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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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25.デート

 馬車を降りると王都の喧騒が肌で感じられる。

 石材よりも木材が豊富だったことから、王都の町並みは木造の家が多く、緑の屋根が特徴的だ。御伽話に出てくるような可愛らしい町だ。

 ステファンを案内するにあたり、どこを案内するか考えてきている。ステファンならどこに連れて行っても喜んでくれそうだが、せっかくなら楽しんでもらいたい。


「まずはこっちよ」


 案内したのは、町の広場だった。

 中央に花時計が作られて、その前に簡易の舞台が作られている。舞台の周りには観覧用の席が設けられていて、既に人がちらほら集まってきていた。人出を期待して、広場の外周にそって屋台も立ち並んでいる。


「もう少ししたら、町の人の手による演奏会が開かれるわ」

「演奏会?」

「ええ。この国は冬が長いでしょ。だから冬の間に家の中で音楽を楽しむようになったんだけど、冬の間練習した曲が上手くなれば披露したくなるじゃない?」

「そうだね」

「それで、日にちを決めて広場を開放しているの。演奏したい人は王宮に申請して舞台に出る順番を決めるんだけど、結構飛び入りも多いみたい」

「へぇこういう催しが普段からあると、賑やかでいいね」

「ええ。町の活性化につながっているわ。そうだ、何か飲む?」


 ちょうどジュースを扱った屋台があったので、ベンチに向かう道すがら尋ねる。


「折角だし飲んでみようかな」


 屋台の前に行くと林檎だけではなくベリー系のジュースも扱っていた。それを見てステファンは少し考えている様子だ。


「何に悩んでいるの?」

「リンゴジュースが気になったんだけれど、このベリーのジュースも気になっていたんだ。でも折角だし、ここはリンゴジュースにしようかな」

「では、店主さん、ベリーと林檎のジュースを一つずつくださいな」

「はいよ!」


 店主が二人分のジュースの準備に入ると、ステファンが物言いたげな顔をした。


「ヴィ?」

「ベリーも気になるんでしょ。私のを一口あげるわ」

「嬉しいけどいいの?」


 話している間に、ジュースの準備が終わっていた。


「べっぴんの嬢ちゃん、支払いは銅貨5枚だ」


 店主の言葉に財布を出そうとすると、ステファンが慌てて言う。


「あ、店主! 支払いは僕がする!」

「あら、いいのに」

「今日つれてきてくれたお礼だと思って受け取って」

「なら、遠慮しないわよ」

「どっちが払うか決まったか?」


 店主が、私達を呆れたような目で見ていた。


「失礼、待たせたな」


 ステファンが店主に支払い、ジュースを受け取る。


「飲み終わったら空いたコップを持ってきてくれ」

「あぁわかった。はい、ヴィの分」


 ジュースを差し出され受け取ると、ベリージュースにはラズベリーやブルーベリーが浮かんでいた。


「凝ってるなぁ。飾りもついているんだね」


 ステファンの方を見ると、リンゴジュースには薄切りにしたりんごの飾り添えられている。


「ええ。美味しそう。ステフ、ありがとう」


 そうしてベンチへと向かった。



 舞台では丁度演奏者の準備が終わった所のようだった。

 まずはギターとハーモニカ、アコーディオンの三重奏のようで、中年の男性二人と少年の三人組が楽譜立ての高さを調整している。


「演奏に間に合ったみたいね」


 ベンチに座るとベリーのジュースをステファンに差し出す。


「お先に一口どうぞ」


 礼の言葉と共にステファンが私が持ったジュースのストローをひょいっと口に含む。


「おいしいね!」

「ステフ……?」


 驚いて名を呼ぶとステファンは私が林檎ジュースを欲していると思ったのか、ジュースを差し出す。


「あ、ヴィも一口どうぞ」


 気にした様子のないステファンにここで私が気にしたら負けのような気がして、私もステファンの手からジュースをもらう。


「あら、こっちもなかなかね」

「へぇ飲んでみよう」


 ステファンが自分のジュースを口に含み、うん、と頷く。


「ヴィの家で飲んでる物より野趣があって、これはこれで美味しいね」

「ベリーのも、甘いけれど爽やかな口当たりで好きな味だわ」」


 そうしている間に演奏が始まった。

 祭りなどの時によく演奏される賑やかな曲で、素人ながらも上手な演奏だ。

 他の観客が手拍子を送り、ノリがいい者は踊りだす者もいた。貴族の形式ばった踊りではなく、みんな好き勝手に体を動かしているようだ。

 演奏は一曲目が終わりそうなところでアレンジが加わっていて継ぎ目なく次の曲に移っていく。


「ヴィが飲み終わったら、僕達も踊らないかい?」


 いつの間にかステファンはジュースを飲み終わっていた。


「いいわよ」


 私も残っていたジュースを一気に飲み干す。


「先にコップを帰してくるよ。ここで待っていて」

「いいわ。一緒に行く」


 ステファンにと共にコップを帰しに行き、そのまま踊りの輪に加わる。


「麗しいお嬢さん、僕と一曲踊ってください」

「もちろんよ。男前のお兄さん」

「ヴィに言われると、なんだか照れるな」

「あら、私だって照れるわ」

 笑いながら踊りに加わり、二人で肩肘の張らない踊りを楽しんだ。

 気が付くと、三重奏には飛び入りのバイオリンの演奏が加わっていて、四重奏になっていた。

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