白銀色の少女?
髪がさらさらと音を立てて肩に流れる。
おもわず、腕の盾を解放してしまった。
ものすごい美少女だ。
蒼磨が夜の闇でできているようだ、とたとえるなら、この人は星の光でできているよう。
まず目に入るのは銀色に煌めく髪。癖がまったくなく、水が流れるように素直にまっすぐ伸びている。呼吸するたびに髪が服や肌にこすれ、さらさらと爽やかな音がきこえる。肌の色はほんのり薄紅がかった白。見ているだけで柔らかそうなふっくらとした唇。驚きでまん丸になった瞳の色は瑠璃色だ。まばたきをするたびに淡い緑色の光が揺らめく。
瞳の色のせいで外国人だとおもいきや、顔つきは日本人に近い。そのせいなのか、すこしおさなげに見えた。
たしかに蒼磨と彼女にくらべたら、竹琉など拳がめり込んだような顔だろう。
「感じた」
美少女が呟いた。ふたたび、覆いかぶさるように顔を近づけ、百合の花のような右手が、竹琉の頬をやんわりとなでた。
「い、怒りをですか? 空腹をですか?」
「うんにゃ、運命」
青い瞳が柔和に細まり、青緑色のきらめきが揺らぐ。純粋で激甘の、蠱惑的な微笑み。
腰のあたりがぞくっとしたものが駆け上がってきた。通り過ぎると、力が抜ける。
こうして魅了されて、食べられてしまうのだろうか。
怖い。けれど、あっという間なら、美しい彼女なら、いいかなと思った。視線を合わせるのが恥ずかしくて、視線を落とす。
ぎょっとしてしまった。
魔法使いが着るような黒いケープの下。その下にきた服は、彼女の華奢な体にあっていなかった。襟まわりがものすごく広い。ケープで押さえられているものの、前のめりになると、その白い胸が丸見えに近くなる。
竹琉は顔を真っ赤にした。
彼女の襟をつかみ、くっきりとした鎖骨におしつけた。
「む、胸が、見えますよ! 女の人なのに! はしたないです!」
「は?」
美少女は微笑のまま、動かなくなってしまった。
「おん……な? オ、レのこと?」
空気が一気に冷えた気がする。
「女、か」
そう言ったのは、いつのまにか彼女の背後に立っていた裏切り者、もとい蒼磨だった。蒼磨は目を伏せ、こぶしを口もとに当てていた。その肩はぶるぶるとふるえている。
もしかして、笑っている?
なぜ笑われているのだろう。首をかしげた瞬間、両肩をがしっと掴まれた。
ゆっくりと体を起こされ、美少女の顔が至近距離にくる。
彼女は竹琉と目が合うと優しいほほえみをうかべた。
怒っている。
初対面の竹琉でもわかる。彼女はものすごく怒っている。怒っているのを必死になって抑えこんでいる。
「オレの名前は森繁 癒馬。
角なしだけど一角獣。
性別は男。生まれながらの男。もう一度いっとくな? 生まれながらの男だよ!」
覚えておこうな! と、力強く言われ、竹琉は無言で何度もうなづいた。
頭の中で引っかかるのは『角なしだけど一角馬』のところ。
ユニコーンというのはバンドかなにかの名前だろうか。
――違う。
この人たちは、ごく自然にそういった。
彼らは、本当の――?
「んで、君の名前は?」
「……緒環 竹琉です」
緒環、と癒馬は表情をこわばらせた。背後に立つ蒼磨を見上げる。蒼磨は彼の顔をみながら、うなづいただけ。癒馬はほっと息をつくとふたたび、表情をゆるませた。
「いい名前だなぁ。竹琉、竹琉、竹琉」
「はい。はい。はい。なんでしょう」
「よんでみただけー」
うへへへ、ごめんなーと鼻の下をのばしながら言う。せっかくの美少女……美少年がもったいない。
危険は、感じない。
蒼磨は彼に竹琉を『見せない』のが目的だったようだ。癒馬と竹琉のことを見つめたまま優雅に卵焼きを食べつづけている。
癒馬の体がどかれ、腕を引っぱられた。立ち上がらせてもらうと、蒼磨と癒馬を見上げる。
二人は並んでいると、まさに、星の夜。
人の形を得て、降りてきた夜と星の神のよう。それくらい美しく幻想的だった。
「幻荘の中にはいろうぜ? 蒼磨みたいに全身が冷えちまうよ」
「え、げんそう……? ここって」
強い風が吹いた。瑠璃唐草の花びらが舞う。
からんころん
風の音のなか。竹がぶつかり合う音が混じった。
「あぁ、癒馬にだけは見つからないように頼んだのに」




