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6.聖堂

 翌日早朝。私は両親の眠る聖堂を訪れていた。

 祭壇の前にひざまずき、両親及びこれまで国を導いてきた偉大な王とその伴侶たちに祈りを捧げる。


 ひとしきり祈りを捧げた後、顔を上げると、聖堂の正面からステンドグラスごしに朝陽が差し込んでいた。

 青と白のガラスを中心に描かれるのは、導きの光を掲げる建国を宣言する初代国王の姿。この国の建国の一場面だ。グレイシス国の建国にまつわる話は、幼い頃から繰り返し聞かされてきた。


 かつて、魔術師は権力者の争いの道具として消費され、その数を減らしていった。

 同じく魔術師で、その時代でもっとも魔力を持っていた初代グレイシス国の王は、その現状を変えようと魔術師を人間扱いしない国に見切りをつけ、魔術師とその家族のための国を作った。だからこそ、守りやすく攻めにくいこの土地を選び、これ以上自分達が利用されないよう、他国との交流を最小限に抑えてきていた。建国の経緯により、この国では魔術師としての血統が重視され、魔力の維持に重きが置かれる。そうやって、グレイシス国は長い間続いてきていた。


(お父様は、ステファンとの婚姻で、何を成そうとされていたのですか――?)


 伝統に忠実に国を守ってきたお父様が、何度も請われたというだけで他国の王子と婚姻を許すとは思えない。そこには何か目的があったと思うべきだろう。

 実際にステファンと会話し、オルテンシア国の技術に少し触れただけで、彼の国の素晴らしさが伝わってくる。

 オルテンシア国は、純粋な魔術師は少ないが、錬金術と融合させることで近年の成長が著しいと聞いている。

 でも、その素晴らしさは、この国に必要なことだろうか。

 確かにオルゴールやチョコレートといった技術は素晴らしい。


 病床で、お父様はこの国の今後について何も話してくださることはなかった。

 今後、この国をどう導いていくのかは、私が考えるしかない。


(どうか、国にとって最善の選択ができるよう、お導きください)


 私は、もう一度祈りを捧げた。



 ふと扉が開く気配を感じて振り返ると、そこにはステファンの姿があった。

 ステンドグラス越しに差し込む朝日が、ステファンの金色の髪に反射し彼自身がきらめいているようにも見える。

 ステファンは私を見つけて驚いたように目を見開くと、すぐに笑みを浮かべた。


「まさか、こんなに朝早くにお会いできるとは、今日は朝から幸運に恵まれていようです。朝の光の中のシルヴィアは光の妖精のように儚げで、神秘的なお美しさですね。ご機嫌はいかがでしょうか」


 流れるように口にされる賛辞を聞き流し、私は気になったことを尋ねた。


「どうしてこちらに?」

「シルヴィのご両親がこちらで眠っておられると伺ったので、ご挨拶をと思って」

「それは、感謝します」


 私は、ステファンのために場所を開けた。


「もう、よろしいのですか?」

「ええ」


 頷き、ステファンのために場所を空けると、ステファンが進み出てひざまずく。私は、その姿を見守っていた。

 ひとしきり祈りを捧げた後、ステファンが立ち上がる。


「両親のために、ありがとうございました」

「礼を言われるようなことではありません。ところで、この後はご予定はございますか」

「この後ですか。まだ早いので、もうしばらくは時間がありますが」

「折角お会いできたのです。よろしければ、少しお庭をご案内いただけませんか?」

「ええ。では、是非」


 私の答えに、ステファンは嬉しそうに微笑む。そしてステファンと共に聖堂を後にした。




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