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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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26.デート2

 何曲踊っただろうか。

 いつまでも踊っていたかったが、広場に人が増えてきたこともありステファンに目で合図して輪の外に出る。


「そろそろお腹がすかない?」

「そうだね。何か食べようか」

「だったら、いいお店があるの」

「任せるよ」

「こっちよ」


 先程まで共に踊っていた気安さからステファンの手を取ると広場を進んだ。

 けれど、広場を出る前にステファンが並んでいる屋台の一つに目を留めた。


「ヴィ、あれはなに?」


 見ると、屋台の端に吊り下げられたサンキャッチャーに光が反射し、石畳みの道に虹色の光を投げかけていた。

 その屋台は小さな天井から鈴なりにチャイムが釣り下がっている。それらは風に揺られ涼やかな音色を立てていた。

 広場で奏でられる音楽に混じり、不思議と心地よい音色だ。


「ウィンドチャイムの屋台ね。あっちにはなかったの?」

「あんまり見なかったな。ちょっと寄っても?」

「いいわよ」


 ステファンと共に屋台に向かった。

 ウィンドチャイムは風鈴の一種で、長さの違う円柱系の金属管を何本かまとめて吊るし、中央に周囲の金属管にぶつかり音色を鳴らすための丸い金属が下がっている。飾りとして音を鳴らすための金属からさらに糸が伸び、その下にクリスタルや木で作った小さな動物が下がっていた。


「綺麗な音色だね」


 屋台の店主は冷やかしだと思ったのか興味なさげにこちらをちらりと見た後、屋台の側に置いてある椅子で新聞に視線を戻した。

 ステファンは構造に興味があるようで、ウィンドチャイムを見ながらぶつぶつ言っている。


「――長さを変えてるから音色が複層的に響くのか」

「気に入ったの?」


 尋ねると、ステファンはハっと気が付いたように私を見てはにかんだ。


「こういう物を見ると、つい構造が気なってしまうんだ。気を悪くしたかい?」

「どうして?」、

「デートなのに情緒がないことを言ってしまった」

「そんなこと気にしないわよ。ステフのことを知れて嬉しいわ」

「あ、ありがとう」


 ステファンは目元を赤くして視線をそらした。


「……これ、スカーレットにも見せたいな」

「喜ぶと思うわ。窓際に吊り下げても、ドアベルにしてもいいみたいよ」

「一緒に選んでくれるかい?」

「もちろん」


 ステファンと共に屋台に吊り下げられたチャイムを一つ一つ吟味する。


「動物なら、ウサギや小鳥がかわいいわ。でも、クリスタルのキラキラした物も素敵ね。彼女の好みはどちらかしら」

「うーん、どっちも好きだと思うけど、ウサギにしよう」

「どうして?」

「小鳥は、僕のにするから。ヴィにあげた小鳥とお揃いだね」


 小鳥とは、シンギングバードのことだろうか。

 ステファンは店主を呼び、小鳥とウサギの下がったウィンドチャイムを包むように言った。



 思わぬ寄り道をしたが、その後はまっすぐ食事処へと向かった。

 目指す店は広場から通りを進み、横道に一本外れたところにある。店の前には季節の花の鉢植えが並んでいた。

 入り口前の階段を上り店内に入ると、ドアベルが澄んだ音を鳴らした。


「いらっしゃい」


 カウンターの中にいる店主が言う。

 店内はむき出しの木の壁に風景画が飾られていて、テーブルは緑と青のチェック柄のクロスが覆っていた。

 まだ混む時間には早いようで、空いている席の方が多い。

 私達は窓際の席に案内された。


「ここにはよく来ていたのかい?」


 声を落としたステファンが尋ねる。


「ええ。お父様と」

「思い出の店なんだね」


 話をしていたところで、給仕の手によりメニューが置かれ二人で眺める。


「メニューがたくさんあるね。おすすめはある?」

「私はここのグラタンが好きなの。今日もそれに決めているわ」

「じゃ、僕もグラタンにしよう」


 メニューが決まった所で、ステファンが給仕にグラタンを二人分注文した。

 待っている間にステファンが言う。


「今日は楽しかった。ヴィ、案内してくれてありがとう」

「少しでもこの国を好きになってもらえたかしら」

「もちろんだよ」


 ステファンが微笑む。


「そういえば、広場でこの国では冬の間に音楽を楽しむって言っていたけれど、ヴィは何か楽器は嗜んでいるの?」

「私はフルートを。お父様がヴァイオリンで、お母様はピアノが得意だったみたい。ステフは?」

「ピアノは簡単に習ったけれど、随分弾いていないから指が動くかどうか……」

「練習するなら、音楽室を使っていいわよ」

「ヴィと合奏できるようになったら楽しいだろうし、魔術の練習が落ち着いたら練習してみるよ」

「ええ。ぜひ。冬になってからでも遅くないわ」


 話しているうちに、グラタンが運ばれてきた。

 焼きたてのようで、平たい楕円の皿の縁についたチーズがまだグツグツとしている。

 セットでついているパンとサラダと共に、時間をかけて食すのだった。


 それから、食事の後も少しだけけ町を散策し、私達は明るい時間に王宮へと戻った。

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