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握手会で7時間並んだ先に見えた景色

作者: 佐和多 奏

 ナナセさん。

 おれが大好きなアイドル。

 そのナナセさんが、卒業を発表した。

 突然の卒業発表だった。

 おれは、暇さえあればナナセさんの動画をずーっと見ていた。

 そんな、ナナセさんに。

 会える。

 そんなイベントが。

 いや、ずっと開催されていた。

 握手会は、ずーっと開催されていた。

 ただ、避けてきただけ。

 なんとなく、握手会って。

 ガチ感があるから。

 避けていただけ。

 でも。

 卒業発表したってことは。

 これが最後のチャンス!


 おれは、並び始めた。

 すごい人だ。


 1時間経過。

 全く進んでいる感じがしない。

 2時間経過。

 3時間経過。

 はあ、はあ。

 TOEICの単語帳、もう一周しちゃったよ。

 4時間経過。

「こんにちは」

「こんにちは、疲れますね」

「本当に、ずーっと並んでると、疲れますよね」

 前に並んでいるお姉さんと仲良くなった。

「ナナセさんの握手会、楽しみですよね。私、友達と来ていて」

「そうなんですね」

 5時間経過。

「さっき、友達って言った人、実は彼氏なんですよね」

 衝撃の、カミングアウト。

 っていうか最初、なんで友達って言ったんだ。

 おれのことを、狙ってたのかな。

「そうなんだ!彼氏なんですね」

「そうなんですよね、彼氏は、マイナさんの握手に行ったんですけど、事故ったみたいです。」

「事故ったってなんですか?」

「話したいことが話せなかったっていう」

 それを、事故ったっていうのか。

 ていうか、この人、めっちゃ可愛くないか。

「あの、インスタ交換してもらってもいいですか」

「ああ、全然いいですよ」

 おれ達は、インスタを交換した。

 6時間経過。

「やばいやばい、あのテントの中には、ナナセさんが・・・・・・!」

「ついに来ましたね」

 やばいやばい。

 何を話そう。

 ついに、会える。

 毎日。

 毎日、動画で見たあのナナセさんに。

 7時間経過。

「何話すか決めましたか?私は決めました」

「うーん、まだ決められないです」

 荷物を置くところに、係員の女の人がいる。

 結構可愛い。

 ナナセさんも、おんなじくらい可愛いのかなぁ。

 握手券を渡す。

 やばいやばい。

 近づいてきた。



 あ。



 天使が、いる。




 ナナセさんが、遠くに見える。

 おれの手を、ナナセさんが握る。

 そして。




 目が、会う。



「か、可愛いですね」

「ありがとー」


 その瞬間。

 全身に、電撃が走った。

 頭がポワポワする。

 めっっっっっちゃくちゃ可愛い。

 なにあれ。

 顔めっちゃ白くて。

 顔めっちゃ小さくて。

 お目目綺麗で。

 ポニーテールで。

 姫毛は波打ち巻きで。

 茶髪で。

 衣装めっちゃ可愛くて。

 背、ちっちゃくて。

 何あの子。

 反則でしょ、あんなの。


 やばい。

 なんも考えられない。

 7時間が1分のように。


 ナナセさんとの2秒が、10時間のように。


 ああ。

 この世界は、ずーっと汚れて見えていたけれど。

 あんなに美しい人間がいたなんて。

 生まれてきて。

 よかった。

 ほんっっとうに、よかった。

 

 

恐れ入りますが、


・ブックマーク

・下段の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


いただけると幸いです!

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