。
まず目に入ったのは、寄木細工の床。
暗い茶色がメインで、そのなかにメープルとマホガニーのうずまき模様、色が微妙に違うアイボリーの木を組み合わせた星が輝いている。
竹琉は無意識にため息をついた。
「すごいでしょう? このロビーは幻荘の名物のひとつなの」
竹琉は夜深夜の方を見て、何度もうなづく。
天井に吊り下げた巨大な照明も寄木細工でできていた。
なんとも不思議な模様、幾何学的な形。
木でできているから、燃えやしないかと心配になったけれど、淡い明りを灯しているのは硝子の小瓶。火でなければ、電灯でもない。不思議な気配のする光に照らされて、ロビー全体が独特の蜂蜜色に輝いていた。
なんなく、『大人のための隠れ家』という雰囲気だ。
「部屋はどこにしたんだ? ドアつけるの手伝ってやんよ」
「実はまだ、竹琉のドアとホシガメを見かけていないのよね」
「は? ドアはともかくホシガメは届いてんだろ。竹琉のためにオレが探してやるよ」
夜深夜と癒馬は正面奥にあるカウンターの内側に入った。内側にはふたつのドアとキーボックスにしては大きい棚があった。二人は棚を開けて『ドア』と『ホシガメ』を探している。
「まったく……いつかは癒馬に見つかると思っていたけど、初日で見つかるとは思わなかったわ」
「オレと竹琉はつながりあう運命なんだなぁ。夜深夜の算段じゃあ引きはなすことは不可能みたいだぜ?」
「やめてよ、それ。今後のことを考えると、ものすごく頭が痛くなるわ」
「オレは頭が冴えて冴えて仕方がねぇや」
探し物はしばらくかかる様子。
他には誰もいないので、竹琉はロビーをうろついてみた。蒼磨がついてきてくれたので、ダメだったら彼が止めてくれるだろう。
カウンターの右通路は、暗い。なにがあるか、さっぱりわからないほど。
「そっちはお客様用のエレベーターがあるから、奥にいくのは遠慮してね。まぁ、今日はお休みだから動きはしないけど」
カウンターから夜深夜に注意された。
言われなくても、行かなかったと思う。いまは暗黒の空間に抵抗がある。たとえ、隣に蒼磨がいる状態でもだ。
ロビーの中心に戻る。
エントランスの両脇には、雲をまとう月が彫刻された、小さなテーブルがあった。その上にはあり得ないものが生けられていた。
真っ青な薔薇。
一輪を撫でてみると、生花特有のみずみずしいやわらかさを感じた。
(青い薔薇はこの世に生まれることはないもの。だから、花言葉は『不可能』なんですよね)
いま、世間で流通している青い薔薇は薄い紫色だ。真っ青だとしても、それは染色したもの。そう花屋の人に聞いたことがある。
「この薔薇は、本物ですか?」
「癒馬にしかわからない」
癒馬をみると、彼は夜深夜とともに探しもの中。その様子は、一生懸命だ。
「僕のために今忙しそうですから、本物だと思うことにします」
「そうか」
飾り気のない反応に、竹琉はわらった。
ごとん
重い音に体がふるえる。ふりかえるとロビーの中央に重々しいドアがたっていた。
「あー!」
癒馬がカウンターから身をのりだす。
「おい、夜深夜。いま届いたみたいだぞ!?」
カウンターの内側にある扉から、夜深夜は顔を出す。
「あら、本当? なにも言わずにおいていったの? 火司和ったら、本当にひねくれもの」
癒馬は目をみひらいた。そのあと、竹琉を憐れむような目で見てくる。
「うわ、儀式したの火司和? 竹琉、カワイソー。今夜は怖くて眠れねぇんじゃね? 添い寝してやろうっかあいっでぇえ!」
癒馬の頭に蒼磨と夜深夜の鉄拳がとんだ。




