34.健闘
翌日、人払いをした部屋に、ステファンとブラハシュを呼び出した。
「何か、ございましたか」
一人で現れたブラハシュは、何をしたのだろうと顔色を青くしている。
「まだ表立っては話をすることができないのですが、ブラハシュ殿らのお力をお借りしたいのです」
私が言うと、ブラハシュはほっとした顔をした。
「私どもにできることでしたら、お手伝いできると思うのですが、どのようなご用件でしょうか」
ステファンがレシピの書かれえた紙を差し出す。
「こちらの錬金薬を調合できる人はいるだろうか」
ブラハシュはレシピを受け取ると、ふむ、と考え込んだ。
「なかなか複雑な難しい調合ですね。なるほど、体に負担をかけないよう、人体の魔力生成を抑えるのですか……」
そこまで呟いて、はっと顔を上げた。ブラハシュもリサの件は聞いていたのだろう。
「わかっているだろうけれど、誰が飲むのかは深く聞かない方がいい」
ステファンが言うと、ブラハシュはこわばった顔で頷いた。
「どんな結果になっても、責任は私が持ちます。オルテンシア国や調合していただいた方には非はないとします」
そう宣言したものの、万が一があったとして、私の言葉を家族が冷静に受け止めきれるかはわからない。ブラハシュもそう思ったのだろう。
「…………私が調合するのが一番よろしいでしょう。ですが、私ではこの調合の成功率は八割五部といったところです。それでもよろしいですか」
「調合を失敗しても、責任は問いません」
私が頷くと、ステファンが問う。
「ブラハシュ殿、本当にいいのか?」
「万一があった際を考えると、私以上に適任はいません。それに、陛下の結果の如何にかかわらずお咎めはないというお言葉を信じております」
ブラハシュの言葉に頷く。
「その信頼に、必ず答えましょう」
「では――」
言いかけたところで、扉が開いた。
「お待ちください。錬金薬の調合と聞こえました。私が適任と思います!」
飛び込んできたのはスカーレットだった。
「スカーレット!」
ステファンが咎めるような声を上げる。
「殿下はお呼びしていなかったのですが、どうしてこちらに?」
私の言葉に、スカーレットはうっと詰まった後、理由を口にする。
「今まで、何かあった際には私も呼ばれていました。今回、ブラハシュ技師長だけ呼ばれた理由が気になって、魔道具で話を聞いていました」
「なんということを……」
ブラハシュが、頭痛をこらえるように頭を抑える。
「殿下、それは殿下を巻き込まないようにという、グレイシス国の配慮を無にする行為です」
「でも、技師長の調合では失敗の可能性があるのでしょう。レシピは?」
スカーレットはブラハシュからレシピを奪い取った。
「私にはこの調合、失敗せずにできると思うわ」
「失敗しないと思うなんて、そんな無責任な言葉で、任せられない」
「でも、技師団の中で調合が一番得意なのは私よ。王族というせいで任せてもらえないなら、王族から籍を抜いてもらうわ」
「スカーレット、言いすぎだ!」
「でも、私は、私にできることをしたいの!」
ステファンは断固反対の姿勢を崩さないが、スカーレットは意を唱える。
スカーレットは私に頭を下げた。
「この間のこと、私が迷惑をかけて申し訳なく思っています。だから、この調合、私にさせてください。私が、一番調合は得意です」
ステファンとブラハシュの視線が私に刺さる。
「……スカーレット殿下は、この調合に失敗しないと明言できますか?」
「はい!」
「陛下……!」
ステファンが悲痛な声を上げる。
だが、私も、リサが助かるのなら、少しでも確立を上げたい。
「ステファン殿下、ごめんなさい。万一のことがあっても、責任は殿下に依頼した私が負います。ですので、結果がどうなっても、殿下が責任を負う必要はありません」
「ですがっ」
反論しかけるスカーレットに、私は首を振る。
「このことに納得してくださらない限り、スカーレット殿下にはお任せできません」
「……わかりました」
スカーレットが頷く。ステファンは不服そうだが、一応は納得したようだ。
ブラハシュは力なく項垂れている。
「場所も材料も、こちらで準備しますので、必要な物をおっしゃってください」
スカーレットがよどみなく必要な材料を述べていく。
私自身が書き取り、信頼できる侍女に後を託した。




