40.決闘
貴族間の決闘には国王が間に立つことが多いが、今回は私の結婚がかかっている。
そのため、私の代わりに騎士団を挟み、勝利条件や制約事項を定めてもらった。
魔術と武器の使用可、たとえ生命を失うことがあっても意義は申し立てないこと、審判は第一騎士団の団長が立つこと、後で決闘に不備があったと文句が言われないような内容だ。
同意書にステファンとモルガンがサインを行い、決闘に臨んでいる。
決闘当日。
魔術演習場には、多くの貴族が見学に来ていた。
私は当事者として、見学席ではなくステファンの控え室にいる。
ステファンの武装は、オルテンシア国から持参していたというマント付きの鎧に腰に剣を佩いている。
「まさか、決闘でこの鎧を着るとは思いませんでした」
ステファンは苦笑している。
「あなたの勝利を信じているわ。けれど、無理はしないで」
思わずそう言うと、ステファンは首を振った。
「この決闘は私が陛下の夫として認められるために必要なことですから、勝つために無理でもなんでもします」
きっぱりと言い切るステファンが心配でたまらない。
そんな私を見て、ステファンは安心させるように微笑んだ。
「己の得意なフィールドで戦いたいのは誰しも同じです。挑まれたからには、私も全力であなたの隣を守ります。必ず勝って戻ります」
「ええ。待っているわ」
そうして、ステファンは振り返ること無く演習場へと向かう。
既にモルガンは演習場の中央に立っていた。彼もクレモン侯爵家に伝わる赤い鎧を纏っている。
ステファンもモルガンに向かい合うように立つと、第一騎士団長もやってくる。
「本日、クレモン侯爵子息のモルガンとオルテンシア国王子ステファン殿下の決闘を執り行う。双方、この決闘により死傷しても不服はないとする。訴訟はできないが、いいか」
ステファンとモルガンが頷くと、騎士団長は続ける。
「ではクレモン侯爵子息から決闘の宣誓を」
「この決闘に勝利し、陛下の婚約者となることを誓う」
「ステファン殿下、宣誓を」
「この決闘に勝利した暁には、クレモン侯爵家の一門には私達の婚姻を祝福してもらいます」
ステファンの宣誓に、モルガンが馬鹿にしたように言う。
「魔術が使えず魔導などというまがい物をありがたがる国の人間が、純粋な魔術師たる私に勝てるものか」
「クレモン侯爵子息、許可のない発言は控えるように」
黙ったモルガンに、ステファンは続ける。
「祝福していただけないのでしたら、クレモン侯爵家の登城禁止を誓っていただきましょう」
騎士団長が頷き、手を上げる。
「本決闘に武器使用、魔術の使用に制限はない。それでは、双方準備を」
二人は二十歩分離れたところで向かい合う。
「はじめ!」
騎士団長の開始の合図で、決闘が始まった。
合図と同時にモルガンが火球をステファンへと放つ。
ステファンが避けたところで、先日の夜会で見せた炎の龍を三匹作り出した。
「行け!」
モルガンの命令で三匹の炎龍はそれぞれステファンに襲い掛かる。
ステファンは風の刃を作り出し襲い掛かる龍に向けて発するが、炎の龍は風の刃に割かれた後、再びもとの形を取り戻した。
「やはり先日、私の炎を吹き飛ばしたのは陛下のお力か!」
モルガンが絶好調の叫び声を上げ、炎の龍に追撃を命じる。
ステファンは今度は一つの竜巻を作ると、炎の龍を全部呑み込み、火と風の渦が出来上がる。
「コントロールは甘いようだ」
「くそっ」
モルガンは悪態をつくと炎の龍へと魔力を注ぎ、炎が力強く輝いた。だが、同時に竜巻も力を増し、炎は風の拘束から逃れることはできなかった。
「これで終了かい?」
ステファンが言う。
「ならば、次は私の番だ」
炎を飲み込んだ竜巻が、モルガンの方に向かっていく。
「なっ」
モルガンは逃げるが、その逃げた方にもステファンは竜巻を作り出す。
「これほどの竜巻を二つだと!」
予想よりもステファンの実力が高いことに驚いたのは見学に来ていた貴族らも同様だった。
感嘆の声が上がっている。
「だが、当たらなければ意味がない!」
竜巻から風の刃が発せられるのを、モルガンは躱していく。
しかし、何故か次第にその動きは鈍くなっていく。
「これは、何だ……? 体が、しびれ……」
「教えるわけがないだろう」
ステファンは倒れたモルガンに近づくと、剣をつきつける。
「クレモン侯爵子息、負けを宣言しろ」
「お前がいなければ、俺が王配だったのに……!」
悔し気に言うモルガンの喉に剣先がわずかにあたり、血が流れる。
その感触に怯えたように、モルガンは叫んだ。
「私の負けを認める!」
ステファンの勝利に、演習場内を歓声が満たした。




