夜闇色の青年
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まぶたをひらくと、視界がせまかった。
狭い視界のなかでとらえたのは、橙色の光がこぼれるランプ。光が弱すぎるのか。天井は影に隠れていた。
竹琉は、視界の違和感に顔をしかめた。
もっと情報がほしいのに、この狭さが嫌だった。
確認のため、片目ずつ、つむってみる。
左目を閉じると変わらない。右目を閉じると真っ黒。
なにかが竹琉の頭をおさえている。それはとても固くて、とても冷たいものだ。氷だろうか。その感覚は、竹琉の後頭部にもあった。きっと陶器の枕だろう。百貨店で見たことがある。
視界が狭いこと以外、どちらにも不快感はなかった。顔全体も後頭部も、ひんやりとしていて、気持ちがいい。竹琉はふたたびウトウトしはじめた。
「起きたか」
凛とした声に、眠気がふっとぶ。顔はおさえられて動かせないので視線を動かす。見つける前に、声の主は視界に入ってきた。
目を見開く。
「なぜ、喋らない? 話せないのか? 寝ぼけているのか? それとも、俺のことを知っていて恐れているのか?」
疑問符だらけの言葉に、竹琉はすこし笑ってしまった。
するどい声音の中に、どこか優しさと不安を感じる。彼は言葉で攻撃してこない。バカにしない。強制しない。それだけで、ひどく安心した。
「おそれてなんていませんよ。起きあがれないから、これをどけてくれませんか?」
言うと、冷たく大きなものが竹琉の顔から引いた。また、おどろく。竹琉の顔をおおっていたのは、彼の手だった。頭をのせていたのは彼の膝。
(ひ、膝枕って……!)
めっちゃくちゃはずかしい。顔に熱が集中しないうちに、勢いよく起きあがった。ぐわんと頭の中と視界が歪む。
「いきおいよくおきるのはよくない」
「そ、そうですね」
ふらふらする頭をおさえながら、ふりかえる。両目で彼の姿をとらえると、胸が高鳴った。
――なんて、綺麗な人だろう。
この言葉は女の人のための褒め言葉なのかもしれない。けれど、そう称えずにはいられない。
夜の闇でできているような美青年。
ボサボサなのがもったいない、艶やかな黒髪。雪を思わせる、生気を感じさせない白い肌。女性でもうらやむであろう、小さな顔。目じりがほんのすこしつりあがった、するどい目つきをしており、黒い瞳には小さな星が散らばっていた。高い鼻も、引きむすんだ口も、どれも形がいい。まるで彼の体を構成するすべてのパーツは、神さまが直接つくったかのように完璧だった。
そんな彼が着ている服は、すこしかわっている。漆黒のロングコートに、胸から腰にかけて8本のベルトが巻かれていた。
腕や足は自由だが、なんとなく、拘束衣をおもわせた。
(こういうの、厨二病って言うんでしたっけ)
魔法の世界にいる人が着ているような服。奇抜だが、彼によく似合ってる。
彼が座り、竹琉が寝かせられていたカウチソファのそばに、竹琉の靴を見つけた。履こうとすると、かけられていたブランケットの存在にはじめて気がついた。
(この方にいっぱい迷惑をかけてしまいました)
彼にたいしてできるだけ真正面を向けるよう、座りなおす。ふたたび、夜空色の瞳と見つめあった。
「お世話をしてくれて、ありがとうございました。迷惑をかけてごめ」
「礼は受け取るが、謝罪はいらない。俺は迷惑とは思わなかったからな」
言葉の意味を理解すると、笑顔になる。
「では、あらためまして、ありがとうございます。初めまして、僕は緒環 竹琉です」
「黄昏だな。俺の名前は、草薙 蒼磨。天叢雲剣だ」




