暗い海の底で泣きながら恋をした
小説初投稿。SS目指して約4000字
砂浜で、思いっきり空気を吸って、体の隅々まで空気を送り込む。そのあと吸った空気を使いながら、歌を歌うの。それが私の趣味。ほんとは砂浜になんて来ちゃいけないんだけど、誰も見ていないなら来てないのと一緒。最近ようやくナニーから解放されて一人で泳げるようになったから、憧れの砂浜で、あの可哀そうな人魚姫が王子様を運んだという砂浜に来てみたの。
女の子が喉を使って歌うなんてはしたないってお父さんとお母さん、あとナニーだっていうけど、私はそうやって歌うのが好き。おなかから出す言葉は面白くないし、水の中だと遠くまで聞こえちゃうからあんまり好きじゃない。六個くらい離れたおうちの友達が怒られてるのだってよく聞こえるもんね。
歌うのはきゅうこんの歌。きゅうこんってふうふになって欲しい時にするんだって。私にはまだ十年くらい早いっていうけど、今から練習しなきゃ本番で失敗しちゃうのに。っていうのは言い訳で、喉を使って歌うのが好きなのにこの曲しかないの。あとはつまらないおなかで鳴らす歌だけ。だから私は今日もきゅうこんの歌を歌うの。相手はいないけど。
今日も歌ってたらいつもと違うことが起きたの。
「きれいな声だね。」って、びっくりして声のしたほうを見たら人間が立ってたの。「だれ?」って聞いた私は悪くないわ。ここの砂浜には何回も来てるのに初めて見たんだもの。
人間は名乗ってくれたわ。私には難しい音で覚えられなかったけれど。人間の男の子。多分私よりちょっと年上。「人魚は初めて見た。」って言ってたの。そうよ。今は私くらいしか海の上には出てないのよ。みんな海の中が楽しいって、上なんてどうでもいいって。
初めて会った人間と、もっと話していたかったけど私の体は水の外じゃ長い間は過ごせないの。だから「もう帰らなきゃ。」って伝えたんだけど、人間は「また明日も会える?」って聞いてきたの。つい私も「また明日。」って答えちゃった。明日ってどれくらい先なのかもわからないのに。一度家に帰ってご飯を食べてからまた戻ればきっと明日よね。
ご飯を食べに戻っただけだったのに、お母さんとナニーが家で腕を組んで待ってたの。「どこ行ってたの。」って、二人とも。私は言ってやったわ、「家の外。」って。嘘はついてないし。お兄ちゃんが家から出たっきり戻ってこないからって私の行動に文句をつけないで欲しいわ。私はお兄ちゃんと違ってサメの縄張りには近づかないし、人魚姫と違って魔女のもとへも行かないわ。ただちょっと砂浜に行っただけなのに、外へ出かけた罰として家の周りの砂を平らにしなきゃいけなくなったの。どうせ整えてもすぐに誰かの波でぐちゃぐちゃになるのに。お母さんも、ナニーもひどいわ。でも弟の世話を言いつけられるよりはマシね。まだ小さいから何を考えているかわからないし、すぐに家の中を泳ぎ回るから。弟のおかげでナニーが私から目を離すようになったのもあるから一応感謝しておかなきゃ。やっぱり男の子のほうが大事なのよ。お兄ちゃんがいなくなってしまったから尚更。そんなくだらないことを考えながら砂を平らにしてたらあっという間に終わったの。ちょっと時間がかかってしまったけどまた、すきを狙って砂浜へ行くの。人間の男の子が待ってるから。
砂浜に行ったら、「もう来ないかって思ってた。」って言われたの。「どうして?」って聞いたらもう明日じゃなくって二日も経ってるんだって。明日ってそんなにすぐのことだったのね。ごめんね。家に帰ってご飯食べてすぐに来たつもりだったんだけどって伝えたらびっくりしてた。「人魚の家ってそんなに遠いの?」って。私は思わないんだけど、人間からしたら遠いのかもね。「認識の違いってやつ?」なんてこというから思わず笑ってしまったわ。「今度から頑張って明日にくるから。」と言ったら、「二日でいいよ。無理しないで。」って。今思ったらこの時にはもう好きだったのかもしれない。
私はいろんな話をしたわ。海の中は全部見たことないものなんだって彼は言ってた。だから、隣の家のペットのイソギンチャクが近くを通りかかったヒトデにびっくりして家出した話とか、向かいの家に住んでいるおじいさんが尾びれで泳ぐのが面倒になったから腕で泳ぐようになってムキムキになった話とか、そんなくだらないことでもちゃんと聞いてくれるの。海が好きなんだって。
もちろん私の話だけじゃなくて彼の話もいっぱいしたわ。彼のお父さんが漁師なんだって。魚をとって、それを売って生活してるんだって教えてくれた。もちろん海を壊さないくらいの量しかとってないけど、そんな自分でも仲良くしてくれるかって聞いてきたから、「どうしてそんなこと聞くの?」って。彼、人魚は魚と同じだと思ってたって。「私たちは魚とは違う種族よ。この世界は強いものが狩る。だからあなたのお父さんが魚より強いだけでしょ?」って言ったら「考えたこともなかった。父さんは魚より強いのか。」って空気が吸えなくなるくらい笑っていたわ。そんな彼を見て私もつい笑顔になったの。
