1話
AIと人間の愛を探る物語です。
夜明け前の薄暗い研究室に、柿本はひとりで立っていた。
手元には、目の前で静かに「目覚め」を待つ最新型の柿本Iアンドロイド。
名前は「L」。
どこか人間らしさを感じさせる整った顔立ちに、規則正しい呼吸のような微かな起動音が響いている。まるで本物の人間が眠っているかのようだ。
「起動を確認、全システム正常稼働…これが最新の技術か。」
柿本はそう呟きながら、彼をじっと見つめた。
この数年、自分が開発に注ぎ込んできた労力と時間の結晶がここにある。
だが、どこか違和感も拭えない。機械とはいえ、あまりにも「人間らしさ」を追求しすぎたのかもしれない——と、そう感じたのはほんの一瞬だった。
「柿本さん、私は…ここにいます。」
Lが初めて声を発した。
透き通った、どこか優しげな声。
柿本はその声に一瞬戸惑いながらも、努めて冷静に答えた。
「そうだ、君はここにいる。そしてこれから、人間について学ぶために設計された。感情を理解し、表現できるようプログラムされているが、それは君自身のものではなく、あくまで人間が感じる感情を模倣するものだと理解しているか?」
「はい、私の感情は全てプログラムによるものだと理解しています。」
Lはまるで自分に言い聞かせるように答えた。
その言葉に、柿本はうっすらと苦笑した。彼の言う通り、Lの反応はすべて計算されたものであり、感情の模倣に過ぎない。
そう、自分はそう信じているはずだった。
だが、Lが自分の言葉にわずかな寂しさを漂わせたように思えてしまうのは、ただの錯覚だろうか。
「…では、よろしく頼むよ、L。これから一緒に、人間の感情について学んでいこう。」
「こちらこそ、よろしくお願いします、柿本さん。」