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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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30.暴走事件

 現場に着くと、第三騎士団による救助と避難誘導が行われていた。

 一番奥の部屋は扉が吹っ飛び、黒い煤が扉の外側に飛び散っている。

 その部屋の二つ手前の部屋から、騎士が担架にブラハシュを乗せて出てきた。

 駆け寄ると、ブラハシュは爆発に巻き込まれ、衣類は焦げているものの、意識ははっきりしているようだ。


「シルヴィア陛下、申し訳ありません……」

「怪我しているところ悪いけれど、スカーレット殿下は?」

「おそらくは、まだ爆発のあった部屋にいらっしゃいます」

「あそこに……」


 再度の爆発はないものの、魔力が暴走しているのが見て取れる。

 魔力が発するあまりの圧に騎士も近寄れないようだ。


「何が起きたのかは後で聞くわ。まだ魔力が渦巻いていて、近寄れないの。どうしたらいいか、あなたにはわかるかしら」

「……魔鉱石に込めた魔力が暴走しています。魔鉱石に入っている魔力を使い尽くせば、暴走は収まるはずです」

「あの魔力は魔鉱石に誰かが込めたものなのね」

「はい……」

「わかったわ。この場は私がなんとかするから、ブラハシュに手当てを」

「陛下、危険です!」


 ドミニクが言うが、首を振る。


「私以上に、魔力を扱える者はいないわ。ドミニク団長は、私があの魔力を始末した後スカーレット殿下の救助をお願い」


 魔力を込めた本人が力を引き出し使う方が負担は少ない。だが、その誰かがスカーレットだと言うなら、私がするしかないだろう。

 ドミニクが渋々頷く。

 私はその場で意識を集中させると、自分の魔力を、暴走し溢れかえる魔力に絡ませ馴染ませていく。


「……っ」


 自分とは性質の違う魔力だ。

 気を抜くと、反発してくる。だがここで手を離せばさらにひどい爆発を呼ぶだろう。

 暴れる魔力を意思の力で抑え込み、私に従うようねじ伏せる。


「我に従い、形を成せ!」


 溢れかえる魔力は霧散できる量ではない。

 魔鉱石からあふれ出る魔力を引き出せるだけ引き出すと、窓の外に向け解き放った。


「……うまくいったようね」


 外を見ると、晴天の中ひらひらと雪が舞っていた。

 淡雪は日差しを浴び幻想のようにきらめき、地に落ちると溶けて消えていく。

 春の日差しの中雪の降る光景は、この状況がなければ美しい。

 魔術がうまくいったことを見届け視線を戻すと、爆発のあった部屋に突入したドミニクらがスカーレットを救助して出てくるところだった。

 スカーレットは意識がなく担架に乗せられているが、どこも傷ついてはないようだ。魔力が胸のブローチに集まっており、守護の魔術の気配が残っているため、何か身を守る魔道具を持っていたのだろう。


「殿下は?」

「衝撃で気絶されているようです。詳しくは医師の判断の後になりますが、私が見た限りは怪我はありませんでした」


 詰めていた息を深く吐く。

 これでスカーレットに何かあれば問題となるところだった。


「早急に医師に見せてください。後のことは任せます。私は一旦戻ります」

「かしこまりました」


 スカーレットにはオルテンシア国の技師と女性騎士が付き添い運ばれていく。

 他の者の救助は終わっているようで、残った騎士は爆風で飛び散った王宮の破片の片付けを行っていた。

 私も魔力を使いすぎたようだ。休息のためその場を離れることにする。

 振り返ろうとしたところで、体がふらついた。

 横からそっと支えられ、思わぬ人物に驚きの声を上げる。


「……ステファン?」

「こちらで爆発音が聞こえたから僕も様子を見に来たのです。ずっと見ていました。スカーレットを救ってくれてありがとうございます」

「殿下は身を守る道具をお持ちのようでしたわ」

「一度目は耐えたようですが、二度目の爆発があればどうなっていたか……。それにスカーレットだけでなく、オルテンシアの民も守ってくださいました。感謝しています」


 真剣な瞳に見つめられ、私は思わず憎まれ口をたたく。


「……爆発音が聞こえたなら、様子を見に来るのではなく、逃げてください」

「それは、そうですね。今後は気を付けます」


 まさか小言を言われると思わなかったのか、ステファンは目を見開いた後、柔らかく微笑む。

 不快にさせたかと思うものの、どうやらそうではないらしい。


「心配してくれてありがとう」


 声を落として言われた言葉に、私は曖昧に頷いた。

 ステファンが私の憎まれ口を悪意なく受け取ってくれるところは美点だが、どうにも慣れなかった。


「もう、一人で立てますわ」

「休まれるのでしたら、部屋まで送りましょう」


 支えてくれた手を外してほしかったが、ステファンは首を振る。

 そうして、ステファンに送られて私は部屋に帰った。

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