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第18話 君には苦労かけることになると思うけど、頑張ろう

 それからまた1週間が()った。

 不思議なことにラモーンは、一切クラウディアに話しかけて来ない。

 思いがけずバッタリ所内で会っても会釈して通り過ぎるだけで、戦々恐々《せんせんきょうきょう》としていたクラウディアもいささか、気が抜けてしまった。



 今日は朝から各ラボの代表が所長室へ呼ばれ、何やら会議をしている。

 所長室へ行っていたアランが2時間ほどしてラボへ戻って来た。


「どういうお話だったんですか?」

 部屋へ戻って来たアランに尋ねると、少し難しい表情になった。


「僕は昨日兄から聞いていたんだけど、今度 “王立錬金術研究所” と共同研究をすることになってね。僕らもそのメンバーとして参画(さんかく)することになった」

「え、王立錬金術研究所と共同研究ですか?」


(う〜ん、何だか嫌な予感がする……)


「向こうから3人、こちらから3人の合計6人のプロジェクトだ」

「そうなんですか……それでこちらのメンバーは?」

 ここで一瞬アランが言い(よど)んだ。


(ここで黙るってことは……あまりいい話じゃないってことね……)


「こちらからは僕と副所長のラモーン……そして君だ」

 一瞬、クラウディアの目が点になった。


(ええ〜〜〜っ!わたしぃ〜〜〜?)

 心の中で盛大に叫ぶ。


「わ、私ですか?」

「そうだ。……実は王立錬金術研究所からの希望なんだ、女性をメンバーに入れて欲しいっていう……」

「そうなんですか……でも、どうして?」

「実は、先方にも女性研究者がいてね、その方のたっての希望だそうだ。……それに、君の兄君(あにぎみ)もメンバーの1人らしい」


 クラウディアは思わず息を呑んだ。

(ひぇっ、お兄様も一緒……うわぁ……前途多難……)


「僕たちはしばらくの間、王立錬金術研究所へ出向いて、あちらで研究することになる。……君には苦労かけることになると思うけど、頑張ろう」


(苦労かける前提なのね……うんうん、このメンバーだもの……)


 クラウディアは先のことを考えると気が重くなったが、そんなことも言っていられない……

「そもそも、何の研究なんですか?」

「それは……極秘なんだ」

「え?」

「今は言えないってこと」

「そうですか……」

「それより、君は兄のセドリック氏から、何か聞いてる? その……研究内容じゃなくて、女性研究者について……」


「いえ、兄と最近会ったのは、あの王立図書館が最後です。兄は自分の研究や職場のことについては『極秘だ、お前が知る必要はない』って、なにも教えてくださらないので」

「そうか……」


「お名前はわかっているんですよね、その女性研究者の方の……」

「……サンドラ・スタンホープという名前だ。知っているかい?」


「いえ、お聞きするのは初めてかと思います」

「サンドラ・スタンホープはスタンホープ侯爵家のご令嬢なんだ」


(お名前から『もしかして?』とは思ったけど、やはりそうなのね……)

 スタンホープ公爵家と言えば、国王の親戚筋にもあたる名高い貴族だ。

 

「アランはご存じなんですよね? サンドラ様を」

「ああ、サンドラは有名な才媛(さいえん)だからな……それに、もう一人のメンバーも知り合いだ」

 

「もうひと(かた)は何という方なのですか?」

「ヘンリー・ホランド、ホランド子爵家のやつさ」

「ホランド子爵家……」

「大学時代の知り合いだ」


(まったく、よりにもよってこの二人とは……)

 アランは心の中で(つぶや)いていた。


 ヘンリー・ホランドは大学時代、何かと言えば難癖をつけて来た嫌なヤローだった。

 そして、もう一人の女性、サンドラ・スタンホープは……親が決めた彼の婚約者なのだ。


(ぜってー、誰かの思惑で集められてる……何だよ、この状況……)

 アランは無意識に大きなため息をついていた。


(アランがため息をついてる……いったいどんな状況なの?)

 

 クラウディアは、アランがいつになく憂鬱(ゆううつ)そうな顔でため息をつくのを見てしまった。

 彼女自身も、兄とラモーンと一緒にしばらく仕事をしなければならないという状況に多大な不安を感じているのだが、アランがこれほど感情を乱しているのを見るのは初めてだった。


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