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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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24.町へお出かけ

「おかしくはないかしら」


 今日はスカーレットが来る前にステファンと約束していた王都に出かける日だ。

 目立つ銀髪を茶髪に魔術で変えると、侍女がドレスと同色のリボンで編み込んでくれた。

 用意されていた服は若草色の生地に白い花模様が刺繍された動きやすいドレスだった。

 普段とは異なる可愛さに比重が置かれたドレスは、編み込みと相まって少々気恥ずかしい。

 これまでお忍びで出かけた時はもっと地味なドレスだった。ステファンがいるからだろうか。

 着付けてくれた担当の侍女は、お似合いですと満足げだ。

 そうしている間に、ステファンとの約束の時間になっていた。


「ステファン殿下がいらっしゃいました」

「では、少し部屋で待つように伝えて」


 侍女の取次に答える。もう準備は出来ていたが、もう一度鏡で全身を確認してからステファンの前に出る。


「シルヴィア! いつも麗しいが、今日はまるで春の妖精のように可愛らしいね」


 そういうステファンも、髪を濃い目の茶色に変えていた。

 服装は白シャツに緑のトラウザーズ、そこにジャケットを羽織っている。若い貴族の子息といった格好だ。


「ステファンも、そういう髪色も似合うのね」

「ありがとう。シルヴィアに言われると嬉しいよ」


 ステファンがはにかむ。


「町では、ヴィと呼んで」

「では、僕はステフと呼んでもらおうかな」

「ほとんど変わらないじゃない」

「だって、ヴィが僕以外の名を呼ぶなんて、嫉妬しそうだから」


 拗ねたようにいうステファンに、私は頷いた。


「仕方ないわね。わかったわ」

「ありがとう。では、僕の妖精さん、出かけようか」


 ステファンの差し出した腕を取って、出発した。



 町までは馬車で行く。

 流石に王家の紋章が入った物は使えないので、無紋だがそれなりに豪華な仕立ての馬車だ。


「これまでは、誰と町に下りていたんだい」


 ステファンが尋ねる。


「お父様よ」

「前王陛下と?」


 驚くステファンに、私は頷く。


「国民を知ることも、大事なことだと言われていたわ」

「それはわかるけれど、王位継承者と現国王が一緒に外出なんて、よく許されたね」

「護衛達には心配させたかもしれないけれど、お父様もかなりの使い手だったし。そういえば、一度、ボードリエ侯爵に反対されたこともあったわね」

「それで、その時は取りやめになったのかい?」

「いいえ。自国の民を信じずに何を信じるんだってボードリエ侯爵に仰って、気にせず二人で出かけたわ」


 ステファンは何とも言えない顔をして眉を下げた。


「どちらの気持ちもわかるだけに、何とも言えない……」

「あら、ちゃんとその時は侯爵にお土産を買っていったわ」


 言い添えると、ステファンはさらに眉尻を下げた。


「ヴィは御父上に似ているって言われない?」

「あら。よくわかったわね」

「やっぱり」


 ステファンが苦笑する。

 いつの間にか馬車は動き出し、外門に向けて走っていた。

 これからこの国の王都は案内するが、ふとステファンの暮らした国についてはあまり知らないと思い至った。


「ところで、オルテンシア国の王都はどんな感じなの?」

「そうだね。結構可愛らしい町かな。王宮は町の中央にあって、城の周りに町が広がっているんだ。門を出ると大通りがあって、家の壁が赤や黄色に塗られていて、いつもお祭りみたいに賑やかで外国からのお客様には人気があるよ。後は錬金術通りっていう小路があって、役に立つ道具から効くのかどうかもわからない怪しげな薬まで、雑多な物が沢山売られているんだ」

「錬金術通り? よく行っていたの?」


 ステファンから馴染みのない言葉を聞き、私は聞き返す。


「そうだね。兄上やスカーレットの願いを叶えるのに、そこじゃないと手に入らない物が結構あってよく探しに行ったよ。腕のいい錬金術師と顔見知りになるまでは騙されたり、大変だったな」


 私が知らないステファンの故郷の話は楽しいのに、なんだか少しもやもやとしたものが心の中に溜まる。ステファンはそんな私の様子に気が付いていないのか、私に微笑みかける。


「けど、それからは困ることなんてなくて、楽しいことばかりだったよ。面白い人だったな」

「面白い人?」

「うん。仲良くなった錬金術師は人嫌いでね。人に会う用事があると少しでも不快感が減るようにって、人が猫に見える薬を作ったりしていた。他には世の中には惚れ薬なんてものがあるんだから、その反対があってもいいはずだって、人に嫌われやすくなる薬を開発したり。面倒な客が来たときに丁度いいって言っていたよ。面白いよね」

「その薬、自分で飲むの?」

「そう。自分で飲むんだって」

「その、ステフの知り合いを悪く言うつもりはないんだけれど、変わった人ね。でも嫌いじゃないわ」

「自分が不快感を感じなければ、他の人や世の中がどうでも気にする人じゃなかったんだ」

「ステフはどうやってその人と仲良くなったの?」

「それはね――」


 ステファンが答えようとしたところで、馬車が止まった。

 外を見ると、お忍びの時に使う町の端にある宿屋の前だった。


「着いたようだね。では、続きはまた今度話すよ」

「ええ。また聞かせて」


 ステファンの話は気になったけれど、馬車の中で話し続けるわけにもいかない。

 私はステファンにエスコートされて馬車を降りた。

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