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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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28.技師の帰還

 技師とスカーレットらの到着は、その日の午後のことだった。

 帰還した彼らとの面会に向かう。

 謁見室では疲労をにじませたブラハシュと、彼とは反対にとても元気そうなスカーレットが待っていた。


「シルヴィア陛下におかれましては、本日もご機嫌麗しく存じます」


 ブラハシュの挨拶の後、スカーレットが淑女の礼をする。


「二人とも、楽にしてください。ブラハシュ殿、ノマス領の問題はどうなりましたか」

「スカーレット殿下のご活躍で、新カメル橋の設計については目途がつきました。後日、清書したものを提出致します。また、ステファン殿下が発見された石についてですが、魔鉱石でお間違いないかと。上流で鉱脈を発見しました。調査の結果を記したものを、こちらも後日提出致します」

「わかりました」

「また、もう一点。今回の調査で、魔鉱石と共に非常に珍しい石が見つかりました」


 スカーレットが、うやうやしく鉱石を差し出した。受け取ったものの黒銀色の黒い塊にしか見えない。


「これは?」

「聖銀石とも呼ばれるミスリルの原石です。この石を精錬し不純物を取り除くことで、世に出ているミスリルのような銀色となります」


 ミスリルの原石を見るのは初めてだった。ミスリルは魔術とも魔導とも相性が良く、魔鉱石よりはるかに価値が高い。

 聖銀石が出る鉱山自体も数が少なく、金の数倍の値段で取引される。


「これは、魔鉱石と共に出たと言いましたね。具体的にはどの辺りで出たのですか」

「ステファン殿下が魔鉱石を発見されたアンテンス川上流の崖近くで見つけました。魔道具による調査で、魔鉱石と聖銀石の鉱脈は近くにあるというのはわかっております」

「なるほど。では、魔鉱石を掘るとなると、聖銀石も取れるということですね」


 ブラハシュがその通りだと頷く。


「この件は、広めない方がよいと判断し、調査を行った者には箝口令を敷いています」

「助かります。ちなみにこの件はトマス殿には伝えているのですか」

「いいえ。陛下のご判断が優先されると考え、お伝えしておりません」

「わかりました。どのようにするか考えますので、まだ話を広めないようにお願いします」

「かしこまりました」


 一通り聖銀石については話が終わったようなので、他に報告がないかブラハシュに尋ねる。


「他に何か報告はありますか」

「その、今回持ち帰った魔鉱石を一部頂いてもよろしいでしょうか」


 ブラハシュは言いにくそうに言う。


「理由をお伺いしても?」

「魔力を通したところ、今まで扱ったことのある魔鉱石とは質が違うようでした。もう少し詳しく調べたいのです」

「そういうことでしたら、許可しましょう」

「ありがとうございます」


 ブラハシュもスカーレットも嬉しそうだ。


「では、お二人ともお疲れでしょう。ゆっくりと休んで下さい」


 そうして、謁見室を後にした。



 執務室に戻ると、侍女にお茶を頼む。

 待っている間、シンギングバードが歌う姿を眺める。

 魔鉱石を掘るとなれば、ミスリルの原石も出る。その後が問題だった。

 今までは他国とは没交渉を貫いていたが、ミスリルが取れるとなるとそうも言っていられないだろう。

 当然、私は干渉は撥ねのけるし、この国を守るのに全力を尽くす。

 ただ、次の王はどうだろうか。

 まだ生まれてもいない我が子――もしくは、ローランドやリサの子供に、その重荷を背負わせるのか。


 考え込んでいたところで侍女が、お茶を静かに差し出してくれた。

 礼を言い、カップに口をつけ、思考をまとめる。

 薫り高いお茶は、沈みそうになる考えを切り替える助けになった。


 調査を行ったのはオルテンシア国の者だ。この国にいる間は箝口令は守られても、彼らの本来の主であるオルテンシア国の王に対しては彼らの沈黙は期待できない。いずれ、漏れると思った方がいい。

 ならば早く体制を打ち立て、他国に干渉されないようにしてしまえばいいのだ。


「ボードリエ侯爵は、安易に調査を命じるからだと言いそうね」


 知らなければ、狙われようもなかった。まさか、ミスリルの原石も埋まっているなんて思いもしなかったのだ。

 だが、現実には調査はなされ、結果が出たのだ。私にできることは、現実をしっかりと見据えて今後に対応することだ。

 方針を決め、今後どうするかの素案をメモに書きだす。

 一通り思いつくことを書き出したところで、一息ついた。精査は時間を置いた方がいいだろう。

 そうしたところで、侍従がステファンの来訪の知らせを持ってきた。

 そういえば、今日はお茶を約束していた。

 私は書類を片付けると、席を立つのだった。

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