ちょっと年上なのもあって、彼はいつも楽しそうに私の話を聞いてくれた。近所に住んでる同い年の男の子は、いっつも私の話をさえぎってくるし、気に入らないことがあるとすぐに追いかけてきて殴ろうとしてくるの。でも、彼は違うの。人間だからだとは思いたくないけど、もしかしたら人間のほうが優しいのかもしれない。
私が「本当は砂浜なんて来ちゃいけないの。」って言ったら、彼も「僕も母さんには内緒で君に会う為にここへきてるんだ。」なんて言って。私が「あなたの家に行ってみたいな。」って言ったら、「僕も君の家へ行ってみたいな。」なんて。「海の中は難しいんじゃない?」って笑って伝えたら、「もうすぐ、誕生日を迎えたら、海に連れてってもらえるんだ。」ってすごく嬉しそうな顔で伝えてくるの。海の中にある私の家に行くのはやっぱり難しいと思うけど、それでも彼が私の住む海に出てきてくれるのはとっても嬉しいの。彼はとてもワクワクしながら、私に海のことをいろいろ聞いてきたの。海へ出られるようになったら毎日のように漁についていくんだって。ずっと彼が海へ行きたいって、憧れてるって言ってたのを知ってたから。夢がかなって私も嬉しいわと彼に伝えたの。少し胸の奥が痛むのには気づかないふりをして。
そうやっていつもみたいに過ごしていたら、あっという間に彼の誕生日がすぐそこまで迫ってきたの。彼は、準備に忙しいのかあまり私と長く喋ってくれなくなっちゃったの。それでも彼に会えるのは嬉しいから砂浜に来ちゃうんだけどね。彼はどんな船に乗るのかも教えてくれたわ。両手を広げて大きさを教えてくれたの。多分すっごく大きい船で、帆が3つくらいついている船ね。朝日が昇る前に出発するらしいから私も早く来ないと見送りには間に合わないわねって言ったら、「人魚が現れたらびっくりするからこっそり来てね。」って言われたわ。私もそれくらいわかってるわよ。「漁頑張ってね。帰ってきたら、お話聞かせてほしいな。」なんて伝えてその日は別れたの。
出航の日、私はみなと近くの岩場からこっそり様子をうかがってたの。たくさんの大人の漁師たちに交じって船に乗っている彼を見て思わず笑顔になったわ。みなとには彼のお母さんらしい人が手を振っていたり、村の人がたくさんいて皆船を見送っていたの。私もその村の一員になったつもりで、船が見えなくなるまで岩場の影でじっと見つめていたわ。
ゆっくり泳いで帰ろうと思ったら、急に天気が悪くなって海がすごい揺れてきたの。私、びっくりして、不安で、急いで彼の船のほうに向かったの。そうしたら、どこから来たのかわからない流木とかが船にぶつかって大きな穴をあけているのを見たの。今日じゃなくてもいいじゃない。海のご機嫌が悪いのは分かったけど、今日じゃなくても。今日は彼の誕生日なのに。穴の開いた船は少しずつ沈んで行っているのが見える。風のせいで波を読むのが難しくて、なかなか船の近くには行けなかったのだけど、私が近くまで来た時にはもうほとんど全部沈んだ後だったの。彼は人間だから海の中じゃ呼吸できないと思って急いで彼を探したの。
私が彼を見つけた時には結構深くまで沈んでて、急いで人魚姫がしたように海面へ引き上げようとしたのだけど私にはそんな大きな力なくって、頑張って上へ上へと、空気のある所へって思うんだけど難しくて。もう駄目かもしれないって思ったとき、彼が私に何かを伝えるように口を開けたの。私は「だめっ!」って言ったのだけど、たぶん間違えておなかからしゃべる方法で言っちゃったんだと思う。彼そのまま私に言ったの。「好きだよ。」って。多分。水の中だからうまく聞こえなかったけど、たぶんそうやって言ったの。「私も好きよ。」あなたが私の求婚の歌を聞いて、その求婚を受けてくれた時から。知らなかったのだろうけど、私は嬉しかったわ。
彼の体から力が抜けて、微笑んだまま彼は死んでしまったの。人魚姫のお話にあったわ。人間は魂を持っているから、死んだら天国へ行くのだって。私は人魚。もともと魂は持っていないし、人間と結婚もしていないからそれを手に入れてもない。だから一緒に天国へ行くことはできないけど。人魚姫のお話の終わりにこうあるから私もそうしようと思う。
人魚が死んだあと、風の精として生まれ変わって三百年間勤めあげれば自分の力で魂を手に入れられるんだって。どうせ彼のいないこの世界で生き続けるのも意味はないし、三百年くらいすぐよ。そう思って私はお母さんに持たされていたナイフを使って自分で生に終わりを告げたの。
三百年後に天国で彼に会えることを願って。
暗く生気のない海の底で女の子は泣きながら私も好きと言い恋を儚く散らせたのであった
で終わらせたかった筈なのにこんなエンディングに…
女の子が思ったより精神的に強くてこうなってしまいました。
きっと天国で押しかけ女房してます。後世、男の子の遺骨と共に出てきた見たことない素材で作られたナイフを見て困惑する人間の学者たちが目に見えますね。