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ここは夜の星の国
12/19

拳を叩きつけられて陥没したような顔

 ふと、思う。

「蒼磨さんは、どうして、あの場所にこれたんですか?」

 あの場所に来れて出れたということは、彼も『不思議』を知っている。しかも、助けに来てくれたということは、両親よりも知識がある人ということ。

 蒼磨はバタークッキーをほおばりながら、視線を竹琉にむけた。

「俺が天叢雲剣だからだ」

 意味がわからない答えがきた。わからなすぎて『そうですか』とは答えられない。

 唾をのむ。

 あえて、避けた質問をすることにした。

「もしかして、蒼磨さんは」

 上の方から、扉がひらく音がした。瞬間、無表情だった蒼磨の顔に焦りがあらわれた。

 どうしたのだろう。

 竹琉が階段の上をのぞきこもうとした瞬間、視界はクリーム色にさえぎられた。先ほどまでかけられていたブランケットだ。

「そ、蒼磨さん?」

「声を出すな」

 金属音の後、皮がこすれた音が首もとで聞こえた。首のあたりにやんわりとなにかが巻きついている感触。おそらく、彼が胴に巻いていたベルトだ。

「今から喋るな。なるべく、身動きもするな。奴は危険だ。お前のことがあいつにばれると、とても良くないことがおきる」

 切羽つまった声でそう言われ、竹琉は身をこわばらせた。うなづくこともできず、無言で答えるしかなかった。

「んあ? 蒼磨、いたんか」

「ずいぶん早かったな。明日までかかるかと思っていた」

「やたらめったら遠くて、めちゃくちゃ厄介な依頼ばっかだったけど、日付かわるほどの時間はかかんねーよ。ついでにたりない薬草も収穫してきたし」

 蒼磨が小さく小さく舌打ちをした。

 新しい人物の声は中性的だ。男性の声にも女性の声にも聞こえる。はっきり判断ができない。

 蒼磨の名前を呼んだから、知り合いなのだろうか? ならば、危険ではないのでは。

「んでも、さすがに疲れたー、酒、酒ぇ」

 視界がふさがれているから、聞き耳をたてる。

 どさっと大きな荷物を床に置く音。かるい足音。なにかを開け、瓶と瓶がぶつかり合う音。喉が飲み物が通る音。

「めっちゃうまぁ……さすがオレが作ったブルーベリー酒! どんなにでっかい瓶で作ってもすぐ無くなっちまうんだよなぁああ。もっと増やしてーけど、梅酒も、金柑酒も、リンゴ酒もあるしなー……そういや、お前も依頼あったじゃん。ちゃんとすませたか?」

「依頼達成の証拠がここにいる」

 あっそ、と興味がなさそうな声。足音が近づいてくる。

「なぁ、お前、こんなとこにいてもいいのか? とって食っちまうぞぉ? げへへ」

 とって食っちまう。

 その単語に竹琉は凍りついた。

 この人は、人を食べる人なのだろうか。こわばる竹琉の頭に冷たい手がのった。

「なにも知らない者だ。すこし話かけてみたが話せないようだ。話しかけても、なんの反応も帰ってこない」

「はーん、で、なんでブランケットかけてんだよ」

「あまりに醜いからだ。こぶしをたたきつけられて陥没したような醜い顔をしている」

 えええええええ。

 竹琉は心の中で絶望の声を上げた。

 ものすごくショックだ。蒼磨の目にはそんな風に見えていたのだろうか。たしかに顔は蒼磨と比べたら、とんでもない不細工だろう。でも、ひどすぎる。犬にたとえられる方がまだやさしいと思えるくらいだ。

「そっかそっか。整形なら最近、作った物が効くかも。見せてみなよ」

 頭にあたたかい手がのった。瞬間、バチンと手が弾かれる音が響く。

「いってぇええ……なにすんだよ!!」

「必要ない」

「必要だろ。容姿に無頓着なお前が隠すくらいのひどさなら、生き辛いに決まってら。離れる前に綺麗にしてやった方がいいだろ」

「必要ない」

 カウチソファから腰を上げる気配。蒼磨の冷気が竹琉に近づいた気がした。そう感じたらあっという間だった。膝の裏と背中に腕が差し込まれ、竹琉の体が浮いた。見えなくてもわかる。これはいわゆる、お姫様抱っこだ。体が密着している左半身がベルトにあたって痛い。

「どこに行くんだよ」

「依頼主である夜深夜のところに決まっている」

 夜深夜。知っている名前に、竹琉は視線を上げた。

 考えてみれば、知らない人に家にきて、食べ物を与えられていたのだ。不思議な体験のせいで、すっかり失念していた。普段なら危険な行為だった。いや、夜深夜自身もやばいかもしれないが。

「ちょっと待て」

 今まで明るかった危険人物の声が低くなる。

「いま、オレん中にある本能がすっげーうずいてる。まさか、その子は」

「女だ」

 蒼磨が呟いた瞬間、ものすごい風がふいた。蒼磨が走っているということに気が付いたのは、しばらくたってから。

 うしろからは人が追いかけてくるすさまじい足音が聞こえた。

「まちやがれぇぇえええっ!!」

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