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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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33.希望の光

 リサは一旦、王宮の医師に診察させた。

 結果は、よくないものだった。

 生まれ持った高い魔力が成長と共にさらに増え、体の許容量が超えているために起きる魔力過多症。

 多少魔術を使おうと、生み出す魔力の方が遥かに多いため、意味がないという。


「あまり、猶予はないかと思われます」


 そういった医師も、沈痛な表情をしていた。

 聞いていた以上に症状が進んでいて、診断を聞いたローランドにかける言葉をもたなかった。

 お父様は老いて衰えた体が、自身の魔力に耐えられなくなった。それでも、年のせいだと納得はできた。でもリサは。妹のようなリサが、そのようなことになるなんて、とても受け止められない。

 普段リサを診ている侍医も呼びにやったが、おそらくは彼の診断も変わらないのだろう。

 その重さが伸し掛かる。

 ローランドは、リサについているという。

 私は彼と別れ自室へと戻った。



 窓の外は、夕暮れに染まっている。

 リサの手当てや診察で、思った以上に時間が経っていたようだ。

 侍女には席を外すように願い、ソファに座ると暗くなっていく空を眺めた。

 女王として、何があっても揺らいではいけない。

 そう心に決めていたはずなのに、リサと永遠の別れが迫っていると思うと平静でいられなかった。


「どうしてリサだけが……」


 代わることができるならば、代わりたい。

 溢れてくる涙をハンカチで抑えるものの、なかなか止まらなかった。

 どのくらいそうしていただろうか。

 控えめに扉がノックされ、侍女がステファンの来訪を告げる。

 断ろうと思ったが、今までステファンが自室に訪れたことはないと思い直した。

 緊急の要件かもしれない。

 私は侍女に簡単に目元を整えてもらい、ステファンの待つ部屋へと向かった。



 ステファンは私を見て、一瞬目を見張った。

 目元は何事もなかったかのように整えたものの、目は赤くなっているのだろう。

 何かを言われる前に、私は来訪の理由を問うた。


「こんな遅くにどうしたの?」

「内密に話をしておきたいことがあるんだ」


 ステファンの言葉に、侍女に目をやる。

 婚約者とはいえ流石に自室に二人きりで籠るわけにはいかないので、扉は少し開けたまま侍女には外に出てもらう。

 そうして、ステファンの口から紡がれたのは驚くべき話だった。


「まだ試薬の段階だけど、魔力過多症の錬金薬のレシピがあるんだ」

「え……?」


 ステファンの言葉が理解できず、私は問い返した。


「薬のレシピって……?」

「先日お見舞いにいった時から、リサ嬢の症状が気になっていたんだ。それで勝手だと思うけれど、前に話した友人の錬金術師に兄上経由で手紙を送って、薬を作ってもらえないか依頼していた」

「どうして、言ってくれなかったの」

「できるかどうかもわからなかったんだ」

「それで、レシピができたっていうのは……」

「完成し、向こうで試した結果、命にかかわる副作用は出ていないそうだ」

「なら、その薬を飲めば……!」


 顔を輝かせる私に、ステファンの表情は暗い。


「二つ、問題があるんだ」

「それは?」

「僕の魔術では、手紙以上に重いものはやり取りできないんだ。だから、レシピを送ってもらった。これを元に、こちらで錬金術で同じものを作る必要がある」


 錬金術は、魔術とは似た分野だが、異なるものだ。素人が作ろうとして簡単にできるものではない。


「レシピを見せてもらってもいい?」


 ステファンが差し出した紙を受け取り、材料を確認する。

 高価な材料が含まれているが、王宮に揃えている材料で足りそうだ。

 しかし、調合については、素人ができるような物ではないということが読み取れるだけだ。


「オルテンシア国から送ってもらうわけには、いかないのよね」

「この国まで、最低一ヵ月はかかるよ。僕はこちらで材料を揃えて、ブラハシュ殿らの一行に、作ってもらう方がいいと思う」


 吐血もしているのだ。リサの体は、到着を待てないだろうと思い至った。

 それしかないだろうと結論した私に、ステファンは続ける。


「もう一つ。こっちの方が問題かもしれない。この薬を飲むと、おそらく魔術が使えなくなる」

「魔術が使えない……?」

「この薬は魔力を作る力を極端に弱めるものなんだ。リサ嬢の魔力も、なくなってしまうと思う」


 ステファンは、私の反応を見ながら続ける。


「それと、あちらでは、リサ嬢のように豊富な魔力を持った人がいない。だから、試験で飲んでもらったのはわずかにしか魔力を持たない人だった。その人は魔力が生み出せなくなった」

「その薬の効果は、一度飲んだら変えられないの?」

「そう聞いているよ」

「薬を飲んでもらうかどうか、私だけでは決められない。デュフォ公爵とリサとも話してみないと」


 この国で魔術が使えないというのはすごく生きづらいだろう。でも、命が助かるのだ。私は、ステファンが用意してくれた希望にすがりたい。

 もう一つ、気になったことを聞く。


「その。試験に協力してくれた人は、魔力がなくなってこれから困らないのかしら……?」

「オルテンシアでは、魔力を持たない人の方が普通なんだ。だから大丈夫だよ」


 ステファンが、微笑んで頷く。そのことに、少しだけほっとした。


「ブラハシュ殿らが調合を引き受けてくれたら、二人に話すわ」

「わかった。僕も同席していいかい?」

「もちろんよ。ステファン、ありがとう」


 今日は面談をするのにもう時間が遅い。明日、話をすることにして、ステファンと別れた。

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