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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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37.贈り物

 あの夜からステファンとはお茶の時間を取れていない。

 婚約披露のパーティの準備と、宰相不在としていることで、私の公務が増えていた。

 ステファンにどういう顔で会えばいいのかわからないと思っていたのに、いざ顔を合わせる機会がなくなると、ほっとするよりも避けていると思われていないかの方が気にかかった。

 ボードリエ侯爵へも繰り返し訪問の伺いを出しているが、いい返事がもらえない。婚約披露パーティが終わったら、時間を作れる。そうしたら知らせを出さずに訪問しようと計画している。

 そのボードリエ侯爵からは、現在宰相の代わりをしてくれているクリストフに爵位を譲りたいという申請も上がってきていた。クリストフが動きやすいようにだろうとは思うが、私と距離を開けたいようにも見えてしまい複雑だ。

 申請書を持ってきたクリストフに尋ねる。


「侯爵は引退を考えていらっしゃるの?」


 彼は困ったように眉を下げた。


「私が当主となった方が、陛下の助けになるだろうとのことです」

「もう戻ってきてくださらないのかしら」

「……私も大分伝えてはいるのですが、父はこの機会にゆっくりしたいと申しています」

「休暇は認めると言っているのに……」


 苦笑するクリストフにこれ以上言っても無駄だというのはわかっている。

 それに私が彼の役職を据え置いているために少々苦労させてしまっているとも聞いていた。

 ここは私が折れるべきなのだろう。


「いいわ。侯爵の当主変更については承認します。宰相職については、直接ボードリエ侯爵と話すまでは今のままとします」

「ご配慮感謝致します。父にも伝えます」

「ええ。お願いね」


 当主の仕事がある分、クリストフも忙しくなるだろう。だが、権限が大きくなる分、動きやすくなる部分もあるはずだ。



 その日の公務を終え自室に帰ると、ステファンから贈り物が届いていた。

 箱の形からして、ドレスのようだ。

 添えられているカードには、婚約披露パーティで身に着けてほしいとある。


「これは……」


 中を確認すると、そこには、ステファンの瞳の色のサファイアブルーのドレスが入っていた。細身のオフショルダーで、腰に金色のリボンが巻いてたる。靴も入っており、こちらもドレスと同色のヒールで、足首に金色のリボンを巻くようになっていた。


「ステファン殿下は、いつの間に用意していたのかしら」


 呟くけれど、侍女達は微笑むだけだ。

 ステファンだけでは私のサイズのドレスを仕立てるのは無理だ。

 侍女の協力があってのことだとは思うが、いつの間に彼女たちと仲が良くなったのだろう。


「こちらも、ご一緒にと預かっております」


 そうして渡されたのは、見事な大きさのサファイアのネックレスとイヤリングだった。


「こちらにいらっしゃる前に、陛下のためにとご準備されていたようです」


 そんなに前から準備していたのか。


「すごく陛下に似合われると思います」


 確かに、ドレスも何もかもが私のためのものだと感じる。

 ただ、全身でステファンのものだと主張されているようで、落ち着かなくなりそうだ。けれど嫌ではない。


「パーティが楽しみね。殿下に、お礼を贈らないと」


 明日は宝石商を呼ぶように言い、何を贈ろうかと考えるのだった。



 そうしてあっという間に婚約披露パーティの日となった。

 ステファンに贈られたドレスを着て準備は万端だ。侍女達は似合っていると褒めてくれたが、ステファンはどんな反応をしてくれるだろうか。

 いつもよりも緊張しながらステファンの訪問を待つ。

 手持無沙汰で、シンギングバードの小箱を私室に置いていればよかったと思う。

 あの小鳥もステファンに贈られたものだが、いつの間にか手放せなくなっていた。

 ステファンは時間通りにやってきた。

 部屋に入ってきたステファンを出迎えると、ステファンは私を見て息をのんだ。


「……失礼、想像以上にシルヴィア陛下がお美しく、茫然としてしまいました」

「お上手ですね」

「本心ですよ。本日は、陛下をエスコートする栄誉を賜り光栄です」


 ステファンは動揺をなかったかのように優雅に一礼すると、グローブ越しの手に口づけを落とす。


「これから行われるのが私達の婚約披露の場だというのに、できることなら陛下を私一人で独占したいと思ってしまいます」


 どこまで本気かわからないようなことを言う。


「そういう殿下も、本日はいつにも増して素敵です。きっと、会場の女性の視線を集めますわ」

「私が見るのは陛下一人です」


 ステファンの如才ない受け答えに、侍女達が目をきらめかせているのが見える。


「私が送ったネクタイピンも付けてくださったのですね」


 ステファンには、ブルーダイヤモンドのネクタイピンを贈った。

 本当はカフスボタンを贈るつもりだったが、あの日呼んだ宝石商が持ってきた中に気に入る石がなく、一点ものだがこのブルーダイヤが目に留まったのだ。


「陛下のティアラと同じ石だと伺いました。感謝致します」

「殿下のお心遣いに少しでも報いることができればと思いました」


 袖口から見えたカフスボタンはステファンから贈られたのと同じ色のサファイアだった。


「なんだか、とても仲良しな装いになってしまいましたね」


 ネクタイピンとティアラ、私の装飾とステファンのカフスボタンで、さらに私のドレスの色はステファンの瞳の色だ。

 これは恋愛を経ての婚約ではないというのに、とてもそうは思えない装いだ。


「私の心は陛下にあるということを、知ってもらわねばなりませんからね」


 自分の気持ちを自覚してしまった今、どう答えるべきなのか正解がわからない。

 私も同じ気持ちだと言ってしまいたいが、いざ伝えようと思うと言葉が出てこない。

 迷いながらも微笑み返すと、ステファンは私に腕を取るように促した。


「それでは参りましょう」


 私はステファンにエスコートをされながら夜会の会場へと向かった。

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