シクラメン
彼氏が寝言で女の名前を呼んだ。
「美香」
彼は確かにそう呼んだ。
彼を起こして問い詰めた。
彼は言った。
「本当にごめん。昔付き合っていた人なんだけど、どうして自分でも名前を呼んだのかわからない」
私は激しい怒りと悲しみを覚えた。
眠れなくなった。
食事も固形物を摂取出来なくなった。
私は、美香がまだ彼氏と繋がっている可能性を感じた。
彼氏のすべてのSNSの投稿、フォロワーの女を調べた。
美香はいない。
彼氏が高校生の時に使っていたアカウントを発見した。
いた。
美香だ。
この女で間違いない。
この女が、過去に私の彼氏をたぶらかした。
許せない。
私と出会う前の彼を知っている女。
高校生の時の彼の考え方を知っている女。
高校生の時の彼の身体を知っている女。
高校生の時の彼を一番近くで見てきた女。
この女は、私の彼氏に「好き」や「愛している」と言われたのだろうか。
この女は、私の彼氏と手を繋いだりキスをしたのだろうか?それ以上のことはしたのだろうか?
怒りで気が狂いそうだ。
気づくと右指の爪を左腕の皮膚に食い込ませていた。
投稿を全て確認した。
2017年9月23日、オムライスの写真を投稿している。
きっとこのオムライスは、私の彼氏に作ったのだろう。
汚いオムライスだ。
すごく不味そうだ。
2017年5月17日、クラスマッチの写真を投稿している。
3枚目のピース写真、手元だけ撮ったものだ。
間違いない。この手は彼氏のものだ。
ふざけるな。
別れたのに何故写真を削除していない?
最新の投稿は、2018年4日16日だった。
今から5年前だ。
普通は使わなくなったアカウントでも、別れた相手の写真は消すだろ。
イカれた女だ。
きっとまだ未練があるのだろう。
この女は、現在彼氏が利用しているSNSのアカウントとは繋がっていない。
しかし、LINEはどうだろうか。
実はまだ彼氏と繋がっていて、再び私の彼氏をたぶらかすかもしれない。
その可能性は十分にあり得る。
左腕からは、血が流れている。
もしかしたら、私の喉の痛みも彼氏の元カノのせいかもしれない。
先週、私は彼氏と会った。
彼氏が住むアパートに泊まった。
身体を重ね愛し合った。
その2日後に、喉の痛みと発熱の症状が出た。
風邪だと思っていた。
しかし違った。
私の喉が痛むのは、彼氏の元カノのせいだ。
投稿を見て確信した。
別れた相手の写真も消さないイカれた女だ。
貞操◯念もイカれていたに違いない。
きっと彼氏の元カノが、私の彼氏に病気をうつして、それに私が感染したのだ。
私の怒りはピークに達していた。
涙が溢れ出る。
彼氏にLINEをした。
「あのさ美香のアカウント見つけて調べたよ。なんであんなイカれ女と付き合ってたの?写真消せよ。普通にきもいんだけど。元カノほんとに◯んでほしい」
既読はすぐについた。
しかし、いつまで経っても返信がこない。
私は机の上に置いてあった写真立てを床に叩きつけた。
不安な彼女を放置することは、彼氏としての責務を放棄していることになる。
その点についても厳しくわからせる必要がある。
私は追いLINEを送り続けた。
まだ返信がこない。
頭を掻きむしった。
髪の毛が、たくさん抜けた。
30分後、彼氏からLINEがきた。
「美香はもういないよ。5年前に◯くなったんだ」
指が止まった。
忘れられない女。
5年経っても夢にみる女。
特別な女。
私は激しく嫉妬した。
私にとって唯一無二の彼氏。
彼氏にとっては私は、◯くなった元カノの穴を埋める存在。
屈辱的だ。
彼からLINEがきた。
「ごめん。やっぱり美香が忘れられない。別れよう」
全身の力が抜けた。
絶望という言葉があるのは、私のためだった。
私を深く傷つけた彼氏が、私を捨てて逃げようとしている。
私は別れることを承諾していない。
二人の大切な約束を一方的に破り捨てることは許されない。
彼は大罪を犯した。
罪を犯した人間には罰が必要だ。
私はLINEを送った。
「今から行くから」